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小説
池袋

池袋 某雑誌編集社前



「君か?この会社に入りたいってのは・・・」

「あ、はい」


そこでは上司と部下らしき二人の男女が話をしていた。


「鮫島景子・・・経歴もいいし・・・うん、いいだろう。採用だ」

「!!本当ですか!?・・・でも、なんでそんな簡単に?」


上司らしき男が苦笑いを浮かべながら話した。


「あぁ、実は先日『贄川』って奴が、理由も告げずにやめてったんだよ・・・景気が悪いとはいえ、あいつ結構幹部だったからな・・・こっちとしては少し辛い状況だったんだよ。だからむしろ、君の入社はとても心強い」


「へぇ・・・そうだったんですか・・・でも、なんでやめちゃったんですかね?」

「・・・あいつあの時『平和島静雄』の取材に行くとか言って、それっきりだから・・・たぶん、ヘマして殺されそうになったんじゃ・・・だから、怖くなって・・・」

「え?ヘマって、どういうヘマしたら殺されそうになるんですか??」


半笑いで聞く、部下らしき女に、上司は驚いたように言葉を紡ぐ。


「お前、『平和島静雄』を知らないのか!?」

「え?・・・えぇ。私、上京してまだ間がないですから・・・そんなに有名な方なんですか?」


『ヘマ』をしただけで殺されそうになる・・・きっとそれはとても有名な大御所さんとか政治家さんなのだろう・・・と彼女は思ったが、次のその上司らしき男の言葉でそんな期待は打ち砕かれることになる。


「・・・『平和島静雄』は人間というにはあまりに危険すぎる・・・出す力が半端ないんだ・・・・・・あいつに関わったら最後・・・必ず死ぬことになる・・・・・・」


□■□■□■□■□


池袋 某雑誌編集社内



朝、上司の人から聞いた話は、あまり信じないことにした。

尋常ならざるを得ない力を出す男・・・なんて想像もつかないし、それならテレビとかで見るものすごい怪力を出す男・・・だとかそういうことなんだろうと納得していた。



―それよりも、私が気になったこと・・・それは・・・


「・・・黒・・・バイク???」


入社したてで何もわからない私は、とりあえず今までこの社で取り上げてきた記事を読みあさっていた。

そこで行き当たったいくつもの項目。

一つの雑誌に限らず、いろいろな社で取り上げていたとても大きな記事。

それはみんなそろって『黒バイク』という項目だった。

・・・いったい『黒バイク』がどうしたというのだろう・・・。


「あぁ、それか。いまじゃ、『首なしライダー』なんても呼ばれてるけどな」


景子が首をかしげていると、騒がしい社内からひとりの男が声をかけてきた。


「く・・・くくく、首なしィ!?」

「あぁ。いまや池袋の都市伝説になりつつある。その存在はまるで影のようだとも言われている。・・・そして、そいつの最も驚くべきところは・・・・・・この黒バイク・・・首から上が、まったくないんだ・・・」

「そ・・・そんな馬鹿なことあるわけないじゃないですかぁ〜首なしで運転してるなんて、無理ですよ。死んでますもん」

「それが・・・」


男は、まるで今から怪談話をするかのように声を潜めていった。


「それを、実際に見た奴も何人か居るらしい・・・」


その言葉を聴いた瞬間、景子の心の中には言い知れないなにかが込み上げてきた。

恐怖なのかものすごい期待なのか・・・

それでも彼女の心の中に真っ先に浮かんだのは、その実態をこの目で確認したいという、興味だった。


「・・・先輩は、見たことあるんですか?」

「いや。偉そうなことを言っちゃあいるが、俺もその実態は見たことはない・・・」

「そうなんですか・・・」


残念そうに言ったつもり・・・だった。


「?・・・どうした?顔がやけににやけてるぞ?」

「・・・・・・え?」


眼前の男にそう言われて混乱した。


―にやけてる・・・?

―もしかしたら・・・私は今ものすごく楽しいのかもしれない・・・


「あの!・・・私、その『黒バイク』に会ってきます!!」

「あ!おい、ちょっと・・・!」


まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせながら、この世の怪奇に、この街の異常に景子は心を躍らせていた。

もはや、景子をとめる男の声すら聞けなかった。

これだから、記者という仕事はやりがいがある。

改めて景子はこの街で記者という仕事ができてよかったと思い、街に躍り出る。


□■□■□■□■□


池袋某所



「あの!!この街で騒がれている『黒バイク』って、見たことあります?」

「あぁん?・・・あぁ、見たことだけならあるぞ」


眼前の男が携帯端末を弄りながら、景子の問いかけに応えている。


「ど、どこにいるんですかっ!!」

「どこってぇか・・・そこら辺にたまたま現れる」


だるそうに応える男にも容赦なく景子は聞き込む。


「そ・・・そこら辺?」

「人だかりとか出来てるとこに現れんじゃね?」

「人・・・だかり・・・・・・?あの、誰かその『黒バイク』と知り合いだとか言う人はいないんですかね?」

「んなもん、俺が知るわけねぇだろ・・・」


男がため息混じりにそういうのを見て、さすがにこれ以上聞き込むのは失礼だろうと思いこの場を去ろうと切り出した。


「あぁ、すいません・・・。ありがとうございました」


男は、一言別れの言葉をいうことも、一瞬たりともこちらに目を向けることもなかった。

景子はその態度をとくに不快とも思わず、東京ではこれが普通なんだと勝手に納得し、その場を後にした。

そのあともいろいろ聞き込みを続けたが、結局みな言うことは同じで・・・

しかたなく、何一つ情報を得ぬまま事務所に戻ることにした。

空がだんだん暗くなってきた。

だが、その空と対象的に池袋の街中では、急に『黄色』いものを一様に身につけた少年達が目立ち始めていた。

街のあちこちに必ず現れているその『黄色』に不気味さすらも感じた。


「・・・・・・何?」


再び混乱しそうになった。


―これは・・・なに・・・?


私は混乱してるのに周りの人はまるで気づかない。

気づこうともしない。

気づいているのに・・・さりとて気にしない。


「あ!!いたいたっ!!・・・おーい!」


何かの不安に呑み込まれそうになったのを、誰かの声が拒めた。


「・・・先輩!?」


やってきたのは、先ほど『黒バイク』の話をしてくれた、実質上司の男。


「はぁ・・・はぁ・・・・・・よっ、新人・・・おもしろいネタは見つかったか?」

「あ・・・いえ・・・・・・」

「ん?どうした?ボーっとして」


男は景子の目に映っている景色を見て、思い当たったように言葉を紡ぐ。


「あぁ、今度は、『黄巾賊』に目がいったか」

「『黄巾賊』・・・ですか?」

「あぁ、あの黄色い奴まいてる奴ら。まぁ、一纏めで言う、カラーギャングってやつだな」


―カラーギャング・・・か。


ヤンキーみたいのが一同に集まって出来たもの。

それが、一個の組織になってその組織のチームカラーを常に身にまとう存在。


「・・・なるほど。ここらでは結構有名なカラーギャングなんですか?」

「ん。まぁな。・・・まぁ、一年前の『ダラーズ』との抗争があってからは、随分昔とは大人しくなって、人数も減ってきたんだが・・・いまだ消えることのないチーム・・・」

「その、『ダラーズ』ってのも、カラーギャングなんですか?」

「あぁ。・・・ギャングっつーよりは、ただの物好きの集まりなんだが・・・まぁ、ここいらでは一番人数が多いチームなんじゃねぇか?」


・・・それにしては、目だった色を見せない。

いったい、『ダラーズ』のチームカラーは・・・。


「無色透明・・・」

「え?」

「・・・『ダラーズ』のチームカラーを知りたそうな顔をしてたから」


景子を見てにやりと笑う男を見て、景子は少し恥ずかしくなる。

「まぁ、『ダラーズ』にはあんまかかわんな。・・・いろいろ危険な奴も絡んでる・・・」


「・・・っその、危険な人って誰なんですか?」


すると急に男は景子に背を向け、少し間をおいてから言った。


「・・・そのことにはあんま首つっこむな・・・・・・下手したら巻き込まれるかもしんねぇから・・・・・・」

「は・・・はぁ・・・」


景子はまだ、もっとこの街の怪奇について知りたかったが、男がそれを拒んだ。


「・・・いくぞ!」

「あ!ちょっと、先輩っ!!」


―結局、『ダラーズ』の話は詳しくはわからなかった。


・・・これから、この池袋でどんなことが起こるのか・・・。

私は、それが楽しみでならなかった。

・・・それが、もう戻れない裏の世界へ繋がる扉だと知らずに・・・。





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あきゅろす。
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