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小説
間章:お兄ちゃん



「おはよう、羽音ちゃん!」


翼が学校へ行った後、自分も学校へ行こうと準備をしていた羽音に透き通った柔らかい声が聞こえてくる。


「おはよ、詩織。いつもいつも、ありがとうね」


玄関前に立っていたのは、とても大人しそうな美少女だった。


「ううん、いいの。お家近いし、羽音ちゃんにはいつも助けられてるから、迎えに来るくらいさせてよ」

「うん。でも、詩織いっつも誰かにつけられたりとかしてるから、心配なんだよ・・・今日は大丈夫だった?」


周りを見渡しながら羽音は眼前の少女を心配するように言う。


「うん。おかげさまで。・・・ところで、翼さんは?」


そういって、羽音の親友――柚木詩織は羽音の出てきたドアの向こうに目を向けた。


「え?」


詩織の問いに羽音は一瞬戸惑ったが、少し考えた後、羽音は言った。


「あぁ、今日は珍しく早く学校に行ったんだよ」


そういうと、ふっと詩織の表情が曇った。


「・・・そうなんだ」


急に元気の無くなった詩織を心配して、羽音は声をかける。


「? どうかした?」

「ううん。別に。いこっか!」


心配そうにしている羽音に気を使ったのか、詩織はいつもの笑顔でそう言った。


「・・・・・・」


詩織の様子がおかしいと感じたのはここ最近だった。

毎日のように迎えに来てくれる詩織。

その行動には、羽音も感謝していた。

しかし、最近は何かを楽しみにしているように詩織は羽音を迎えに来るのだ。

そのときはいつもは翼もいて、羽音が迎えに来ると翼はたった一言だったが、声をかけていた。

だから、翼と詩織は直接の関係こそないが、そこそこ知っている仲ではあったのだ。

詩織は、翼に声をかけられるといつも頬を染めていて、そこからはすごく詩織の気分が高まっているのを感じていた。

勘の良い羽音は詩織が翼に恋をしているのだと気づいた。

それも、ずっと前から。


「羽音ちゃん!早く!」

「う・・・うん!」


翼を迎えに来ていたあの女の人をどう説明すべきか・・・。

きっと、詩織はショックを受けるだろう。

たとえ、それが翼の彼女でなくてもだ。

本当は気づいていた。あの女の人が、翼の彼女なんかではないこと。

しかし、翼はあの女の人のことが好きなのだ。

これも、羽音の勘がそう言っていた。


―どこまでも・・・無神経なんだから・・・


心の中で、兄である翼を一蹴した。


―この調子じゃ、詩織がお兄ちゃんのこと好きなのも知らないわね・・・


年も違う、仲もそんなに良い訳ではない。

この二人の恋がすぐに実るということはどう考えても無理があった。

しかし、急がなければいけないこともわかっていた。

翼はもう、あの迎えに来た女の人に想いを寄せている。

両思いになるのは時間の問題だった。

羽音は心の中で葛闘する。


―でも、このままじゃ詩織がかわいそ過ぎる・・・

―なんとかして、二人を近づけなきゃ・・・!


「ねぇ、詩織ぃ〜」


わざと、悪戯っぽく羽音は持ちかける。


「な・・・なに?」

「詩織、あたしのお兄ちゃんのこと・・・好きなんでしょ?」

「!!!//////」


一気に詩織の頬が赤くなるのがわかった。


「え!?そ・・・そんなこと・・・ッ!」


必死に否定しようとするが、羽音は詩織にさっきとは違う真剣な面持ちで応える。


「嘘つかなくて良いよ。・・・大丈夫。お兄ちゃんにはまだ言わないから」

「・・・///」


詩織の気持ちが落ち着いていくのがわかった。

それと同時に、眼前の少女に嘘など通用しなかったことに気づき苦笑いをする。


「今度さぁ、お兄ちゃんいるときに家に遊びに来なよ!あたしが良いようにしてあげるからさ!」

「え・・・えぇぇ!・・・む・・・無理だよ、私、翼さんの前じゃあ全然話なんか・・・」


頬を染めながら必死に否定する詩織は、愛らしくも見えた。

だが、その反応は読みどおりというように、羽音は続ける。


「大丈夫!あたし、ずっと羽音から離れないから!」

「で・・・でもぉ・・・」


なおも怯む詩織に羽音は駄目押しをする。


「お兄ちゃんと、仲良くなりたくないの?」

「・・・・・・//」

「お兄ちゃんに、好きになってもらいたくないの?」

「・・・なって・・・もらいたい・・・」


その答えを聞いたとたん、羽音は満面の笑みを浮かべた。


「よぉし!じゃあ、お兄ちゃんと詩織のラブラブ大作戦スタートだ!」

「ラブラブなんて・・・そんな・・・早すぎるよぉ・・・」


そんな話をしながら、恋する乙女とそのキューピットなりえる少女は歩き出す。

まだ見ぬ未来を夢見ながら・・・。





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あきゅろす。
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