小説
EpisodeW 人との繋がり方
「月子先輩!」
「あれ?もう話は終わったの?」
「はい。すみません、待っててもらって・・・」
「ううん。いいの」
一樹との話が終わった後星海は、学生寮に向かう廊下で月子と合流した。
どうでもいいことでも自分に気を使ってくれているこの月子に星海はいつも感謝していた。
自分が月子と同じ女だからという理由だけではなく、一後輩としていろんなことを教えてくれる。
昔は、女子を毛嫌いしていた星海だが、何でも積極的で頑張りやで優しい月子には心を許しつつあった。
「で、何の話してたの?」
「え・・・?」
突然、そんなことを聞かれて星海は一瞬戸惑った。
月子はいい先輩で、何でも話せる仲になりたいと想っていた。
でも、このことだけは話す気になれなかった。
一樹も、月子にこの話をして欲しいなんて望んでいないはずだ。
「別に、たいしたこと無いですよ・・・。あの・・・なんていうか・・・部活とかやらないかって、誘われてたんです!」
「部活?」
「ほら、月子先輩弓道部だから、私も入ろうかなぁ〜
って悩んでたとこなんですよ!それの相談に!」
苦し紛れのごまかし。
「なぁんだ。それなら、一樹会長にじゃなくあたしに相談してくれればよかったのに」
「いや、いろいろあって・・・一樹先輩もあたしになんか話があったみたいだし!なんか、あの・・・あたしの仕事はいつもガサツだーって・・・」
誤魔化すのがこんなに大変なことだとは知らなかった・・・。
だが、ここまで壁を張っておけば月子も疑うことは無いだろう。
「そんなこと無いと思うよ?」
「へ?」
頭が混乱状態の中にかけられた言葉。
予想外の言葉に思わず星海は間の抜けた声を出してしまった。
「え?なにが?」
「生徒会の仕事。星海ちゃんはよくやってくれてると思うよ?翼くんの世話だって星海ちゃんがしてくれてるでしょ?それに、お茶だって星海ちゃんが気がつけばやってくれてるし、部屋の掃除だって・・・・・・」
月子は一度口を開くと、星海に関するエピソードを次々と話した。
頭の中の混乱が落ち着いてゆくにつれ、その話を聞いてゆくうち、星海は泣き出しそうになった。
こんなにも、自分を見てくれた人は人生で初めてだった。
こんなにも、自分を目で見て評価してくれる人は初めてだった。
「それから・・・」
「・・・ありがとうございます」
涙が出そうになるのをこらえて、星海は月子に礼を言った。
なんだか、胸の中がすっきりしたような気がした。
それと同時に、ある想いが湧き上がった。
――月子先輩は知らない間に悩んでる人のことを助けているような人なんだな・・・
そして、ふと思い出した。
一樹先輩は、悲しみを背負ってはいるけど、あんなに堂々として笑って、楽しそうにしてる。
――なんだ・・・。変われてないのは自分だけじゃないか・・・。
そう思ったら吹っ切れた。
なにもかも。
「あ、それと部活のことなんだけど。明日、あたしの教室に来てくれる?そこに顧問の先生もいるから星海ちゃんのこと紹介してあげる」
そう言って、月子は笑った。
「はい」
気持ちは固まった。
もう不安定には歩かない。
そして、自分を気づかせてくれたこの人を、未来永劫護ろうと想った。
☆★☆★☆★☆★☆★
次の日――
「よーっし!今日こそ直獅の昼飯をゲットしてやる・・・」
天文学科2年の教室は朝から程よくざわついていた。
「お!おい、来たぞ!」
「よっしゃ!」
*
「えーっと・・・天文学科、天文学科・・・・・・」
星海は昨日月子に言われた通り、普通1年生が入ることの無い2年校舎に来ていた。
しかし、無駄に広いこの学校のたった一つの教室を探し当てるなんて事は、自分の教室だけしかありえなかった。
星海はものすごく方向音痴なのだ。
念のために颯斗に作ってもらった地図を見ながら、星海は廊下を歩く。
「・・・天文学科・・・・・・・・・あった!」
目的地を自分で探し当てられたことは、星海にとってはもんのすごい奇跡に値する。
自分で自分を賞賛しながら、星海は勢いよく扉を開ける。
「月子先ぱぁ・・・」
バフッ!
一瞬、何が起きたか理解できなかった。
頭の上から、何かが落ちてきた。
長方形で、なんかふわふわしてて、真っ白い粉がいっぱい・・・・・・。
「な・・・なにこれっ・・・うわぁっ!」
バタンッ!
第二トラップ。
・・・らしきものに引っかかった気がした。
足元にピンと引かれたロープ。
それに足を引っ掛けてしまった星海は、顔面から綺麗に転んで・・・。
「星海ちゃんっ!!大丈夫っ!?」
聞き覚えのある声が聞こえて、星海は全身の痛みをこらえながら顔をあげる。
「つ・・・月子先輩ぃ・・・?」
星海が苦し紛れにそういうと、教室にいた何人かが倒れる星海に駆け寄ってきた。
「おいおい、直獅が来たんじゃねぇのか?」
「ガキ?」
「大丈夫か?」
星海は心配してきてくれた何人かに、抱きかかえられながら起き上がった。
またもや、頭が混乱した。
「これはいったい・・・ィタタタ・・・」
星海が混乱しながら悶絶していると、あちこちから慌てた声が聞こえた。
「ほんっとごめん!いや、これは直獅に仕掛けた罠であって・・・」
「いや、お前のためにはった罠じゃないんだ!これは偶然で・・・」
「あぁ、傷だらけ・・・早く保健室に連れて行かないと・・・」
教室が盛大に盛り上がっていると、教室のドアが開いた。
ガラッ!
「おっはよ〜う!・・・ってあれ?今日は何も・・・・・・どうしたんだ?」
「よぉ、直獅・・・・・・」
「今日はお預けだ。この子が直獅の代わりに全部引っかかってくれたから・・・」
皆が苦笑いするのをみて、直獅と呼ばれた人物は皆の中心にいた少女に目を向ける。
「あ、お前・・・」
直獅は星海に近寄ると、星海の頭にかかっている白い粉を払いながら言った。
「ごめんな。俺、こいつらといつも昼飯賭けてて・・・」
「いえ、大丈夫です・・・」
星海は痛みに耐えながらそう言った。
そのうち、痛みにも慣れてきた。
このぐらいの痛みは昔に散々感じたから・・・。
「本当にゴメンね。星海ちゃん」
そこに月子が星海に謝りながら寄ってきた。
「この人が弓道部の顧問の陽日直獅先生。あんまり、部活には来ないけど・・・」
困った表情をしながら、月子はそう言った。
「え?お前、弓道部に入るのか?・・・なら、よろしくな!・・・えっと、確かここに入部届けがあったような・・・・・・・・・これだ!」
直獅は、名前欄と記入事項がいくつか載った入部届けを差し出した。
「あ・・・ども」
星海がそういうと、騒々しかった教室が、違う意味で沸きあがった。
「いやしかし、この学校にもう一人女子がいたとはな・・・」
「教えてくれりゃあよかったのによ、直獅!」
「いや、いずれ話そうと思ってたんだけどな!」
「それにしても、最近月子が楽しそうだったのは、これか」
そう言ったのは、いつの間にか月子の隣に立っていたまたしても星海よりはるかに背の高い男子二人のうちの一人。
「天野星海ちゃんって君のことだったんだね」
もう一人は、星海に寄ってきて、持ち合わせていた救急箱で星海の手当てをしながら話しかけてきた。
「あ、錫也。あたしにやらせて」
それを見た月子が、気を使ってそう話しかけた。
「いいよ。月子はこういうの苦手だろ?」
「そうだなっ!」
そう言って二人は笑った。
「なによもう。錫也も哉太も・・・」
それを見て、星海も笑った。
「ふふ・・・」
「星海ちゃんまで・・・」
月子は頬を膨らませた。
「はい、終わったよ」
そうしているうちに手当てが終わったようで、星海は丁寧に礼を言う。
「ありがとうございました。えっと・・・」
「俺は、東月錫也。よろしくね」
「俺は、七海哉太だ」
「二人とも、あたしの幼馴染なの」
「そうだったんですか」
星海はそう言って、スカート払いながら立ち上がった。
「月子をよろしくな」
「え?」
哉太がそう言った。
続いて、錫也も言った。
「寂しがりやだから、傍にいてやってね」
「二人ともあたしを子供みたいに・・・」
「仲良しなんですね」
そうやってる三人を見て、星海が笑いながらそう言った。
すると、三人は顔を見合わせて照れたように笑った。
「それじゃあ、私はこれで・・・」
「うん」
「今日、部活見学に行きます」
そう言って、星海は天文学科2年の教室を出た。
廊下を歩きながら、想った。
月子先輩はいろんな人に護られてるんだな・・・と。
――逆ハーレムぱねぇ・・・
同時に余計なことを考えながら、星海はもらった入部届けを握り締める。
「成り行きで部活入るって言っちゃったけど・・・大丈夫かなぁ・・・」
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