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小説
俺の兄貴


コンコン・・・


「失礼します。理事長、いらっしゃいますか?」


兄貴がこうやって敬語を使うとき、俺はどうしようもなく兄貴をかっこいいと思ってしまう。

なぜかは、わからないけど・・・。


「・・・その声は昶君だね。いいよ。入りなさい」


ドアの向こうから、とてもクールでかっこいい声が聞こえた。


「失礼します」と兄貴が言って、俺の手をつないだまま、中に入れた。


「君なら、いちいち断りを入れなくても勝手に出入りをしていいと言ったはずだが?」

「・・・いえ。一応俺、生徒なので」


目の前には、とても40代とは思えない外見の人が高そうないすに座りながらこちらに話しかけてくる。


「・・・あの人が・・・理事長?」

「あぁ・・・」

「ん?」


兄貴の様子がさっきまでと少し違う・・・目の前の理事長とあまり目を合わせたくないのか、ずっと目を下に向けている。


「・・・・兄貴?」

「君だね?昶君の可愛い弟というのは」

「・・・あ!はい!」


――また、『可愛い』なんていわれた・・・・俺、男・・・だよな・・・大丈夫だよな・・・。


「・・・・なかなか、昶君に似ていい顔をしているね」

「え?」


理事長はそういって俺に笑いかけてきた。


「・・・やめてください」


いきなり兄貴が俺の前に立って、近づいてきた理事長から俺を拒ませた。


「なんのことかな?私は本当のことを言っただけだが?」


理事長は、兄貴と顔をぐっと近づけている。


「・・・弟には・・・手を出さないでください・・・」


兄貴の顔には一筋の汗が流れていた。


――あんなに必死な兄貴・・・初めてだ・・・。

――いったい、なにがあったんだろう・・・・・?


「ふぅ・・・君はまだあのことを気にしているようだね・・・」


理事長は兄貴から顔を離し、少し呆れ気味で、でも少し嬉しそうに言った。


「・・・・とにかく、今日は弟の紹介だけしにきたんです・・・もう、あの話はしないでください・・・」


兄貴はいつもの笑顔からは想像もつかないようなこわばった顔で理事長を睨みつけていた。


「・・・わかったよ。弟君には手を出さない。約束するよ」


理事長は兄貴の顔をみて、まぁまぁという手振りをしながらそんなことをいった。


「・・・・では」

「あ、ちょっとまった・・・・治樹君・・・だよね?」

「は・・・はぁ」


兄貴が強引に外に出ようとしたところをいきなりとめられたので少し戸惑った。


「自己紹介がまだだった。・・・私の名は白銀南。この学園の理事長だ。よろしくね」

「あ、はい。よろしくおねがいします・・・・・・あの・・・」

「ほら。もう行くぞ」

「あ、ちょ・・・」


兄貴に引っ張られ、理事長とはそれで一回別れたんだけど・・・さっきから、兄貴の様子が変だったのが気になってしまって、つい聞いてしまった。


「ねぇ、兄貴。いったいあの理事長と何があったの?」

「!!!!」


兄貴が驚いたように急に足を止めた。


「な・・・なんでもない・・・治樹は気にしなくていんだよ・・・!!」


兄貴が珍しく何かを隠そうとして焦っていた。


「・・・・・?」

「ほ・・・ほら、そんなことより、お前のクラスだ」


兄貴がこうやって俺に隠し事をするのは初めてだ。

・・・・・でも、兄貴がそんなに言いたくないことならば・・・あまり問い詰めないほうが・・・いいのだろうか・・・?


「・・・・クラス?」


そうだ。兄貴のやることには必ず理由があって、意味がある。この話はもう、しないほうがいいんだ。

・・・・兄貴を信じよう。


「あぁ。この学園は各階級ごとにクラスが変わる。クラスは全部でA〜Eまでの五つある。お前のクラスは、1-Aだ」


――ん?


「え・・・A・・・って・・・」


ダイレクトにいやな予感がした。


「あぁ。月のテストで上位クラスだった奴らだけが入るクラスだ」


――は?


それを聞いたとたん、俺の頭の中は完全にパニックになった。


「な・・・ななななんでそんなに頭良いわけじゃない俺が・・・じょ・・・上位クラスの奴らと一緒に・・・・??」

「お前なら大丈夫だ」

「だから!!大丈夫じゃないって!!!!」


――な・・・なんでだよ!!なんで、兄貴はいつも俺のことをそんなに買いかぶるんだ・・・!!・・・これは・・・新手のイジメなのか??


俺はこんな無理難題の連続に泣きそうにすらなった。

でも・・・


「それに、月に一回、各学年のクラスごとに集まって、勉強会・・・みたいなことをする機会があって・・・そのときに・・・お前が一緒じゃないと・・・心配って言うか・・・なんていうか・・・・」


恥ずかしながらそういう兄貴を見て、俺は少し安心した。

これは、心配性の兄貴の精一杯の俺に対する愛情なのだと・・・。


「兄貴・・・」

「ほら、俺もクラスAだからよ・・・」


苦笑いをしながらそういう兄貴に、俺はもう否定する気力も、気持ちも無かった。


「はぁ・・・・わかったよ・・・」

「ほんとか!!」

「うん!!・・・あぁ、その勉強会、楽しみだなぁ〜!!」

「ありがとう!!治樹!!」


兄貴は俺に抱きついてきた。


「く・・・苦しいよ・・・兄貴ィ・・・」


――兄貴の隠し事とか、兄貴の俺に対する想いとか・・・兄弟でも知らないことがたくさんある。

でも、俺はそんな、全て完璧でも人間らしく優しい兄貴が好きだ。

大好きだ。




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