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小説
【池袋に巣くう異人たち】ファイルB:セルティ・ストゥルルソン(黒バイク・首なしライダー)



□■□■□■□■□


某廃工場内



「おい。まだ運んでないやつあるか?」


錆びれた匂いが漂う廃工場。


「いえ!もうありません!」

「よし。じゃあサツに見つかる前にさっさと行っちゃいましょう!」

「お前が仕切んな」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。これで俺達大金持ちですよ」


怪しい会話を繰り広げている男達が3人。


「じゃ、行くか・・・」


止めてあったバンの中に男達が乗り込む。

男達の中心であろう男が助手席に乗り、その手下らしき男が運転席に、後部座席に青年という言葉がぴったりな男が乗るとバンを発車させた。

トランクスには大量のダンボールが運ばれている。

すると、後部座席に座っていた一番年下であろう青年が口を開いた。


「ところで、このダンボールの中には何が入ってるんですか?」

「あぁ、お前は知らなかったか」


助手席に座っていた男が応える。


「・・・これだ」


男は人差し指と親指を立てて後ろに座る青年に見せた。


「バーン・・・」

「・・・こんなに!?」

「あぁ、これを裏ヤクザの闇商人に売って金にするんだ」

「相当儲かるぜ・・・ククッ」


青年は息を呑んだ。


―知らなかった・・・こんなのサツに見つかったら一発でアウトじゃないか・・・


手に汗をかきながら、青年は早く終われと念じ続けた。

実際、この仕事にかかわろうと思ったのも単に金が目当てだったからだ。

ネットで『短時間で大儲けできる』などという項目があったのを見て疑いはしたものの、金のためなら仕方ないという理由で登録した。

やばい仕事やらされるんだとは覚悟していたが、いざやるとなると覚悟が弱まる・・・。


「ん?なんだ?」


青年がそんなことを考えていると、運転席に居た男が突然声を上げた。

見るとかすかだが前に黒い人影が見える。


「サツか?」

「に・・・逃げましょうか?」

「待て、下手に逃げたら怪しまれる」


前の席に座っている2人の様子がおかしくなったので、青年も前を見てみる。


「あ!・・・あれって・・・!」


その正体に気づいた青年は驚いた顔を見せる。


「く・・・黒バイク・・・」


ネットでこの仕事を調べる際、何度か見た。

それはまさしく池袋の街では何度も週刊誌に載っているほどの有名な『都市伝説』だった。

漆黒のバイクに跨った顔をフルフェイスメットで覆っている影。

しかし、そのメットのしたには『何もない』という人々を恐怖に落とし入れる存在。

そんな存在が今、青年達の眼前に居る・・・。


「逃げろォォォォォ!!」

「こ・・・殺される・・・ッ!」


運転席の男が即座にUターンして黒バイクから逃げようとする。


「き・・・来たぁぁああぁぁあぁぁ!!!」

「おい!落ち着け!死にてぇのか!!」


横を見るとすでに黒バイクはこちらに追いついていた。


「そこ曲がれ!!」


助手席に座っていた男が慌てて男に指示を出す。


―出たか・・・上司から、この手の仕事やってると何度か出るとは聞いていたが・・・


「とにかく角という角を曲がり続けるんだ!!・・・死にたくなかったら慌てるんじゃねぇぞ!!」


そう指示をして、やっと黒バイクが入ってきにくそうな細い道に入った。


―ふっ・・・こんな細い道じゃ、あいつも追ってこないだろう・・・


男がほっと息をついた、そのとき!

バンの前が暗くなり前方が確認できなくなってしまった。

真っ暗で光が反射しない・・・まるで、漆黒の影のように・・・。


「な・・・なんだっ!!」


そのせいで運転が不可能になり、バンを止める。


―どうなってんだ・・・!!


「うあぁああぁあ!!!」


突然影がドアの隙間、窓の隙間からバンの中に入り込み増幅しはじめた。


「し・・・死ぬぅうぅぅうぅぅぁあぁぁあ!!!!!!」


運転席の男はついに自我を失い、バンの中が影で埋まらないうちに外に駆け出した。


「おい!!ちょっと待て!!!」


―どうする・・・?

一番年上の男もこの非現実的な光景に我を失いかけた。

しかし、どうにか冷静を保とうとこの状況をどう切り抜けるか考える。


「せ・・・先輩・・・・!!」


影は刻々とバンを埋め尽くす。


―俺達に・・・勝ち目はねぇのか・・・ッ!!!


「くそ・・・・・・くそ・・・くそぉぉおおぉおぉお!!!」

「!! 先輩!!」


ついに、一番の頼りだった男もバンを出た。

影はもうバンの扉を覆い隠そうとしている。


「・・・・・・クッ!!」


青年は意を決し外へと出た。


バタッバタッ・・・


・・・・・・人の倒れる音がしたと思ったら、そこでは先に出て行った男達が倒れていた。


「せ・・・せん・・・ぱい・・・ッ・・・」


後ずさり、逃げ出そうと思った。


―・・・・・・やっぱり・・・どっちにしろ・・・俺は死ぬんだ・・・・・・


青年は後悔した。

やっぱりこんな仕事受けなければよかったと。

楽に金を儲けるなど、無理なことなんだと。


―だから・・・嫌だったんだ!こんな仕事っ!!


無責任なことを言いながら、青年は拳に力を入れた。


「・・・・・・ッ!!!」


後ろに気配を感じ振り向いた。

漆黒の影・・・それはまさしく影そのものだった。


「あ・・・あ・・・ああぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!」


影は変化し、巨大な斧と化し、そのまま男に向かって振るわれた。


バタッ・・・


・・・・・・男が倒れたのを確認すると、漆黒のバイクの操縦者は、バイクを『馬』でも操るかのように撫でた。

バイクから馬の嘶きのようなものが聞こえたかと思うと、バイクは音もなく走り出した。

エンジン音も何もなく、ただかすかに馬の蹄のような音を響かせながら・・・


□■□■□■□■□


池袋サンシャイン通り



「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


景子は何かを喜ぶように走っていた。


―今日はいい日で悪い日だ。

―見逃しちゃいけない幾多の情報番組、ニュース、ドキュメンタリー、特番は全部録画してこの目に収めないといけないのに・・・!

―私としたことが、今日の『特撮!池袋警察24時』を録画するのを忘れていた・・・ッ!!

―でも、よかった。今日早く仕事終わって!このまま行けばちょうど間に合うかも!!


鮫島景子は世の中の怪奇、不可思議な現象にとても興味を惹かれる性格である。

しかしそれは昔からというわけでもなく、むしろ昔は、その手のことに疎い性格であった。


・・・彼女が高校3年生のとき。


彼女の父は記者をしており、父の情報集めのため家族で日本を転々とすることが多かった。

そのときたった3ヶ月だが、池袋の来神学園(後の来良学園)に一時転校したことがあった。

そこで、名前などは知らなかったが、池袋の異常や、街に巣くうカラーギャングなどを見て、興味を惹かれた。

それから、世の中の異常に興味を持ち始め、父のように記者になることを志した。


そして・・・


「やぁ、久しぶりだね。景子ちゃん」


突然景子の真上からに聞き覚えのある声が降ってきた。


「い・・・臨也くん!?」

声のしたほうを見上げると、長いコートに身を包んだ細身の男がビルの屋上からこちらを覗いている。

そんな状況を景子は特に危ないとも思わず会話を続けた。


「どうしてここに!?」

「いや、それはこっちの台詞だよ。なんで景子ちゃんがここにいるの?」

「なんでって・・・」


景子はそこで少し頭をかしげた。


―臨也くんは言わなくても知ってるんじゃ・・・私の性格知り尽くしてるから・・・

臨也は景子が来神にいたころの唯一の友達だった。

短い間ではあったが、臨也の性格は知り尽くしている。


「あれ?もしかして、言わなくても俺ならわかるんじゃないかって思ってる?」


景子の考えていたことをズバリと当てられたので、景子は素直に驚いてみせる。


「すごいね。臨也くんの超能力。昔っからなにもかわってないや・・・」

「超能力か・・・」


臨也はクス・・・と笑い景子を見下ろす。


「・・・私、来良のとき池袋がすごくきになって・・・ここで記者をやってるの・・・・・・で、臨也くんは?」

「俺は新宿で趣味で情報屋をやってるんだ。本職ではないけどね。・・・今日はちょっとした野暮用でここに・・・」

「へ〜。そうなんだ・・・」


景子はその言葉にちょっとした違和感を感じた。


―本当かな?臨也くん超能力もすごいけど、人を騙す嘘も得意だったから・・・。

―新宿で・・・ってのは本当だと思う。・・・たぶん。でも、野暮用は、嘘。きっとなんかしようと企んでんじゃないかな・・・


急に黙り込んで何かを考える景子を見て、臨也は思う。


―・・・昔から変わっていない・・・。やはり、俺の考えをことごとく読んでくる。

―・・・君のほうが、よっぽど超能力者だよ・・・。


「・・・そんなことより、君は確か急いでたんじゃない?」

「へ?」


臨也に言われ、景子は我に帰る。

そして、自分が今まで何のために急いでいたのか考え、あわてて言う。


「あぁぁぁ!!!!そうだった!私、早く帰んないとっ!!!じゃあ、臨也くん!また、今度ね!」


景子が去っていくのを見送ると臨也は悪意に満ちた笑顔で笑いながら言葉をつむぐ。


「・・・景子ちゃんは俺が出会った人間の中で一番人間らしい。それと同時にあの子は俺を友達だと認めてくれる・・・・・・これほどまでに俺が望んだ人材はないよ・・・!」


そして楽しそうに楽しそうに、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように、笑う。

笑う。


「これだから人間は大好きだ・・・!」


□■□■□■□■□


川越街道沿い 某安アパート



「!!! ギリッギリセ〜フゥ〜!!」


景子はドアから勢いよく部屋に入ると、流れるような動作でリモコンを取り、テレビに電源を入れた。


『特撮!池袋警察24時!』


番組のオープニングが流れ、画面には上空から撮影された池袋の街が映し出される。


『今日、注目するのは・・・最近池袋に赴任してきたという敏腕白バイ警官、葛原金之助・・・』


「急いで録画しないと!・・・・・・ああ!!『ニュースONE』とかぶってるぅぅ!!」


録画メニュー画面を開き、試行錯誤する。


「こうなったら・・・裏技をっ!!」


携帯を開きワンセグ機能を展開すると、そのチャンネルにあわせ、録画した。


「ふっふっふ〜お父さんに教えてもらった裏技なんだもんねぇ〜」


そういって安心すると、ふと、先ほどのことを思い出して考える。


―臨也くん・・・何する気なんだろう・・・


―昔っからムダに頭よかったし・・・いろんな事普通にやってのけて・・・


そこまで考えると、景子はいつものようにパソコンを開き、起動させる。


「まぁ、いろいろ考えてもしかたない!・・・何か起こったら起こったで面白いことが起こるかもだし」


景子は立ち上がったパソコンでまず、チャットを開く。


それも一個ではなくいくつかのチャット画面を同時に開き情報を集める。


□■□■□■□■□


チャットルーム さくらんぼ♪



――キャビアさんが入室されました。



キャビア【こんにちはー・・・まだ誰もいない感じですかぁ?】



――みぞれさんが入室されました。



みぞれ【こんにちは。待ってましたよ】

キャビア【あ!みぞれさん!待機ですか?】

みぞれ【はい。誰もいなかったので、様子見てました。キャビアさんが来て安心しました。このまま誰も来ないものかと・・・】

キャビア【やだなぁ〜。必ずしも私は、毎日来ますよ!】

みぞれ【そうですよね。考えてみれば、キャビアさんが来てない時はあまり無いような気がします】



――桜華さんが入室しました。



桜華【こんちはーーO(≧▽≦)O 】

キャビア【こんにちは!今日もテンション高いですね!】

桜華【こんなのテンション高くないとやってられませんよ!!】

みぞれ【こんにちは】

桜華【こんにちは!いつもおしとやかですね!!】

みぞれ【そんなことは・・・】

キャビア【きっとみぞれさんって、現実の方でもおしとやかですよ!!】

桜華【それは絶対わかる!!】

みぞれ【ありがとうございます】



――甘楽さんが入室されました。



甘楽【こんにちは!そして、はじめまして!!】

キャビア【お?新顔ですか??また、ここのチャットルームが賑やかになりそうですね】

みぞれ【3人しかいなかったですからね】

桜華【ところで、甘楽さんって推測ですけど女の方??】

甘楽【どうでしょう・・・】

桜華【ま・・・まさか『オネカマ』さんですか・・・!!】

みぞれ【失礼ですよ】

桜華【す・・・すみません】

キャビア【ってか『オネカマ』ってなに・・・】

甘楽【ところで、ここって主にどんなことについて話してるんですか?】

桜華【主にどーでもいい話かな】

キャビア【たまに変なこととか、不思議だなって思ったこととか?】

みぞれ【私は池袋にいないんですけど、『黒バイク』のことならキャビアさんから聞いてだいたいは知ってます】

甘楽【わたしも黒バイクのことは知ってますよ!】

キャビア【甘楽さんって池袋の人ですか?】

甘楽【まぁ・・・一応】

桜華【あ!そうだ、わたし今日黒バイク見た!!】

キャビア【嘘!!どこで!】

桜華【栗楠会の事務所近く!】

キャビア【なにしてたの?】

桜華【それはわからないけど・・・】

みぞれ【いいなぁ〜私も黒バイク見てみたいです!】

キャビア【今度池袋に来て見たらどうですか?】

みぞれ【はい。是非】

甘楽【そういえば、黒バイクの噂って知ってます?】

みぞれ【噂?】

桜華【なになに!?】

キャビア【首が無いって話ですか?】

桜華【えっ!!なにそれ!】

みぞれ【怖いですね・・・】

甘楽【人間じゃないとか】

キャビア【それは知らない・・・】

みぞれ【人間じゃないってどういうことですか?】

桜華【幽霊ですか・・・?】

みぞれ【桜華さん・・・やめてください・・・】

キャビア【幽霊にしては存在がはっきりし過ぎてません?】

桜華【そういえば】

みぞれ【見たって人も多いみたいですし・・・】

甘楽【妖精なんですよ】

桜華【妖精!?】

キャビア【それこそ、現実味が無いって言うか・・・】

甘楽【これは私の独学なんですけど、アイルランドの妖精に黒バイクと似たようなのがあるんですよ】

桜華【本当ですか!?】

みぞれ【なんか神秘的ですね・・・】

甘楽【あくまで噂ですけど】

キャビア【・・・なんか、甘楽さんって私の友達に似てますね】

甘楽【? どんな人なんですか?】

みぞれ【キャビアさんの友達、気になります】

桜華【甘楽さんに似てるてどゆこと?】

キャビア【あ、すいません。性別からして違うんで流してください】

みぞれ【男の方?】

桜華【キャビアさんも隅に置けないですね!!】

キャビア【だから友達だって言ってるじゃないですか!】

内緒モード 甘楽【あのーキャビアさん】

内緒モード キャビア【はいはい?どうしたんですか?】

内緒モード 甘楽【ちょっとお話がありまして】

内緒モード キャビア【あぁ、さっきの話は気にしないでください。すみませんでした・・・】

内緒モード 甘楽【いえ。そういうことではなくて、実は私が管理してるチャットルームがあるんですけど、来て見ませんか?】

内緒モード キャビア【甘楽さんが管理してるとこですか?】

内緒モード 甘楽【はい!主に池袋について話してるんですけど】

内緒モード キャビア【お誘いありがとうございます。じゃあ、今度行ってみますね。そのときはよろしくお願いします】

内緒モード 甘楽【こちらこそ♪】

キャビア【それじゃあ、私はこれで失礼します】



――キャビアさんが退室されました。



みぞれ【じゃあ私も。遅くなってきましたしね】



――みぞれさんが退室されました。



桜華【私も落ちまーす】



――桜華さんが退室されました。



甘楽【じゃあ、みなさんお疲れ様でした】



――甘楽さんが退室されました。



――チャットルームには誰もいません。


――チャットルームには誰もいません。


――チャットルームには誰もいません。


□■□■□■□■□


川越街道沿い 某高級マンション



カチャ・・・


「セルティかい!!おかえり!」


ドアの開く音がして、飛び上がる新羅。


『あぁ、ただいま新羅』


PDAに記された文字を読みながら、新羅がいつもどおりセルティに対する愛の言葉を紡ぐ。


「あぁ、セルティ!帰るのが遅いから、僕はもうセルティがいないという拷問で死にそうだよ!!」

『あぁ。ゴメン。今日の仕事は少し手こずって・・・』


そこまでPDAに文字を打ち込むと、セルティはテーブルの上に新羅の医療関係のものが入っているバックがそのままになっているのが目に入った。

セルティは途中まで書いた文字を消して、新たに文字を書いた。


『誰か来たのか?』

「ん?・・・あぁ。静雄がつい2〜30分前に」

『珍しいな。怪我でもしたのか?』

「足を骨折したって。・・・普通に歩いてたけどね」


新羅が苦笑いをしてそういうのを見て、セルティが肩を上下にひくつかせて笑う動作をした。


『静雄は本当に頑丈だな』

「僕だって、セルティが危険な目にあったときは、自分のみを頑丈な盾にして護ってあげるよ!」

『私を置いて死ぬなよ!・・・私だって新羅を護りたい・・・』


しばし、二人の間に惚気た雰囲気が訪れたが、すかさずセルティが新たな文字を紡いで新羅に見せる。


『じゃ・・・じゃあ、私はいつものチャットの時間だから・・・!』


早足で自分の部屋に行くセルティを見て、新羅はまたうれしそうに独り言をつぶやく。


「『顔真っ赤に』しちゃって・・・本当にセルティはいつも可愛いな」






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