小説
それぞれの秘密-神城said-
「ねぇ、神城君?」
ツバサの世話をしながら、水無月が話しかけてきた。
「ん?なんだよ」
「あなた、どうして『いつも』授業に出ようとしないの?」
「・・・え?」
『いつも』という言葉が引っかかった。
・・・どうして、俺がいつも俺が授業受けてないのを知っている?
「いつも、なんて言い方すんなよ。俺は今日始めて学校をサボったかもしれないじゃないか」
「・・・いいえ。いつもよ。あなたに会えたら聞こうと思っていたの」
「なんで・・・知ってんだよ・・・」
・・・こいつは俺のことずっと前から知ってたっていうのか・・・?
「だって、『私と神城君は同じクラス』だもの」
・・・え?『同じクラス』??
だって、俺は『入学式には』出ていたんだぞ?
『水無月葵』という超美人がいたら印象に残らないはずがない・・・。
「・・・そんなはずはないって顔してるわね。・・・知らないのも無理はないわよ。だって、私は最近転校してきたばかりだもの」
「・・・転校?」
今はまだ4月。入学式からまだ一ヶ月もたっていないのに、入学早々転校なんて・・・
「・・・父が外国で大手企業の社長をしているの。それで、私は中学を卒業してから、ずっと父の所に・・・」
「・・・ってか、お前って実は超金持ちなんだ・・・」
親父が大手企業の社長か・・・そんなベタな金持ち本当にいたんだな・・・
それに、最近転校してきたんなら、こいつの性格だ。
なかなか友達もできなかったのだろう。
はじめて対等に話せたのが俺だってことにもうなずける。
「いいえ。私はあまりお金は持っていないわよ」
「え?で・・・でも・・・」
「確かに、私が住んでるマンションの家賃とかこの学校に通うための学費とかは父がもっているけれど、生活費は全て私もち。アルバイト生活よ」
水無月も俺らと同じような生活をしているんだ・・・。
意外だ。
こいつならば、超大豪邸に住んでてもおかしくない。
「それより、ずいぶんと話がずれてしまったわ。私のことじゃなくてあなたのことを聞いているのよ、神城君」
そうだった・・・話がずれて俺の話から水無月の話になってた・・・。
できれば・・・いいたくなかったが・・・
「もしかして、あなたはものすごく頭がよかったりするのかしら?」
俺が話そうとする前に水無月があながち間違っちゃいないことを言った。
少し戸惑っていたら、水無月が俺の顔を覗き込んで促してきた。
「・・・冗談のつもりだったのだけれど・・・」
「・・・実は俺も外国に親父がいんだよ。親父は研究者で、その血が流れちまったせいで・・・」
「あなたが自分で頭が良いとうぬぼれるほど、頭が悪い人だとは思わなかったわ」
「いや、頭がいいとかそういうことじゃなくて・・・人一倍記憶力がいいって言うか・・・」
・・・やばい。どう説明しよう・・・。
中学の頃から渡された教科書を流し読みするだけで、知識が頭の中に入ってきた。
そのあとの授業を受けても、全部もう知っていることで・・・
テストだって、なんでこんなことをしなくちゃならないんだっていうくらい、俺にとっては簡単なものだった・・・。
それが、コンプレックスでもあった。
できれば、こんな目立ちすぎる能力をあまり他人には明かしたくなかった。
最初は冗談だと笑う奴もいるかもしれないが、
その現状を知ったとたん、気持ち悪がって逃げていくに違いないなんて・・・思っていたから。
いろいろ考えて、整理して、順を追って、水無月に話した。
「そう・・・ということは、あなたは教科書全てを記憶しているから、授業を受けても意味ないってことね?」
「まぁ・・・掻い摘んで言えば、そういうことになる・・・」
「でも、教科書暗記くらいは私だってしてるわよ?」
・・・・違う。
そういうんじゃないんだ。
暗記じゃなくて・・・自分自身の記憶として一生残る。
「そのおかげで、私はいつもテストでは1番よ」
「え!!お前が、1番!!」
「・・・貴方が、そんなに頭がいいって言うのなら、勝負しましょうよ」
「え・・・?」
・・・いままで、俺と張り合える奴なんてひとりもいなかったが・・・
「私は優等生だものね。いくら頭がよかろうと、サボり魔の貴方に負ける気がしないわ!」
「・・・お前に言われたくないんだが・・・」
・・・まぁ、でも。
水無月が一緒のクラスってんなら、出てやってもいいかな・・・。
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