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駅前の商店街を脇道に逸れ、裏側に回る。昼間すら陽の当たらないじめじめしたいつもの帰り道を通る途中、

「にゃあ」

と言って俺の前に現れたのは、年の頃なら一才になるかならないか、端正な顔立ちに、つややかなシルバーの毛並み、不安そうに揺れるかぎしっぽ。
こっちを見るそのブルーグリーンの瞳もいささか濡れているような……

「なんだおまえ、野良のくせにやけにきれいだなぁ」

そう言って俺は目の前にいるそいつを見下ろす。
目があったままピクリとも動かないねこに、こちらも動揺してしまい、どうもねこの扱いは分からないんだったと思い直す。
イタメシ屋の厨房からだろうか、ニンニクの良い匂いが香ってきて、ついビニール袋を持つ右手に力が入る。

「腹へった・・・・。お前もこれから晩飯か?」

物を言わぬねこの、大きな瞳が更に大きくなり俺を見つめる。
社会人になり家を出て今年で三年。
ついにねこ相手に話しかけるようになってしまった。

「やばいやばい」

1人ごちて目線を帰り道に戻した隙に、シルバーの美しい毛並みは、勝手口の方へ逃げていった。








帰宅すると軽くシャワーを浴び、冷蔵庫から発泡酒を取り出して、デパ地下のタイムセールで仕入れた惣菜で晩酌をするのが常だ。
今日も例にもれず、マグロの刺し身に、あじのたたき、焼きししゃもを袋から取り出して準備にかかる。温めなおしたししゃもにマヨネーズをつけてまるかじりしながら、今日の献立はさながら、ねこにでもなったみたいだなと思う。

――そういやさっきの、きれいな野良だったな。ねこでもあんな不安そうな、まるで迷子ですって顔をするもんなんだな……。







迷子?!




なぜ勝手に野良だなんて思ったんだろう。あの目はどうみても――




気が付いたら俺は先ほどのねこを見つけた路地まで走っていた。


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