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青学
Treasure〜窓際にある風景〜
「今日もかわいいよ。」
「離れるのが寂しいな。」

そんな言葉があの人の口から出る。よくそんな恥ずかしい台詞ポンポン言えるわ。

恋人である私が照れないのかって?

そんな訳ない。

だってあの台詞は、

―――サボテンに向けられた台詞だから。


私の恋人、不二周助は正真正銘変人だ。顔がいいだけに残念なイケメンだ。非常に。

今日も水をあげながら、サボテンに話し掛けている。
今日、私誕生日なんですが。

ま、そんな私も今朝思いだした訳だが。友人からのメールで。

“誕生日おめでとう。リア充爆発しろ。”

これ、祝われてんのかな。
相手が彼氏と同棲しているのを知ってるためだが。

“ありがとう。幸せでごめんなさいね。”

少々不愉快になったため、そう皮肉たっぷりに返しておいた。
思う存分悔しがるがいい。

そんなやり取りを脳裏に蘇らせながら紅茶を飲み、ふと視線を彼に向けた。

「いいね、その表情。すごく魅力的だよ。」

写 真 撮 影 し て た 。

カメラを手にサボテンに話し掛けるイケメンの図。

―――頭を抱えるレベルだわ。

普段お互い忙しいため、休日くらいしか恋人らしい営みはあまりできない。

ましてや誕生日。

・・・もう少し私に構ってくれてもいいんじゃない?

サボテンに負けてる私ってどーよ。

そんなことを考えながら彼をジトッと見ていた。

「ん?どうしたの?」

相手は私の視線に気づいたのか、撮影をやめこちらを向いた。
『・・・別にっ。』

急いで紅茶を煽り、相手の問いから逃れるように椅子を引いて立ち上がり、朝食のお皿を片付けるためキッチンに向かった。

拗ねている訳じゃない。断じて。いつも通りですから。

悶々と考えながらやや乱暴にお皿をシンクに置いた時。
「何で拗ねてるのかな。」
背中に感じる熱。
腰に回る腕。
耳のすぐ側で聞こえた声。
『っ!?別に拗ねてないし。気配を消して近づいてくるのやめて。そして離れろ。』

私は腰に回っている手を外そうとするが、逆により強く抱いてきた。

「クスッ酷いな。話してくれないとキスしちゃうよ?」
耳元で囁かれたことで背中に甘い感覚が走り、自然と顔に熱が集まるのがわかる。

『はぁ!?何言ってんの!?話さないし、アンタも離してよっ!!』

相手にバレてる恥ずかしさといきなり
抱きしめられたせいで顔が熱い。

そんな私にかまわず、周助はカウントダウンをしていた。

『ねぇ、ちょっと!!』
「2、1、0。時間切れ。」
『何言ってっんっ・・・。』

体が解放されたかと思いきや、少し相手を向いた隙に唇を塞がれた。

甘いキスに思考力を奪われていく。
だんだん苦しくなってくるにつれ、キスも深くなっていった。

ちょうど私が限界になりそうになったとき、唇が解放された。

「詩織、話してくれるよね?」

少し乱れた息を正している私を抱き、話し掛ける。

いつもこいつの手の平で踊らされている気がする。

―――本当にくえない奴。


それでも私は彼には結局逆らえない。

『・・・サボテンばかりに話し掛けてるから・・・。』

俯きながら答える。恥ずかしさで死にそうだ。今の私は耳まで真っ赤に違いない。
「クスッヤキモチ、妬いてくれたんだ。」
『・・・っそんなんじゃない。』

彼は私の答えに満足げに細い目をさらに細め、少し楽しそうに言った。

ああ、もうほんとに。
こいつの余裕なところが憎たらしい。

「そうだね。ちょっと話そうか。」

そういって私に椅子に座るよう指示し、自分の部屋に行った。

仕方なしに席につく。
はぁ、まったく。

少しして彼が何かを手にして戻ってくる。

「サボテンのアルバムだよ。見てみて。」

私はテーブルの上に置かれたアルバムを開き、中を見る。

「二つサボテンがあるだろう?こっちの小さい方は・・・君と付き合い始めた日に買ったんだ。」

二つ並んでいるうちの小さい方。根元の方で小さく二つに分かれていて、てが出ているように見える。

「ほら、小さい体に長いとげ。なんか君みたいで可愛いなって思っちゃって。」
・・・なにそれ。

まるでこのサボテンが私の代わりみたいじゃない。

「だから・・・とても愛しく思えた。・・・ほら、二個並んでいる写真が多いだろう?」

確かに単体のもあるが、明らかに組で撮られている写真の方が多い。

「こっちの大きい方は、もう何年も育てているからね。僕の化身みたいなものだよ。大学は離れ離れだったから、サボテンだけでも一緒にいれるように写真にいっぱい撮ったんだ。

・・・それに、サボテンになら普段君に言えないような言葉も言えるんだ。」

じゃああの毎日サボテンに話し掛けていた台詞は。

恥ずかしくて聞いていられないほど甘い台詞は。


―――私にも向けられていた言葉だったの?

『・・・ばかじゃないの。少なくとも今は一緒に住んでるんだから直接言えばいいじゃない。』

照れ隠しに視線をそらして呟く。

「僕だって、そういう台詞いうのは恥ずかしいんだよ。」

少し照れるように笑っている彼はたいして恥ずかしそうには見えないないけれど。

ふと、窓際のサボテンを見る。二つが並んで陽光を浴びている姿は温かくて。意味を知ったらむず痒く思えた。

『・・・そうだ。写真撮ろうよ。』
「え?」

聞き返してきた彼に答えるように言葉を続ける。

『サボテンを手に持って・・・さ。記念に撮ろうよ。』

私の言葉を聞いた彼は驚きながらも子供のように顔を綻ばせて頷いた。



「じゃあ、タイマーを押すよ?」

ピ、ピ、と赤く点滅すると共にカウントダウンを始めるカメラ。私も彼も手にはサボテンがいる。

彼が私の隣に立った瞬間、不意に肩を抱き寄せられ、驚いた。

「・・・愛してるよ詩織。」

なんとか平常心を保とうとしていたから最後の言葉は私の努力をいとも簡単に壊した。

パシャッとフラッシュが瞬く。

―――その顔は真っ赤に違いない。




後日私には一眼レフのカメラが贈られた。

前から欲しかったやつ。これであいつの照れた顔を撮るのもいいかもしれない。

ちなみに窓際にはあの写真がサボテンの隣に飾られている。

隣の余裕な顔はむかつくけど。

―――たまには写真撮られるのも悪くない。

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あきゅろす。
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