小説
学校と弁当と妹
・・・この学校の制服も、ちゃんと着たのは初めてだ。
―俺、何組だったっけなぁ・・・
「神城君。こっちよ」
水無月はいつの間にかいつもの水無月に戻っていた。
少し残念だな、と思いながらも神城は水無月についていく。
「・・・おう」
1-5と書かれた標識が目に入った。
「入るわよ」
水無月にそういわれ、教室の中に入っていく。
・・・・・・
刹那。騒がしかった教室が一気に静まり返った。
みな一様に神城に目を向けている。
だが、神城本人はその様子をさりとて気にはしなかった。
―俺のこと知ってる奴はこのクラスでも水無月くらいのものだからな・・・
「俺の席は・・・」
「私の隣」
―水無月の隣・・・
神城が胸の中でそう思うのもつかの間。
神城がその席に着いたとたん、再び教室が騒ぎ始めた。
『ねぇ・・・あれ誰?』『あの席って誰もいなかったよね?』『なんか水無月さんと親しげだぞ』『なんかむかつくな・・・』
いろんなとこらから送られる『神城翼』へ向けての視線。
それから教室の空気が静まることはなかった。
ガラッ・・・!
そのとき教室の前の扉が開き、このクラスの担任であろう30代後半の男が入ってきた。
「おーい!騒がしいぞ!いったい何を騒いで・・・ッ!」
そこまでいうと、担任は神城の方を見て驚いた表情を見せた。
しかし、すぐに出席簿を取り出すとクラスの出席を取り出した。
「・・・・・・出席を取るぞ!・・・鈴木」「はい・・・」
―やっぱ驚くよな・・・全然授業に出なかった奴がいきなり出てきたら・・・
神城は「フッ・・・」と口元で笑いながら自身の名前が呼ばれるのを待った。
「・・・・・・神城・・・翼・・・」
担任の表情はやけに硬かった。
「・・・はい」
ため息混じりに返事をすると、担任は神城の方をじっと見て皆の方に振り向いた。
しばらくの担任の長い話が終わり、担任が退室する。
担任が退室した後、再び教室は騒がしくなった。
『誰だよ神城って・・・』『先生もなんかあの人みてびっくりしてたし・・・』『転校生だろ?』『だったら自己紹介とかあるだろ?』
「・・・神城君。別に気にしなくていいのよ?」
水無月が、神城を気遣ってそんなことを言ってきた。
「別に気になんてしてねぇよ・・・こんなんは・・・もう慣れた」
゚・*:.。..。.:*・゚
午前中の授業が終わり、神城は一言もクラスメイトと話すことも無かった。
水無月に神城のことを聞くものもいたのだが、クラスメイトには詳しい情報は話さず、ただ「たまたま、知り合いだっただけ」ということで済ましていた。
もちろん、さすがにそんな理由で納得した者もいなかったのだが、そこまで深く聞くほど、皆は神城のことなどあまり興味が無かったようだ。
実際、クラスの男子数名は神城のことをネタに水無月と話したかっただけという風にも見えた。
神城はそんなことなどさらさら気にもしていなかったのだが・・・。
「神城君」
そんなことを考えながら、机に突っ伏していた神城に水無月が話しかけてきた。
「ん?なんだ?」
「一緒にお昼にしましょう?」
「昼?・・・昼なんて・・・」
―あ・・・そういえば羽音のやつが、なんか作ってくれてたな・・・
神城はいままではサボってばかりで、昼食は適当に見繕っていた。
しかし、今日に限ってなぜか神城の妹である『神城羽音』が兄のために弁当を作ってくれていた。
ちょうどいいといったらちょうどいいのだが・・・なぜ今日に限ってそんなことをしたのか神城にはわからなかった。
だが、一つ思うあたる節があるとすれば、神城の母親はすごく勘が鋭かったのを覚えている。
「DMAってやつか・・・まったく・・・」
そういって笑いながら、かばんの中に入っているであろう弁当箱をとりだした。
「あら。神城君もお弁当を作るのね」
水無月が神城の弁当箱を見ながら驚いたように言った。
「いや、これは俺の妹がだな・・・」
「いい妹さんね」
神城が言うよりも先に、水無月が俺の答えに対して返答した。
「・・・まぁな・・・ところで、どこで食べる?」
「屋上へ行きましょう」
水無月の答えに、神城は少し驚いた。
「お前から屋上に行こうなんて珍しいな」
「ツバサがいるから・・・」
一瞬自分のことかと驚いたがそんなわけも無く、すぐに「あの鳥のことだな」と思い、先ほどの水無月の答えに納得した。
「じゃあ、行くか」
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