小説
飛べない『翼』
゚・*:.。..。.:*・゚
俺はいつものように屋上に向かっていた。
授業は入学式以来一回も受けたことがない。
かったるいとか、面倒くさいとか、先生の話が子守唄みたいだとか、そういう理由じゃなくて・・・
ただ・・・なんだろう。
・・・・・授業にでても意味ない・・・っていうか・・・
゚・*:.。..。.:*・゚
少年は屋上へと出るドアノブに手を掛けた。
・・・・・直後、少年は目を見開いた。
誰もいるはずのないそのいつもの屋上に、今日はなんと先客がいたのだ。
しかも、それは少年が良く知っている容姿をしていて・・・・
あのような容姿をしている人間をみれば誰もがその存在を『優等生』や『真面目』と見るだろう。
だが、そこにいた『先客』はそこにいるだけで、それらの外見から取れる印象を逸していた。
「み・・・水無月・・・・?」
少年が声を上げると、そこにいた少女がこちらに気づき振り向いた。
「あら、神城君」
少女は特に驚く様子もなく少年の名を口にする。
「お・・・お前、学校休むんじゃなかったのかよ・・・なんでここに・・・・?」
「それはこっちの台詞のような気がするけど・・・・授業はどうしたの?神城君」
少年は突然の出来事に驚きを隠せないまま、それでも、ここに彼女がいる理由を確かめたくて言葉を紡ぐ。
「お・・・俺は・・・別にいんだよ・・・で、お前、なんでこんなところに?」
「この子の手当てが終わったから、今度は飛ばすのはまだ無理だけど、大空をみせてこの子に飛びたいって気を煽らせて回復を早まらせようと思って」
そんな気、言葉も通じない某動物に煽らせることが本当にできるのだろうか?、少年はまたも本気で考えに陥った。
「お前は動物と話せる能力でも心得ているのか?」
やっと心を落ち着かせた少年は考えていたことをそのまま口にした。
「いいえ。そんなこと人間にできるわけないじゃない」
あたりまえだ。少年だってそんなこと承知で言葉を発している。
しかし、この少女であれば、そんなこともありえるかもと少年は少し思っていた。
「でも、言葉なんて通じなくても、心が通じていればそれで伝わってるってことになるんじゃない?私はそう思うけど」
・・・・少女は時にある普通の人間としては異なる行動を起こす。
だが、時に一人の人間として、人間らしい感情を表してくる。
少年はそんな少女に割りと自然に惹かれていった。
恋というものをあまりしたことのない少年でもはっきりと好きだと確信できるほど疑いようのない感情。
だが、それを今伝えるのはまだ拒まれた。
この少女と出会ってから恋だとわかるまでの時間はあまりにも短すぎたのだから。
思えば、少年は最初からこの少女に一目ぼれをしていたのかもしれない・・・・。
「水無月。そいつに名前かなんかはついてるのか?」
「名前?」
初めて少女は人間の人間らしいキョトンとした表情を見せた。
・・・・やっぱり、こいつも人間なんだな。と少年は思う。
「名前・・・そうねぇ・・・『ツバサ』ってのはどうかしら?」
少年はよく漫画に出てくるように本気でコケたくなった。
「それは・・・なんだ?俺になんか関係あんのか?」
なぜなら、それは少年の名前とまったく一緒だったのだから。
「いいえ。別に神城君が初めて私と対等に話してくれた人だからという理由で敬意をもってつけたわけじゃないわ」
・・・・『初めて対等に』その言葉が少し気になった。
「ほらこの子、文字どうり翼を怪我しているでしょう?だから、早く治って欲しいという念をこめて『ツバサ』よ」
少女はいつもさらっという。少女はいつも『いたって本気』なのだ。
「でも、それって・・・俺とそいつの区別がいまいちわかりにくくないか?」
「私がわかれば別にいいじゃない」
・・・・なんじゃ、そりゃ。
自分勝手なのか、自由梱包なのかもはやわからん。
「・・・・まぁ、別にいいけどよ」
むしろうれしいくらいだ。あんな形でも、少年の名前を覚えてくれるなら、それでもいいと思った。
「そうだ。あなたも協力しなさいよ。この子が飛べるようになるまで」
「えっ?」
・・・・少女は時に上から目線になってものを言ってくる。
別に授業に出ているわけでもない。
ヒマならば、そのヒマつぶしにでも。と思い、少年はすぐに承知した。
「ありがとう」
その鳥が飛べるようになるときには、俺も飛べているだろうか・・・と少年は思った。
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