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小説
【池袋に巣くう異人たち】ファイルA:平和島静雄



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池袋 某所



「イ〜ザァ〜ヤァ〜くぅん??池袋にはくんなっつったよなァ・・・あぁ!?」


池袋のとある細い路地裏から、底冷えのする声が響いた。


「げっ・・・シズちゃ〜ん・・・」


手に軽々と標識を持ち上げているバーテン服の男が眼前にして居るのは『イザヤ』と呼ばれたこの場に似合わない爽やかな好青年。


「だからぁ・・・その呼び方ぁ・・・やぁめろっつってんだぁあぁぁあぁ!!!!!」


バーテン服の男は標識を意図も簡単に振り回す。

それを、青年は慣れたように避けてみせる。

はたから見れば、とても現実とは思えない光景だ。


「うぅらあぁぁぁぁ!!!」


バーテン服の男は標識を放り投げた。


「・・・うぉっ」


そしてすぐそばにあった自動販売機に手を掛け持ち上げようとしている。


―いやぁ・・・さすがに自販機はやばい・・・


「見逃してよぉ〜シズちゃん・・・」

「うぅるっせぇぇぇええぇえ!!!!!」


バーテン服の男は自販機を持ったまま、青年に向かって走ってきた。


―あっちゃあ・・・これじゃこっちに投げられかねない・・・逃げるか


青年は近くにあったビルの窓枠に手をかける。


「・・・っよっと・・」

「!!」


すると、なんと青年はそのまま跳躍して、二回の窓枠に飛び移り、そのまま上へとまるで忍術のように壁を飛び回り始めた。


「さすがに自販機投げられちゃあシャレにならないからねぇ・・・・・・じゃね〜」

「待ちやがれぇぇぇえぇえぇえ!!!イィザァヤァァァアァアァァ!!!!!!」


バーテン服の男は青年を追うように自販機を持ったままビルを駆け上がろうとする。


・・・・・・バキッ


しかし、足に自身の重さと自動販売機の重さが、コンクリートに向かっておもいっきり掛けられたため、さすがにそれは無理だったらしくバーテン服の男の右足からは骨の折れる不快な音が響き渡った。


「・・・チッ」


骨が折れたにも関わらず、男は特に痛がる様子もなく、さらにはその折れた足で無理やり歩き始めた。


「・・・・・・また新羅に借り作らなきゃな・・・」


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某雑誌編集社 屋上



「・・・ふぅ・・・まぁ、アレから撒くのは今も昔も大変だねぇ〜」


気づけば、もう夜中になっていた。

青年―『折原臨也』は趣味で情報屋を営んでいる。普段は新宿に事務所を置いているが、ある仕事で池袋にやって来ている。

本業は謎。


「やっぱ、池袋はたのしぃ〜ねぇ〜・・・シズちゃんがもうちっとおとなしくしてくれれば、もっと楽しかったけどねぇ〜・・・」


そんな臨也の視線に偶然うつったのは某雑誌編集社の社員であろう2人の男女。


「お?ここに新しい社員が入ってきたみたいだね・・・」


そこで臨也は一人の女記者に目を向ける。


「・・・あの娘・・・・・・ハハッ・・・面白くなりそうだ・・・」


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臨也の視線の下、某雑誌編集社の社員である景子とその上司が、事務所に帰ってきた所だった。


「あ!・・・もうこんな時間か・・・」

「・・・そうですねぇ」

「ん〜・・・・・・新人、お前はもう上がっていいぞ」


景子の上司である男は、少し頭を掻いて悩んだ後、景子にとって嬉しい言葉を口にした。


「本当ですか!!」

「おう!あとは俺ら先輩に任せろ!」

「・・・本当にありがとうございます・・・入社したてなのにこんな時間まで付き合っていただいて・・・」

「なぁにいってんだ。入社したてだからこそ、付き合いがいがあるんだろーが」


男の笑顔に景子は安心した。


「では、また明日・・・」

「あ、待て!」


帰ろうとした景子の後ろから再び先輩の声が聞こえ、振り返る。


「? なんですか?」

「まだ、俺の名前言ってなかったろ?・・・俺の名は、千島吉宗。・・・あぁ、別にどう呼んでもかまわないから・・・みんなからは『将軍』やら『8代目』やら呼ばれてるけど・・・」


―あぁ・・・そんなわかりやすい・・・;


「いえ、私は普通に呼ばせていただきます・・・先輩に対して恐れ多い・・・」

「そんなかしこまらなくても良いのに・・・ま、いいけどよ」

「・・・それでは、私は失礼させていただきます」

「あぁ」


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川越街道沿い 某高級マンション



「セルティ、遅いなぁ・・・」


岸谷新羅は恋人である『セルティ・ストゥルルソン』の帰りを待っていた。

もっとも、セルティがこの家を出て、まだ1、2時間しかたっていないが・・・。


「僕にとっては、セルティと1分1秒、いや0.0001秒、いや0.00000001秒一緒に居れないだけでセルティが恋しくて仕方がないっ!あぁ、愛しのセルティ!君が俺の隣に居ない時間は・・・」


・・・ピンポーン♪


恥ずかしげもなく恋人であるセルティへの愛を叫んでいたところに、玄関のチャイムが響き渡った。


「ん?セルティ?・・・なんだよ、僕の愛の言葉が届いたのかい?・・・あれ?どうしてチャイム?部屋の鍵を忘れたのかい?」


その言葉と同時に扉を開くと、そこにはバーテン服の男が立っていた。


「あれ?静雄?う〜ん・・・ということはやっぱり僕の愛はセルティには届かなかったのかな・・・」

「・・・邪魔するぜ」

「あ!ちょっと待ってよ!」


知人とはいえ、人の家にズカズカ入る静雄を新羅が止めにかかる。


「・・・・・・」

「どうしたんだい?やけに機嫌が悪いみたいだね」

「・・・チッ」

「・・・まぁ、だいたい予想はつくけど」


―静雄が黙り込むくらい怒ってるってことはたぶん『臨也』が池袋に来てるんだろう・・・

―今度は何する気だ・・・?


「足が折れた。治してくれ」

「って、君さっき歩いてたよね!?」


言いながら、静雄の足の状態を見る。


―・・・確かに骨が・・・でも歩いて立って事は・・・


静雄がここへ来るのは昔から多々あった。

今ではあまりこなくなったのだが・・・

それは、それほど静雄が『頑丈』になったということだ。

壊れては治し、壊れては治しを繰り返しているうちに、静雄の内なる筋肉やら骨やらは見る見る頑丈になっていった。

だが、静雄はその体系に対してやけに細身である。

それは静雄の細胞、脳がより強さを求めるあまり、一点に力を込めるという手法をとったからだ。

静雄自身は喧嘩はあまり好まない。

今も昔も・・・

しかし、静雄自身の細胞や脳が勝手に動いて静雄を動かす。

その結果が、この『平和島静雄』という怪物じみた人間を生み出してしまった。


―足の筋肉だけでここまで歩いてきたか・・・信じがたいけど・・・静雄はどこまでも尋常じゃないな。


「はい。完全な完治までは、君の場合10日で十分だろうね。・・・一応ギプスはつけたけど、静雄歩けるみたいだから・・・これからどうする?」

「ノミ蟲ぶち殺しにいく・・・ッ!」

「そう・・・殺さない程度にね・・・」


―治すの俺なんだから・・・


「じゃあな。今度土産持ってくる」

「あぁ、よろしく頼むよ」


静雄が去るのを見送り、再び静けさが訪れるマイホームに新羅は先刻も言った言葉を口にする。


「・・・セルティ・・・遅いな・・・」





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