その二
もうすぐ誕生日を迎える青雉と七つのお願いを聞く約束をした名前。
そんな彼女は、ふと気になっていたことを青雉に尋ねてみた。
「そういえば大将って、今年でいくつになるんですか」
「ぎく」
「ぎくって何ですかぎくって」
「そういう名前ちゃんは今年いくつになんのよ」
「うーん。私も孤児なんでその辺あんまはっきりしてないんですが、多分生まれた年はオハラの件辺りですかねぇ」
「じゃあ二十歳前後ってとこか」
「そうですね。大将はあの頃はもう中将でしたか」
「うん。まあね」
「じゃあ、その時点で結構いい年齢だったんですね」
「そうだなァ(だから自分の歳言うの嫌なんだよね…)」
名前とは、世代が違うほどに年齢が離れていることは、自分でもわかっている。
だからこそ、彼女との年齢差をはっきりと自覚する自分の誕生日は、正直そんなに楽しみでもないのだ。
けれど、自分のことで悩んでいる名前を見たときは嬉しくて……せっかく彼女が祝ってくれるのなら、そこらの海兵と同じようにただプレゼントを貰って終わり、というのも何かもったいなくて(もちろん彼女からもらえるものなら何でも嬉しいのだが)、ついお願いを聞いて、なんてことを口走っていた。
想像してた返事とは裏腹に、渋々ながら彼女が承諾してくれた時は柄にも無くはしゃいでしまいそうだった。
誕生日というものも悪くは無いな、とこの歳になって改めて、もう遠い昔である子供時代に感じていた思いがよみがえった。
「ん? 名前って孤児だったの?」
「はい。ですから私、恥ずかしながら自分の誕生日知らないんですよねー」
「っ!?」
そう言って寂しげに笑う名前に、青雉は言葉につまる。
海軍や海賊の争いによって、関係のない一般市民が巻き込まれることの多いこの時代では、孤児や親の死んだ子供たちが多く生まれていることは青雉も知っていた。
それが、本来一般市民を守る自分たちに責任があることも、自分たちがそれを投げ出してきたことも。
けれど、それがどれほど大変なことなのかは、こうして寂しげな笑顔の彼女を見るまで考えたこともなかったのだ。
「ですから、周りの人たちの誕生日が自分のことのように嬉しいんです」
「名前……」
「言われたときは渋々みたいな感じでしたが、本当は、大将が喜んでくれるなら、私はなんでも嬉しいんです。だから、残りの六つのお願いは、本当に青雉さんが好きなようにお願いしてくれちゃっていいですからね!」
しんみりとした空気を振り払うように明るく言い切った名前に、青雉はじっとその目を見て考える。
そして、責任や反省の思いではなく、本心からはっきりと自分の中に一つの願いが浮かんだ。
「……じゃあ、二つ目のお願いしてもいいかな」
「はい、なんなりとどうぞ!」
「じゃあ、さ」
「っ…!?」
青雉は名前の正面にひざまずいて、その小さな手を両手で握る。
この小さな掌で、今まで一体どんな苦労をしてきたのだろう。
しかし他人にそれを心配させないよう笑って、人の誕生日を自分のことのように祝ってくれる彼女に、思いがさらに募った。
「あ、あの……」
「名前の誕生日、おれに祝わせて」
「へ……? それが二つ目のお願いですか?」
「うん」
「え、でも私、さっきも言いましたが誕生日とかわからないですし、それに大体そんなことで二つ目のお願い使ってしまうのは……」
「“そんなこと”じゃない、って言ったのは、名前のほうでしょ」
「そ、そうですが」
「名前が誰かの誕生日が自分のことのように嬉しいのと同じで、おれも名前の誕生日祝えるなら、すごく嬉しい」
「大将……」
「まあ、日にちのほうは……気持があれば、なんとかなるでしょ」
「そんなアバウトな……でも、本当にそれでいいんですか」
「いいって言ってるでしょ。おれが今一番そうしたいんだから」
「……青雉さん、」
「ん?」
「ありがとう、ございます」
「っ! お、おう」
その笑顔に、心臓がはちきれるんじゃないか、と思うくらい、柄にも無くどきどきした。
お願い、ふたつめ。
『君の誕生日、一緒に祝わせて』
本当の、願い。
『君の笑顔が見たい』
(へへへー。何か、今からすごく楽しみです)
((あららら。可愛い顔しちゃって))
(私、実は誕生日パーティーとかずっと憧れてたんですよねー)
((“二人きりで”って付けるの忘れてた……))
*END
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