また会える日まで
さん
声が聞こえた。
『君はいつも雨が降っていると傘をかしてくれるから、恩返しに願いをかなえてあげるよ!』
願い……?
もしかしてあの地蔵……?
『そうだよ!きみが昨日、大人になりたいって言ってたでしょ?だから、少しの間だけだけど、大人になって好きな人に会っておいで!!』
大人になる……
『うん!君の姿はちょうど10年後くらいの姿だよ!』
20歳…
でもなんで神社にいたのか、
『あー、それは僕の力が小さいから、あの神社の神様に手伝ってもらったからかなあ…』
へえ……
これは夢だろうか。いや、夢だろう。
起きたら自分の部屋にでもいるんじゃないか?
『起きたらびっくりするよ!そしたらきっと君は信じてくれる。』
うーん…そーかな…
『あ!子供になるまでの期間は日曜日の朝までだから!』
どういうこと?
『本当は一週間くらい大人でいさせてあげたかったんだけど…僕にはそんなに力がないし、それに君の親も心配するでしょ?』
…うん、
『でもこの土日は二人とも旅行みたいだし!』
え、そうなの?
『うん!都合がいいよね!』
ああ、うん…
『だって僕がそうさせたんだもん!』
え?
『ま、そういうこと!あ!そろそろ時間がないから!!最後はまたあの神社に戻ってきてね!じゃあ!』
それだけ言うと声は消えていった。
ずいぶん慌ただしいなあ、
***
目を開けると白い天井があった。
暖かい布団に包まれ、ベッドの上でどうやら寝ているらしい。
周りを見てみると、机、棚、以外にはなにもないような、すっきりとした部屋だった。
俺の部屋じゃない。
だとすると、あの地蔵の声はほんとうということだろうか……
ここは……誰の…
思い浮かぶ人を思い出して、はっとするとベットから飛び降りて、部屋のドアを開けた。
「あ、起きたか。もう熱はなさそう?だな。」
ドアを開けると波留先生の姿が見えて、思わずぎゅっと抱きついてしまった。
「?!うわっちょ、おまえ、」
慌てて俺を引きはがそうとするが、大人になった俺のほうが力が強いのか、もぞもぞと動くだけで、何の抵抗にもならなかった。
波留先生は小さかった。
いや、決して小さくはない。
確か172、3はあるんじゃないか?
でもそれよりも大人になった俺のほうがでかかったみたいだ。
だからすっぽりとはまる大きさの波留先生は抱き心地がいい。
嬉しい、嬉しい、すごく嬉しい。
「は、離せよ、」
「いやだ、もう少しこうさせてよ。」
「………な、はあ………別に、いいけど…………」
「うん」
普段見れない慌てた波留先生の表情を見ながら、俺はふっと笑った。
小学生の俺がいつも抱きつくと、兄になついて抱きついている子供にしか見えなかった。
だけど今は違う。
しっかりと波留先生を抱き締めることが出来るし、目線だっていつもの胸辺りじゃない。
ちょうど先生が少し見上げるくらいの高さでなんか嬉しかった。
そろそろ苦しそうなので、名残惜しくも波留先生をゆっくりと離した。
「……………」
「……………なあ、お前、まだ熱あるんじゃねーの?急に抱きついてくるし、」
「……………」
ああ、そうかもなあー
「神社でなにしてた?」
「…………寝てた」
「家は?」
「…………」
「携帯は?」
「………今ない」
「何歳?」
「………20、」
「俺と同じくらい?」
「…………、うん」
「名前は?」
「ひろ…」
「え?」
「ひろと」
「………え?」
波留先生は綺麗な目をぱちくりさせて驚い
た。
そしてじー、と顔を見つめてくる。
「似てるなあ、」
「………?誰に?」
「いやー、俺、塾のバイトやってて、お前とまったく同じ名前の生徒がいてさ、雰囲気も何となーく似てたからまさか名前も同じでビックリした。」
ああ、あってるよ、波留先生。
目の前にいる俺はその小学生の大翔、
塾の大翔も目の前にいる大翔も同じ。
「俺は島崎波留、大学1年だ。」
知ってる
「お前家は?」
「…………家出してきた。泊めて」
「おま、図々しいな………」
「………泊めてよ。野宿させるつもり?」
「………」
「ねえ、」
困ったようにしばらく波留先生は考えると口を開いた。
「………わかった、いいよ。しゃーねーな、少しの間だけだ」
「うん、ありがとう、波留。短い間だけどよろしく」
別に先生なんてつけなくていいよね、
波留先生?
「ああ、大翔」
いつものように"ひろ"と呼ばれるのではなく、"ひろと"と呼び捨てにされて、自然と頬が緩んでいた。
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