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小説
ダチ・・・?


「あ〜あ・・・これからどうすっかなぁ・・・」


治樹は教室へと向かうろうかをとぼとぼと歩いていた。


「兄貴は自分の教室行っちゃったし・・・Aクラスかぁ・・・絶対俺なんかとは全然次元が違う人たちが集まってんだろうなぁ・・・あぁ・・・気が重い・・・」


重い足取りで教室へ向かうと、朝来たときに見た教室とはまるで違っていた。


――まぶしい!!!!

――そして、広っっっ!!!


「す・・・・スゲェ・・・」


机は一列ずつにつながっていて、どこにでも自由に座れるようになっている。

黒板もとても大きく上と下で交互に使えるようになっている。

天井の電気も無数についていて、教室をまぶしく照らしている・・・。


口をあんぐり開けながら、自分があまり目につかないように一番後ろの席に座った。

後ろの席にはすでに一人先客がいて、挨拶ぐらいはしておこうと近寄った。


「あ・・・あのぉ・・・君・・・名前は?」

ギロリ・・・

「うっ・・・;;」


――こ・・・怖ぇ〜!!!

――ヤンキーだ!!ヤンキーの目つきだよ!!!

――や・・・殺られる・・・;;


「お前・・・他人に名前聞くときはまず、自分から名乗れよ・・・」


とても低い声色・・・。


「あぁ・・・ご・・・ごめん・・・俺は治樹。佐藤治樹ってんだ」

「・・・佐藤・・・・・・・?」


治樹の名前を聞いたとたん一瞬彼は怪訝そうな顔をした。


「で・・・君は?」

「・・・俺ぁ鳳壱夜だ。壱夜でいい」


さっきとは違う優しい声色。

表情も少し柔らかくなった。


治樹はそんな壱夜の様子を見て、さっきまでの緊張を解いた。


「壱夜はやっぱり頭いいの?」

「・・・知らねぇよ。あんま話しかけんな」


そういうと、壱夜は腕を机の上で絡ませ、そのまま寝てしまった。

そんな壱夜につい見とれてしまった、目つきは悪いが目鼻立ちがしっかりとしている。

眉目秀麗といった言葉がぴったりあてはまるイケメンだ。

ずっと壱夜の顔を見ていたのでさすがに気づいたのか、いきなり壱夜が閉じていた目を開いた。


「・・・んだよ・・・あんまこっち見んな」

「あぁ・・・ご・・・ごめん」


薄目を開け、眠そうにそう話す壱夜はとても可愛かった。

しかも、上目遣いで見つめられたので、治樹は不覚にも男である壱夜にドキッとしてしまった。

ほんの少し赤くなった頬を隠すために、すぐに壱夜から目をそらした。

すると、それと同時に教室のドアが開き、先生らしき人が入ってきた。


「おーっし!お前ら席付けぇ」


あまり強くは発していないが、不思議とよく通る声で先生がみんなに席に着くように促す。


「・・・あれ?」


いきなり先生がこちらを見て驚いた顔をしたのが見えた。

そして浅く笑って、みんなの方に向き直った。


「この学校エスカレータ式だから、中学から一緒の奴は俺のこと知ってると思うが、今日から新しく入ってきた奴らのために、自己紹介をする」


その言葉に、治樹は始めて聞いたとばかりに目を丸くした。


――この学校エスカレーター式だったんだ・・・壱夜は、前からこの学校だったのかな・・・?


「じゃあ、まずは俺から!俺の名前は瑞樹桐馬。趣味は合コンだ」


刹那、教室がシンとなった。


「本当のことなんだが・・・まぁ、いい。んじゃ、前から順に自己紹介していけ」


――・・・なんだ?この先生は・・・ってか、本当に先生なのか?


「・・・あいつのことは気にすんな・・・ああいう奴だ」


壱夜が腕に顎を乗せながらそう言った。


「え?じゃあ、やっぱり壱夜って中学からこの学校だったんだ」

「あぁ。まぁな・・・ふぁあぁぁ・・・やば・・・やっぱ寝るわ・・・」


――壱夜ってけっこう可愛いとこあるんだな・・・


「はい、じゃあ・・・次、佐藤」

「あ、はい!!」


少しびっくりしたが、持ち直した。


「佐藤治樹です・・・あの・・・よろしくお願いします」


何を言っていいかわからず、結局たいしたことを言えなかったのを座ってから後悔した。


「んじゃ、ラスト。鳳!」

「・・・・・・」

「ちょ、壱夜!?」


小声で壱夜に呼びかけるが、まったく起きる兆しがない。


「鳳壱夜く〜ん!!」

「・・・うるせぇ。だまれこのクソ教師」


――さ・・・さっきのヤンキー壱夜だぁ・・・


「まぁ、お前は有名人だからなぁ〜知らない奴はたぶんいねぇだろうけど・・・。もし知らない奴いたら、適当に誰かに聞け。・・・んじゃ、ホームルーム始めんぞぉ〜」


ものすごく適当な先生のその言葉で、その場は一時落ち着いたのだが・・・。

結局壱夜は、その日一度も授業で起きることはなかった。


――でも、Aクラスに入るくらいだから、きっと壱夜ってものすごく頭いいんだろうなぁ・・・どうやって勉強してるのかわからないけど・・・。


キーンコーンカーンコーン・・・


授業はあっという間に終わっていった。

しかし、並みの中学出身の治樹にはレベルが高すぎで・・・まったくついていけなかったようだ。

休み時間に壱夜に聞くと、ぽんぽんとわかりやすく答えてくれたので治樹は正直びっくりした。

治樹が「ずっと寝てたから、授業聞いてないと思ってたけど、ちゃんと聞いてたんだ」と壱夜にいうと、


「・・・人間には耳って言う見なくても聞ける器官がついてるからな」


と、顔を腕に埋めながら応えた。


――逆にスゲーけど・・・


そんな壱夜を、治樹は悪戯っぽく笑いながら言った。


「人の話は、目と耳と心で聞きましょう!!」

「・・・お前、俺に説教たれる気か?もう勉強教えてやんねぇぞ」

「すいませんでしたぁぁぁぁ!!!」


こんなこといってるけど、本当に壱夜って頭がいいんだなぁと治樹は少し壱夜を尊敬した。


「しかも、こんなこと家で散々やってるしな・・・」

「え・・・?」

「お〜い。お話中のとこ悪いが・・・佐藤。ちょっと話がある」


壱夜が言ったことが少し気になったが、先生のその声でその考えは完全に消されてしまった。


「ん?なんだろ」

「行って来いよ。俺は先、帰ってるから」

「・・・あぁ。じゃな」


壱夜に別れを言って先生の所へ行くと、「ここではなんだから」と、別のところへ移された。


「お前・・・壱夜に何言ったんだ?」


先生から聞かれたことはとても意外なことだった。


「え?」

「あ、いや。壱夜が同じ机に誰かを座らせたのは初めてだから、しかも隣に」

「机って、あの一列全部ですか??」

「あぁ」


――あの『優しい』壱夜がそんな・・・・・・


「あんなに他の奴と話してたことも初めてだ・・・まぁ別にそれだからどうとかっていう話じゃないんだが・・・」


先生はそういうとじっと治樹のことを見つめてきた。


「な・・・なんですか??」

「あ、言っておくが、俺は男に欲情するような奴じゃないから安心しろ」

「ど・・・どどどどういうことですかぁ!!?」


先生の言葉に思わず大声を上げてしまった。


「ま、そういうことだ。なんかあったら相談くらいは聞いてやるから、いつでもくるんだぞ!・・・一応担任だから」

「あぁ・・・はい」


すると、向こうから誰かが走ってくるのが見えた。


「お〜い!!治樹!迎えに来たぞ!」


それは、治樹の兄である、昶だった。


「兄貴!!」

「え!?あ・・・兄貴!?」


先生が衝撃の事実を聞き、口をあんぐり開けていたことなんて気づかぬまま、俺は兄貴に向かって走っていった。


「どうしたの?」

「お前を迎えに来た」


まるでお姫様を迎えに着たかのように淡い笑顔を浮かべながら兄貴はそう言った。


「迎えに来たって・・・兄貴、もういいの?」

「あぁ、今日は早く終わったんだ。まぁ、早くって言っても1年生と同じ時刻に帰れるくらいだがな・・・それより、お前、寮の場所知らないだろ?だから、その案内に」


寮。

そういえば、と治樹は思い出す。

この学校には、各生徒に部屋が与えられていた。

しかし、その利用は自由で、昶は自分がいないと一人の治樹を心配して寮を使わず毎日家に帰ってきていた。


「え?寮なんていいよ、毎日家に帰りたいし・・・」


治樹的には、新しい寮生活よりも、家のほうが落ち着くし、少しばかり遠いが、昶と一緒に家に帰りたかった。


「距離的に寮から学校の方が家より近いから・・・お前どうせ寝坊するだろ?」

「・・・う゛」


そういえば、治樹は朝が少し苦手だった。

今日も実は治樹は昶に起こされて・・・。


「まぁ・・・いろいろ考えれば家のほうが安全なんだけど・・・」


――『いろいろ』ってなんだよ!


心で突っ込みを入れながら治樹は疑問に思う。

昶自身、家のほうが安全といっているのに、どうして寮にいる必要があるのか・・・。

それはやはり、昶が治樹を一番に考えているからだろう。


――兄貴がいつも俺の心配してくれるのは嬉しいけど・・・。

――それ以前に俺は・・・兄貴と一緒に居れないのが、嫌なんだ・・・。


寂しさではない。

寮は大体二人一組の部屋だ。

だが治樹は、他の人とも一緒にはなりたくなかったのだ。

この学校に来たときの不安が残っているからなのか、ずっと、昶といたかった。

その想いを察してか知らずか、昶は何かを期待させるように、息を吸って治樹に言った。


「ま、俺が同室だから安心しろ!」


――逆に不安なんだが・・・・って、え!?


「え?兄貴と同室?兄貴、3年生だよね!?」

「生徒会長に無理言って許してもらった・・・治樹が心配だから・・・」

「兄貴は本当に心配性だね」

「お前がそうさせてるんだろ?・・・その可愛さ、俺だけに見せてくれればいいのに・・・」


――なにいってんだぁ!!この人は!


「せ・・・生徒会長ってどういう人なの?」


思わず話題をずらしてしまった。

兄貴と一緒になれることは嬉しい。

だが、兄貴にスイッチが入るとさすがに俺でも止められない。

思わず抱きつかれたりしたら、死んでしまうかも・・・。


「あぁ、今度会わせるよ。あいつにもそう言ってあるから」

「きっと兄貴と一緒で頭もいいんだろうね」

「・・・ま・・・まぁな・・・・・・じゃ、行くか寮に」


また兄貴の様子が変わった。

でも、前とは違う・・・。

一瞬考えたが、すぐに忘れて、先を歩く兄貴についていった。

俺はこれからどんなことが起こるんだろうという期待と、とんでもない不安を抱えながら、この学園生活を謳歌することになる。





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あきゅろす。
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