― あやり ―
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『あやり』
バルコニーの手すりに座って月を見上げていると、後ろからクロさんに声をかけられた。
『起こしちゃった?』
振り返えればクロさんとシロちゃんがすぐそばにいた。
クロさんだけかと思えば、シロちゃんまでも起きてしまったみたい。
よく考えれば気配に敏感な獣たちが起きないわけがないよね。
うぅ…申し訳ないでふ。
でもでも、月光の下にさらされた美しい獣たちは鼻血ものです☆
だってだって、薄闇の中で月の光の陰影で際立った波打つ毛並、輝く瞳。
そんな神秘的な姿が見れちゃうんだよ!
申し訳ない気持ちもあるけれど、ちょっと得しちゃったって気持ちも大きいんだぉ!
『クロさんとシロちゃん、ほんときれい!』
心からの賛美を贈る。
この2頭の獣たちはその姿形だけでなく、その存在が美しい。
この世の中でこれほどまでにきれいな生き物が他にいるのだろうか。
少なくとも、おれは知らない。
ねぇ、おれ、クロさんとシロちゃんと仲良くなれたことが一番の自慢なんだよ。
クロさんもシロちゃんも自分より圧倒的に小さな体をもつおれを受け入れてくれる。
闘うこともできない、自分の世話もできない、邪魔物にしかならないおれを…。
『僕はあやりの方こそきれいだと思うけど。』
そんなお世辞はいいのになぁ。
あぁ、でも…、そうだね。
クロさんとシロちゃんはどんなおれでもきっと受け入れてくれる。
だって2頭ともとっても懐が大きくて優しいんだもん。
もう、人間たちは見習って!!
…そんなクロさんとシロちゃんに隠し事をしていたくなんてないな。
…まぁ、故意に隠していたわけでもないんだけど。
でも、知ってしまったのなら、誰かに言っておくべきなのかもしれない。
たとえ、それによりクロさんとシロちゃんが離れることになっても…。
『…おれ、クロさんとシロちゃんに言っていなかったことがあるの。』
おれは重たい重たい口を開いた。
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