小説
EpisodeU 生徒会
「俺は、星月学園の生徒会長不知火一樹!つまり、俺がここの支配者ってことだ!俺が白と言えばカラスも白、この学園では俺がルールだっ!!」
「天羽翼っ!お前を生徒会会計に任命する。言っておくが、この星月学園において生徒会長様の言葉は絶対だからな!HRが終わったら生徒会室に来いっ!以上っ!」
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入学式。
理解不能な横暴で乱暴な生徒会長の挨拶が印象的だったのを覚えているような、覚えていないような・・・。
でも、あの声と顔には覚えがある・・・ような気がした。
私が小さい頃に・・・。
思い出そうとして、やめた。
考えるのは苦手だったからだ。
――大事な思い出なら、いつか思い出す。
そう、思った。
☆★☆★☆★☆★☆★
一学年 宇宙科
教師のいない教室は生徒のもの、とはよく言ったもので、今ではみんな一人一人好きなことをして担任が来るのを待っていた。
本を読んでいる人、同じ中学の人と談笑する人・・・教室は程よくざわついていた。
星海の席は窓際の、一番後ろの端っこ。
人数の関係で、一人だけの席になっていた。
寂しい・・・とは思わなかった。
むしろ、都合がよかった。
男が嫌いなわけではないが・・・いや、むしろ男だらけの学校だと知って星海は入学したのだ。
以前は男子校だったらしい。
共学になったのは、去年から。
そのせいで、女子が入れるようになったものの、男子校だった頃の名残は拭えないまま・・・。
今も、この星月学園にはほとんどが男子しかいない。
周りを見回してもこのクラスにいる女子は星海だけだ。
実際、この学校に何人の女子がいるのか星海は知らない。
――女子は出来れば、少ない方がいい・・・
心の中でそう呟き、ふと窓の外を眺めた。
そうしてしばらく、ぼぅーとした。
ガラッ・・・!
「おらー、席つけー」
あきらかに教師のものと思われる声と、言動を聞き、今までざわついていたのが嘘のように静まった。
そこからはお決まりの自己紹介と、少しギャグも入った担任の一人語り。
全然、笑えない。
「わ・・・笑えよお前ら・・・。あ、そか、緊張してんだな!緊張してるから俺の話も笑うに笑えないってことか!そーか、そーだよな!俺、合コンでも同じ話したけど、大爆笑だったもんな!はっはっはぁ〜」
――本当に教師・・・?
――いや、この学校ではこれが普通なのか?
そんな風に呆れながらも、高校生活一日目のHRが終わった。
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このあと何をしようか悩みながら、とりあえずずっと教室にいるのも苦だった星海は、ぼちぼち学校探索にでも行こうと、腰を上げた。
学校探検の第一歩目、教室と廊下の境目に足を踏み入れたとき、ふと声が聞こえて立ち止まった。
「翼。生徒会室に行かなくていいの?」
「ん?俺関係ないもん。発明で忙しいし」
――翼?もしかしてさっき生徒会長が言ってた天羽翼?
そこにはものすごく背の高い、少し間の抜けた男子生徒と、それと対照的に背の低い、こちらは少し知的な男子生徒がいた。
会話からするに、背の高い方がその『天羽翼』だろう。
少し二人のことが気になってしばらく、その二人の会話に耳を傾ける。
「まぁいいけど。知り合い?」
「知らない」
「でも、いきなり名指しだったよ?」
そう背の低い男子がいうと、翼は首を横に振った。
その姿を見た背の低い男子生徒は、訝しげに眉を寄せる。
「知らないなら、なんで翼を選んだんだろう・・・。それにしても、会長って誰かに似てるような・・・」
「こらぁぁぁぁ!」
二人のそんな会話に、聞き覚えのある怒声が割り込んだ。
「生徒会長様の命令を無視するとはどういうことだっ!ついて来い!」
現れたのはやはり星月学園生徒会長。
会長は翼を見つけるや否や明らかに自分より背の高い翼の後ろの襟を掴み、引きずり出した。
「うわぁぁ!何するんだ!罰だぁー監禁だぁー梓助けろぉ〜!」
そんな助けの声をかけるが、助けを求められた背の低い、『梓』と呼ばれた男子生徒はあっけらかんとその姿を見送っている。
思わず、教室から出かけていた足を引っ込めた。
巻き込まれるわけには行かない。
――私は、関係な・・・
「あ!お前」
唐突に声をかけられた。
本当に、唐突に。
顔をあげれば、目の前にはこの騒動の張本人、生徒会長不知火一樹。
そして、引きずられている生徒会長より背の高いはずの天羽翼・・・。
――え・・・?
話しかけられる意味がわからない。
「ちょうどいい、お前も来い!」
そう言われると同時に腕を掴まれた。
掴まれるや否や強引に引っ張られた。
――ちょっ・・・
「ちょ・・・ちょっと待って!な・・・なんで、私までっ!」
そして、ふと気づいた。
――あ・・・今私、この学校に来てはじめてしゃべった気がする・・・。
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されるがままに腕を引っ張られ、ついたのは「生徒会室」とプレートが張られた教室だった。
「捕まえたぜ!」
言いながら、強引に生徒会室に入れられた。
「ぬあぁ!」
しかし、入れられたのは翼の方だけで、星海は生徒会室に入る直後に一樹に止められた。
口パクで「ちょっと待ってろ」と言われ、しぶしぶ扉の前で待つことにした。
――どういうつもりだろう・・・
「大丈夫?ごめんねぇ乱暴で・・・」
中から、凛とした女子生徒の声がした。
――生徒会には女子がいるんだ・・・
「すみません。常識とか礼儀なんていつもそっちのけなので・・・」
後から、生徒会長のものとは違う男子生徒の声がした。
どちらも翼のことを気遣って言っているようだが、その言葉には会長のことも想って言っているような・・・そんな気がした。
「何でお前らが謝ってんだ!・・・細かいことは気にすんな!」
「会長は気にしなさすぎです」
「まぁ、それは置いといてだな。連れてきたのはこいつだけじゃないぞ」
「え?」
その言葉に二人はキョトンとする。
少しの間をおいて、会長が開いた扉から首だけを出して星海に入るよう促した。
星海は、素直に会長の指示に従い生徒会室に足を踏み入れる。
頭の中はまだ混乱状態だが、整理するためにもとりあえず指示に従ってみるのもいいと思ったからだ。
最初に会長の姿を見た後、中にいた二人の姿を見上げる。
みんな星海より背が高い。
それよりも気になったのは、二人の星海を見る目が異様に驚いているような・・・そんな気がした。
――驚かれる理由がわからない・・・。
いまだに何も解決していない頭の中に、もう一つの疑問符が浮かび上がる。
一人一人それぞれの思惑を持ったまま、会長が星海と翼、両方を真正面から見るように、いまだ目を丸くしている二人の間に立った。
「か・・・かか会長・・・この子まさか・・・」
そんな生徒会メンバーの一人――夜久月子があたふたするのをよそに、会長は口火を切った。
「ようこそ、生徒会へ!言ったとおり、今日からお前は生徒会会計だ!」
会長は翼を指差すとそう言った。
「生徒会・・・会計?」
翼が呆けた顔でそう呟いた。
そして今度は星海のことを指差すと、思ってもいなかった言葉を口にする。
「そして、お前。今日から作った生徒会庶務に任命する!」
――え・・・?
「えっ?会長それはどういう・・・」
星海が声を上げる前に、生徒会メンバーのもう一人――青空颯斗が口を開いた。
「俺が決めた」
「会長が決めたって・・・聞いてませんよっ!?」
「あたりまえだ。言ってないんだからな!」
「会長っ・・・!」
――ちょ・・・ちょっと待って・・・
「ちょっと待ってください!」
ようやく、頭の中で状況が理解できて声を発することが出来た。
「私だって聞いてないですよ・・・なんですか、生徒会庶務って・・・!」
慌てる星海を、これまた生徒会長がおさめる。
「言っただろ。ここでは俺がルールだ!反対意見は認めないっ!!」
「そんな・・・勝手な・・・」
そこで、会長は星海のほうに歩み寄って、月子を、私の目の前に引っ張ってきた。
「か・・・会長!?」
一泊置いて、会長が言った。
「やっぱ、欲しいもんは傍に置いた方がいいだろ」
微笑んでから続きの言葉を言う。
「こいつ、この学校で女一人だけで寂しかったんだってよ・・・」
「あっ・・・そんなこと・・・」
月子の言葉も無視して、会長は続ける。
「俺もこいつには借りがある・・・だから・・・」
会長はその柄に似合わない少し悲しげな表情をして星海と月子にだけ聞こえるようにそう呟いた。
返す言葉が無かった。
この人たちは本当に・・・。
「そんじゃ、お前ら自己紹介しろっ!」
さっきの悲しそうな顔はどこえやら、さっきまでの俺様口調で会長はそう言った。
月子は慌てながらも、口を開く。
「あ・・・はい。わ・・・私は書記を務めている、夜久月子です・・・よろしくね」
最初は戸惑っていたものの月子は笑顔でそう言った。
続いてため息混じりに颯斗が口を開く。
「・・・生徒会副会長の青空颯斗です」
「俺のことは、もう知ってるな!生徒会長様の不知火一樹だっ!」
会長が腰に手を当てて言う。
そして、月子がもう一言。
「あなた達の名前も教えて欲しいな」
そういうと、さっきまで蚊帳の外だった翼がびっくりしながら言った。
「あ・・・天羽翼」
星海も仕方なく自己紹介をする。
「・・・天野星海です・・・」
「よろしくなっ!」
会長がそういうと後に続いて月子と颯斗が挨拶をする。
月子は満面の笑みで、颯斗は困ったような顔をしながらも歓迎ムードで星海たちを迎えてくれた。
星海と翼は一度顔を見合わせると、思わず笑ってしまった。
翼は嬉しそうに目をつぶりながら。
星海は仕方なさそうに呆れながら。
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キラキラの笑顔がそこにはたくさんあった。
そのときの自分は戸惑うばかりだった。
嬉しいのに悲しいような。
懐かしいのに新しいような。
そんな感情に戸惑うことしか出来なかったんだ。
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