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小説
EpisodeT もう一人、もう一つ



星月学園入学式前。


学校内の一角にある生徒会室でそれは発覚した。

入学式を前に仕事を片付けていた生徒会長、不知火一樹はふと、一枚の書類に目がとまった。

その直後、事態を徐々に理解するようにゆっくりと一樹は目を見開いた。


「ん!・・・こ・・・これは・・・!」

「どうかしましたか?会長」


両手で鷲づかみ、食い入るように書類を見る一樹を見かねて、副会長の青空颯斗が声をかける。


「これを見ろ!」

「?・・・今年の入学生徒名簿?これがなにか?」

「いいから、ここ見ろ!ここ!」


執拗に促され、しかたなく一樹の指差す部分に目を落とす。


「・・・!これは・・・!」

「だろ!?俺の見間違いじゃねぇよな!」

「はい・・・確かに・・・」


驚きのあまり、顔を見合わせる。

二人が状況を完全に理解する前に、生徒会室のドアが開けられる。


ガラッ・・・!


「おはようございます」


ドアを開ける音と同時に一人の少女――夜久月子が現れた。

二人はその姿を認めると、同時に月子のほうへ視線を向ける。

しかし、その視線は月子を迎え入れる視線ではなく、その存在を待っていたというような視線だった。

その視線が妙に痛く感じた月子は、すかさず二人に疑問を投げかける。


「どうかしたんですか?二人とも」


まったく状況を理解していない月子はきょとんとした顔で二人を見る。


「あ・・・いや・・・」


いきなり現れた、張本人に一樹は一瞬ひるむが、すぐにもう一度、颯斗に目をやる。

颯斗が柔らかい笑みでひとつうなずくと、一樹も笑顔でうなずき返し、手にしていた書類を月子に手渡した。


「なんですか?・・・これ、今年入ってくる入学生の名簿・・・?」

「読んでみろ」


読む、なんてことを言われても書いてあるのは生徒の名前ばかり・・・。

月子が疑問を持ち始めた矢先、ある一人の名前に目がいった。

そして、月子は目を丸くしながら息を呑む。


「・・・天野・・・星海・・・ちゃん?・・・女の子・・・」


そう呟き、再び二人を見ると、一樹は腰に手を当て、颯斗は手にした書類を胸にその事実を確かめるように微笑んだ。


「・・・これ・・・私、喜んでいいんですよね・・・」


本当にうれしかったのか、月子は目を丸くし、少し戸惑いながらそう言った。


「あたりめぇだろ!」

「よかったですね」


そう二人が言ったとたん、月子は今までに出したことの無いような満面の笑みで笑った。


「・・・女の子・・・。私以外にも、もう一人・・・」


月子はしばらく、その『天野星海』と書かれた名前を見つめていた。

そんななか、一樹がうれしそうに言った。


「そうだ!こいつを生徒会の新しい会計職につければ!」

「それはダメですよ」


その言葉を、颯斗が一蹴する。


「もう新しい会計職は生徒会で話し合って決まったじゃないですか・・・それに・・・」


そこで、颯斗は手にしていた書類をペラペラと開いて、一枚のページを探し当てると、それを一樹に見せながら言った。


「その、天野さんは運動や体力は男子並でも計算や金銭感覚といった力は皆無。中学のときの履歴を見ても明らかです」

「・・・だが・・・」


颯斗の完璧な読みに一樹は怯むが、それを月子が止める。


「会長。無理にその子を生徒会に引き連れなくてもいいです。その気持ちだけで十分ですから」


そういう月子はまったく残念そうな顔は見せなかった。

むしろ、それだけでうれしいというように月子は笑った。


「そうか・・・」


しばし、三人は顔を見合わせたまま、沈黙した。

その中には、喜びも、期待も、うれしさも、いろんな気持ちが飛び交っていた。


「さぁ、ではもうすぐ入学式が始まりますよ」


沈黙を破ったのは颯斗だった。


「あぁ、そうだな」


そして、一樹があとに続く。


「どんな子がくるのか、楽しみですね」


月子もそれに同調する。


「会長。挨拶のほうは大丈夫ですか?」

「おぅ!」

「あんまり入学生たちを怯えさせたらだめですよ?」

「なっ・・・!」


そして、再び三人の間に笑いが飛び交った。




















そして、もう一つ・・・。



三人が生徒会室を出ようとしたとき、一樹がふと一つのことを思い出す。


「ん・・・?天野・・・星海って・・・どっかで・・・」

「どうしたんですか?会長」


その呟きを聞いた月子が、一樹に問いかける。

颯斗も一樹のほうに振り返る。


「・・・いや。なんでもない・・・」


そして、ここから新たなストーリーが始まる。





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あきゅろす。
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