水上の帝都・グランコクマ。のとある屋敷内
先程からなにやら爽やかな香りが屋敷全体に漂っているように思える
不思議に思いながらも屋敷内に足を踏み入れると、ジェイドの訪問に気付いたメイド数人がすぐに頭を垂れて形式的な挨拶をしてきた
それに軽く応えて、足早にガイの私室へと向かう。そんな間にも香りはますます強くなるようで…
誰にも気付かれないように首を傾げた
ガイの部屋の前に着くと、手馴れた様子で数回ノックをする
「ガイ、私です」
「あ!旦那か。入っていいぜ」
声を掛けると、中から嬉しそうに返事を返してきた。声色が子供のように弾んでいるのは気のせいだろうか
静かに扉を開けると、フワリ…、と優しい香りが鼻腔を擽った。香りの発生源はどうやらガイの部屋だったらしい
「何を…しているんですか」
「うん。ちょっと……メイド達が楽しそうに作ってたからさ。俺もやってみたんだ」
少し照れたように言って振り向いた彼の手の中には、小さなキャンドルが持たれていた
足元のバスケットにも、コロコロとしたものが幾つか入っている
色とりどりのキャンドルだが、ジェイドにはその用途がさっぱり解らない
数あるキャンドルの中の一つを摘み上げて、繁々と眺めてみる。仄かに甘い香りがした
「ほら…ペール爺さんがこっちに来てからも庭弄りをやっててさ。春先に咲いた花とかハーブ類を使って、アロマキャンドルを作ったんだよ」
「あぁ……それで」
屋敷に着いた時から香っていた匂いの正体が、今解った
おそらくは作ったものを試したくてガイが焚いていたのだろう
手に取ったソレを自分の鼻先に近付けて、匂いをかいでみる。淡いオレンジ色のキャンドルからは爽やかな柑橘系の香りがした
今までアロマキャンドル等に触った事は無かったが、コレ自体からも香りがするのだと今理解する
「結構良い香りだろ?匂いによってはリラックス効果もあるんだってさ」
ニコニコと笑いながら、アロマキャンドルの説明を始めたガイを愛しそうにその双眸を細めて見詰める
音機関を見るのも作ったりするのも好きなガイにとっては、このような何かを作るという作業は分け隔てなく好きなようだ
「なかなかの乙女思考で…」
「…………悪かったな。楽しそうだったんだよ」
勿論、メイド達とは別の場所で作ったんだけど、と続ける
ガイの女性恐怖症はその原因が解った今でもあまり改善されてはいなかった
まぁ、その話はこの際置いておこう
ガイの部屋の窓から見える中庭に視線を移す。中央の小さな噴水を中心に、小規模だが美しい草花が丁寧に植えられている
正直植物等にはあまり関心はなかったジェイドだが、ガイの中庭の情景は気に入っていた
ふと。キャンドルを乗せたままだった掌の上に重みを感じた
おや、と思い自分の掌に視線を戻すとそこには透明な袋に入れられた色とりどりのアロマキャンドルが
状況が解らずに暫くソレを凝視してしまった
「ジェイドにも、お裾分け。リラックス効果のある奴チョイスしてみたから、試してみてくれよな」
「それはどうも」
しかしアロマキャンドルをカーティス家の屋敷で焚こうとは、とてもじゃないが思わなかった。焚くなら執務室のが余程良いだろう
いや、それよりも……
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