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― あやり ―
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***



ん…


眩しさになかなかまぶたがひらかず、そおっと目を開ければ、目の前にへーかの麗しいお顔があった。


『っっ!!!!!!』


『うきゃあああ』みたいな猫の鳴き声ではない声で叫びそうになって、なんとか踏みとどまったおれを、誰かほめてほしい。

おれは確かに目を閉じる前に、起きて一番先に目にするものがへーかであってほしいと願った。

実際、その願いが叶って飛び跳ねたいぐらい嬉しい。

でもでも、
おれ、ついさっき自分の気持ちに気づいたばかりなんだよっ!?

その自覚した想い人の顔が目の前にあったのだ、
叫びたくなるのも無理はないでしょ!?

その代わりに驚き半分トキメキ半分で心臓がバクバクなってるんだけどねっ!!



「目が覚めたか?」

へーかはおれの心臓が大変なことになっていることなどしらず、どこかホッとした様子でおれに問いかける。

その瞳はとろけそうになるほど優しい。
ついでに魔法の手がおれの顎の下を撫でるものだから、心臓のバクバクが激しくなるとともに、ごろごろ喉がなっていた。

や、やっぱり猫の本能って逆らえないしっ!

いくら自覚をして恥ずかしいって思っても、へーかの魔法の手には勝てない。
へーかの手はそれだけ魅力的なんだぉ。

も、もちろんへーか自身が魅力的な――



「あやり」


ふいに名前を呼ばれ、思考が止まる。

ふえ?

クロさんでもシロちゃんでもない大好きな大好きな声音が聞こえた。


で、でも、いま…
いま、なんて…


「あやり」


へーかをじっと見つめていればはっきりその口が動いたのを確認した。

まさか、
まさか、


『にゃ、にゃう?(へーか?)』


はやる気持ちで返事を返せばへーかはふわっと笑った。

ドクンっ

心臓が大きく波打った。
と同時に、おれは飛び起きて、へーかの胸にダイブしていた。


幻聴じゃなかった…


嬉しくて、嬉しくて、


『にゃあ、にゃあ(へーか、へーか)』

すりす頬を体にこすりつけた。

へーかと出会ってわりと早く、へーかに名前を呼ばれたいと願っていた。
呼ばれたらきっと、幸せな気もちになるって。

実際、呼ばれてみるとわかる。

その声に呼ばれるとふにゃふにゃして、ふわふわして、幸せなんてものじゃいい表せないような気持ちになった。

これ以上もない幸せな気持ちで、嬉しくて何度も何度も体をすりつけてしまう。
それでも足りない。
もっとこの嬉しさを表現できたらいいのに。
だからもっともっとこすりつけた。

へーかはそんなおれの頭を優しく優しく撫でてくれた。

「あやり」

まるで愛しい人を呼ぶかのようにもう一度呼ばれる。

次は疑問形ではなくきちんと『にゃあ』と返事を返せば、

「ようやく名前を呼べた。」

へーかはそう言って、破顔した。

たぶん、今、おれが人間だったら全身真っ赤かになっていたと思う。
それぐらい、へーかの笑顔はキレイで強烈すぎた。

なんで、おれの名前を知っているんだ、とかなんでそんな愛おしそうに名前を呼ぶんだとかツッコみたいことはいっぱいあったけど、今はどうだってよかった。

ただただ、このままへーかの笑顔をずっとみていたい、そう思っていた。


***

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