小説
水無月の光-神城said-
ドタドタドタ・・・バタン!!
「お〜にぃ〜ちゃ〜んんんん!!早く起きてぇ!!」
朝、馬鹿でかい妹の足音とドアを開く音、そして聞きなれない台詞が聞こえた気がした・・・。
「・・・ZzZzZ」
・・・気のせいかもしれない
・・・・・・パシっ
「!!!!!・・・ぃいっっってぇ〜!!!!!」
いきなり今までにない、頭に響く衝撃が俺に降りかかった。
そのせいで、俺の睡眠は完全に妨害された。
妹の手には、上はふわふわでもっこりしたパンダなのに、下は変にへらべったく頑丈な底をした、妙にでかいスリッパが見えた。
でかく見えたのは、叩かれた衝撃で目がいかれていたせいかも知れないが、そこはあまり深く突っ込まないことにした。
「なにすんだ!!」と、言おうとする前に、妹が兄である俺だけに見せるきつい言い方で先に言い出した。
「彼女を待たせるって、男としてどうなわけ?」
・・・は?彼女??
「だいたい、前から約束してたんでしょ?だったら、待ち合わせ時間の1時間前には起きなさいよ!このグータラ!!しかも兄ちゃんは自分は頭がいいからっていーっつもサボってばっかで少しは授業に出なさいよ!!彼女は誰もいない兄ちゃんの席を見つめて想いにふけって悲しんでるのよ!!かわいそうと思わないの!?兄ちゃんが思ってるより、女の子ってのは本当にデリケートなんだからね!!!!」
・・・長々とした妹の説教を聞いていたが、どうもかみ合わないことがある・・・
俺には彼女なんて生まれてこの方一回もできたことがない・・・
なのに、なんでこいつは俺に彼女が居るなんていうでたらめを普通に信じて、今ここで説教をたれているのだろう・・・
「なぁ・・・俺には彼女なんて居たことも、ましてや付き合ってくださいなんてことも言ったことはないんだが・・・」
「はぁ!?この期におよんでまだとぼける気ぃ?」
「いや、とぼけるも何も本当のことなんだが・・・」
「あぁもう!とにかく!もう外で待たせてるから、早く支度してさっさと学校に行って!!」
妹がやけに忙しそうにいうから、本当に誰かが俺を迎えに来たというのは本当らしかった。
「え・・・・でも・・・」
「早くぅ!!!」
彼女・・・と勘違いするくらいだから、女の奴なんだろう・・・
誰だ?
・・・・・・考えているうちに、俺の中で一つの答えが生み出されていた。
・・・まさか・・・あいつが?
でも・・・なんで・・・?
珍しく俺は急いで玄関へ向かった。
「・・・・・・ん?」
そこには、俺が全く知らない奴が立っていた。
よくみると、水無月によく似ている。
当然、俺が思い当たった奴も水無月だったのだが・・・。
・・・三つ編みも、眼鏡もしていない。
むしろ、こいつは水無月よりも可愛い気がする。
「あのぉ〜・・・どちら様?もしかして、水無月のお姉さんとか?」
「あら、神城くん。待っていたわ」
だが、その声は俺が良く知っている声だった。
「・・・え?もしかして・・・????」
「どうしたの?私よ?・・・もしかして神城君は私の顔を忘れてしまったの?」
・・・え?
え?・・・えぇえぇぇえ!!!!
「・・・み・・・水無月?」
「えぇ。だから、そういってるじゃない」
「で・・・でも、眼鏡は!三つ編みは!?」
「早く、神城君に会いたくて忘れてきたわ!」
嘘・・・。
人は眼鏡や髪形を変えるだけでこうも印象が変わるものなのか!!??
ってか、むしろ別人じゃねぇか!!!
「・・・ゎいぃぞ・・・」
「え?なんか言いました?」
「そ・・・そっちのほうが可愛いぞ」
そう言ったとたん、水無月の顔が少しびっくりしたような顔になった。
「神城君も、そんなプレイボーイなことをいったりするのね」
淡い笑顔でそういう水無月は、本当にいつもと違う雰囲気で、俺はしばらくそんな水無月に見惚れていた。
「じゃあ、行きましょう?」
「?どこに?」
「学校に決まってるじゃない。今日からちゃんと授業にも出てくれるんでしょ?」
・・・そういえば、そんなことを言った気がしたなぁ。
「・・・ん・・・まぁ・・・ってか、なんで俺ん家知ってんだ?」
「先生に住所聞いたわ」
「・・・なんで普通に教えてんだ?・・・」
「なかなか授業に出ない貴方のこと、先生も少し気にしていたみたい」
・・・なるほどな。
さしずめ、誰とも知らない俺の担任、ないし、水無月の担任が、俺を引っこ抜いて来いと水無月に頼み込んだからに違いない。
「でも、別に先生が神城君をなんとか授業に出るよう、私に頼んだわけじゃないわよ?」
・・・・・・え?
「ただ私が、神城君と学校に行きたかっただけ・・・」
・・・これは告白されているのだろうか?
でも、それは多分ないんだと思う。
俺のうぬぼれだ。
水無月が俺に惚れるわきゃあないのだ。
水無月はこんなに美人で、いい奴なんだから。
「あっそ・・・ありがとな」
水無月とはじめてあった、通学路の坂道。
・・・桜がちょうど風に乗って散った。
風に揺れる水無月の長い髪は、ほのかな甘い香りを漂わせてキラキラと輝いていた。
きっとこれは幻覚じゃあない。
水無月は存在しているだけで、周りに何らかの影響を起こす。
・・・そんな奴だ。
そして、とんでもなく桜と似合うのだ。
・・・はたして、俺はこんな奴を恋人なんかにできるのものか?
到底無理な話だが・・・まぁ・・・今、こいつとこうやって一緒に入れるだけでも幸せなんだな、俺は。
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