短編
白い檻
短編
*白に鎖された小さな世界はある日突然崩される。*
*双子攻
*盲目
*無理矢理(でも甘い)
−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−
「ひっ!」
生温い感触が頬を這った。
それが舌だと気付いたのは、目尻に辿り付いたそれが溜まった雫を啜るようにしたから。
でもそれがどっちの舌かは解らない。
「泣かないで。」
そう発したのは霧斗の方だった。
少しだけ柔らかな声。
静かな、さざ波みたいな喋り方をする声は、今日は荒い呼気に紛れて少しざらついていた。
「もう、いいか?」
そう言ったのは、たぶん、桐吾だ。
激しい気性でいつもしゃきしゃきと話すその声は、今はまるで何かに怯えるみたいに潜められてる。
言葉と同時に後腔に入れられていた指がズルリと抜けていった。
何かを奪われたかのような喪失感。
でも直ぐに次の感触が来る。
熱い、
「ひぁっっ!」
グッ、と減り込んでくる。
何かに侵入される遺物感。身体を串刺しにされるような恐怖感が襲う。
反射的に暴れだそうとした身体を、前方から伸びた腕が押さえ付けた。
「ゆうちゃん。」
抱きすくめられた胸から直接名前を呼ばれた。
「ゆうちゃん。泣かないで。ごめん。ごめん、ゆうちゃん。」
泣かせているのは誰なのだ!と、そう叫びたいのに口から出るのは震えた奇声だけだ。
その間も後腔から俺を引き裂く物は進行を続けていて、今やそれは身体のかなり奥深くまで入り込んでいた。
「っくぁ、」
ピタリと尻たぶに何かが密着する。
と同時に頭の直ぐ後ろで溜息が吐かれた。
「ゆうちゃん。」
長い長い吐息の後で聞こえたのは、そんな声。
「入った?」
「入った。」
「全部?」
「全部。」
俺を挟んで前と後ろでそんな会話が交わされる。
一聴きしただけじゃ、同じに聞こえる声。
だけど俺は聞き違えたことなんて無かった。
いつだってきちんと区別出来た。
それなのに今は‥‥‥全然解らない。
「ゆうちゃん。」
「ゆうちゃん。」
耳の裏と、胸から直接呼ばれる声。
どっちが霧斗でどっちが桐吾か。
「ごめんね。」
全然わからない。
「っあ、うっ、うんっ、」
凄い勢いで身体の中を出し入れされている。
その度に臀部に肌が打ち付けられて、パシンパシンと乾いた音が響いてくる。
押される衝撃のままに前のめりになっていく俺の身体を押さえるのは、前に塞がる裸の胸だ。
揺さ振られるままにガクガクとなる俺の頭を、その腕がそっと抑えて自らの肩に乗せた。
「ゆうちゃん。」
首の後ろで囁かれた、その瞬間、
「あう、あうぅんっ!!?」
ゾクゾクゾクゾク
唐突に走った衝動に身体が痙攣した。
奇妙な−−だってそうとしか呼びようがない、今まで感じたことの無い衝動。まるで腰から脳髄まで電流を流されたみたいな−−それに伴ったある生理現象によく似た感覚。でも、
これって、
「あれ‥もしかして」
「角度が変わったせいかも。」
焦る俺を無視して二人が何やら喋っている。
だけど俺にはそんなのを聞いてる余裕はない。
その間も突き上げはずっと続いていて、
「‥っだ。やあ!もう駄目っ、もうっ‥るしてっ‥‥!」
「ゆうちゃん?」
「ゆる、許してぇ!もう‥っ」
「ちょ、ゆうちゃ‥どうしたの?」
泪がボロボロと零れる。
だけど、
だって、
「‥っこ‥‥ちゃう‥!」
「え?」
「おしっこ‥出ちゃぅよ!」
「‥へ。」
ひっぐ、と喉が鳴った。
恥ずかしい。
こんな、赤ちゃんでもあるまいし‥‥おもらししそうだなんて、そんなこと‥‥しかもこの二人になんて。
恥ずかしさに顔が真っ赤に染まる。
涙は止まらないし、喉はずっと鳴り続けてる。
のに、
「−−−そっか。ゆうちゃんて‥‥そっかぁ。」
少しの沈黙の後に聞こえてきたその声は、どこか楽しそうな色を含んでいた。
「っ!」
「ゆうちゃん。」
その声を合図にしたかのように、一度は止んでいた律動がまた始まった。
「っあ!」
なんで‥
酷い。
酷い。
「大丈夫だから。ゆうちゃん。」
後ろから、声。
「それオシッコじゃないから。」
前から優しい、声。
ああ。
解った。
前にいる方が霧斗、だ。
そして俺を荒々しく突き上げている方が、桐吾。
「ここ、か?」
桐吾が呟いて、腰を捩るようにした。
途端、
「んあんぅ!」
「ああ。やっぱだ。」
「んやっ!ヤダ!あっ、あっ、」
「‥っは。はは。」
桐吾は悪戯が成功した子供みたいに笑って、何度も何度も同じ場所を突き上げてくる。
「ゆうちゃん。可愛い。」
霧斗はさざ波みたいな囁く声で言って、零れる涙を舐め上げた。
ぬるりとした感触が頬、耳、鼻の頭と這い回る。
「ゆうちゃん、気持ちいいの?」
「いいよな。」
気持ち‥いい?
『いい』んだろうか?これが?
電流を流されているみたいビリビリとなって、腰が突き出されるみたいに痙攣する、これが?
違うとは思うのに−−−前後から挟まれて揺さ振られながらそう言われると「そう」なのかと思えてもくる。
「気持ちいいね。」
「気持ちいいんだよ。」
解らない。
わかんない。
俺にただ解るのは、
「‥ちゃう、」
「ん?」
「出ちゃうっ!でちゃうよぉ!」
ふ、と笑う気配が前後でした。
「いいよ。」
「出せ出せ。」
言いながら桐吾が突き入れを激しくする。
「っあ!」
酷い。
酷い。
なんてこと‥そんなことされたら‥‥
「おい。吸ってやれば。」
「ああ。」
俺を抱き留めていた霧斗の胸が離れた。
「や‥きり‥?」
「ゆうちゃん。出していいからね。」
太股に手が置かれた。
そこに柔らかい、擽ったい感触が微かに触れたと思った次の瞬間‥‥
「ひゃあぁ!!」
あらぬ所に、熱い、ぬるりとした触感。
「っなに‥!?なに‥やあぁ!!」
泳がせた手が何か柔らかいものに触れた。
髪の毛。
頭、頭だ。
気付いたと同時にジュジュ、と濡れた音がこだました。
「‥‥っっっ!!!!」
引っ張られるような感覚。
全てが
全て俺の中から引き出されて行くような、そんな−−−−−−−−−−−
真っ白な筈の俺の世界に赤い火花が走った気がして、直ぐに闇が追い掛けてきた。
「‥‥で?」
精一杯凄んで、問い掛けた。
仰向けに寝転がった俺を挟むようにしてある二つの気配がはっと息を飲む音がよく聞こえた。
「ゆうちゃ」
「身体は」
「なんで?どういうつもり?」
一斉に飛んできた二つの声を断ち切って再び問い掛ける。
少しの沈黙。
それも俺が破る。
「怖かった。」
ビクン、と両側の気配が跳ねたのが解った。
「怖かった。俺‥‥霧斗も桐吾も何も喋らないし喋っても俺の問い掛けには答えないし‥」
時計の秒針の音だけが響いている。
今何時なのか。
白いだけの世界ではそれも解らない。
そんな中で、
「‥‥‥霧斗と桐吾じゃないのかと、思った。」
「ゆうちゃん‥。」
「‥ゆうちゃん。」
さざ波みたいな声と、
突き抜ける風みたいな声とが俺を呼ぶ。
「突然にしたことは悪かったよ。」
「ごめんね。驚いたよね。」
「でも」
「だけど」
「「好きなんだ。ゆうちゃんが。」」
両側から響いた声は、寸分違わずピタリと合わさっていた。
それでも俺には−−右が桐吾−−左が霧斗−−そう解って、解る自分にほっとしている。
そんな自分に気が付いていた。
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