誇りを胸に掲げて 今世との別れ 人は死ぬ間際、何を考えるのか。 やはり、恋人のこと、家族のこと、友達のこと、 ――・・・そして、やり残したこと。 きっとそんなことを考えるんだろう。 なんて考えていたいつかの日が懐かしい。 まさかそんなことを実際に考える日が20代で来ようとは、 ――思ってもみなかった。 ―――――――― つい数分前のこと。 あまり人気のない暗い夜道を通り一人帰宅していた。 街灯の電球には相変わらず虫が群がり、不気味に不規則な点滅をしている。 横断歩道が青になり、渡ろうとした時、一台の車が明らかに交通違反なスピードで走ってくる。 そのままその車は赤信号にもかかわらず停止せず、 ―――・・・私をはねた。 体にすごい衝撃が走る。 いきなりのことで避けることも出来なかった。 血が流れ出る感覚がわかる。当たりどころが良かったのか悪かったのか、どうやら即死じゃないらしい。 朦朧とした意識の中で車が停止し、中から誰かが降りてきた気配がした。 「ちっ!!お、おめぇがあ飛びれてきたのが悪いんらからなあっ!!き、きったねぇなあっ!!」 どうやら男は私に罵声を浴びせにきたらしい。だいぶ酒を飲んでいるのか呂律が回っていない。 ふざけんな、はよ救急車呼べやっ!! 当然、そんなこと言えるような状態ではなく。 男が再び車に乗り、車が遠ざかっている音を聞く。誰も居なくなったようで辺りに静寂が走った。 人気のない道のため、多分助からないだろう。 段々と薄れていく意識の中。 最後の記憶があんなものだなんて最悪だ。 しかし、全身にまとわりつく脱力感から思考がうまく働かない。ああ、私死ぬんだな、なんて冷静に考えている自分がいる。そして、何処か諦めている自分も。 願わくば次の人生はもっと長生きしたい。 幸せな人生でありますように。 来世に幸せを夢見て 私はそこで完全に意識を失った。 [次へ#] [戻る] |