Attack on titan 一緒に飲みましょう。 深夜、辺りが寝静まったころ。 ワインと書類を手に窓から入る月の光を頼りに廊下を歩く。 手にしているワインはエルヴィンから貰った上等なものだ。酒には詳しくないからわからないが、どうやら有名なブランドのものらしい。 目的の部屋までたどり着くと、一つ深呼吸して戸を叩く。あたりにコツコツとノック音が静かに響いた。 「・・・入れ。」 不機嫌そうな声で返事をした部屋の主を気にせず、扉を開け部屋に入る。 『失礼しまーす。』 ちゃんと扉を閉め、振り返ると、部屋の主――リヴァイが書類を手にこちらを見ていた。 仕事中らしく、机の上のランプが彼を照らしていた。 「・・・なんの用だ。」 相変わらず不機嫌そうな彼に構わず書類を手渡す。 『はい、書類。サインしておいて。』 「・・・ああ。」 私から書類を受け取り、ざっと目を通してサインをする。そして書類から顔を上げ、私の手元へと視線を移した。 「・・・で、その瓶はなんだ。」 『ああ、これ。エルヴィンから貰ったの。』 そういいながら瓶を相手の前に掲げる。 『"二人で飲んでくれ。飲み過ぎないようにな。"・・・だってさ。』 リヴァイははぁっと溜息をつき、私を見る。 「まだ仕事がおわってない。」 『"仕事はもういいから、今日は十分に休むようリヴァイに伝えて来てくれないか?。"』 すかさずエルヴィンの言葉を言い、リヴァイの言葉を遮る。 『団長命令だよ。リヴァイ。』 私の言葉と、譲らない態度に諦めたのか再び溜息をつき、机を片付けはじめた。 「グラスはその棚にある。・・・二つ持ってこい。」 『はーい。』 私はテーブルにワインを置き、棚へ向かう。片付け終わったようで、リヴァイは別の棚を開けていた。 ワイングラスを手にテーブルに戻り座ると、テーブルの中央に皿が置かれた。 『お、チーズじゃん!よくこんなの手に入ったね。』 チーズは高価でなかなか手には入らない。めったに食べれないが、その味が美味しいことは知っている。 「前にエルヴィンにもらった。」 『エルヴィンってどこでこんなに手に入れてるのかしら。』 本当に謎だ。 リヴァイがワインの詮を抜き、それぞれのグラスに注ぐ。 『・・・いい香り。』 芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。 リヴァイも椅子に座ると、ワインを煽る。 お互いワインを煽り、堪能しているためか、沈黙が走った。 『・・・今回は・・・リヴァイから見てどうだった?』 その静寂を、破るように言葉を小さく吐き出す。リヴァイは「何が」とは聞かずに答えくれる。 「・・・損害は思ったより少なかったが、ベテランが死にすぎだ。 ・・・新兵を守るのは大切だが、軍としては新兵一人よりベテラン一人の方が有り難い。」 『・・・そうだね。』 私はワイングラスを揺らしながら答える。 リヴァイはグラスに入ったワインの残りをぐっと煽り、再び注いだ。 「・・・アレックだったか、名前。」 その名前に肩を揺らす。 『・・・知ってたんだ。』 「さっきお前が持ってきた書類に書いてあっただろ。」 アレック・・・アレック・ブライドは私の班員だった。訓練兵時代の同期で、なかなか付き合いが長かった。年下の彼女がいて、付き合ってずいぶんになるらしい。結構前にその年下の彼女が彼を追い、調査兵団に入団したことを酷く怒ったという話を聞いた。 そして今回の壁外調査。その彼女にとって初めてのものだった。 私の班ではなかったが一緒に行動した班の班員で、二人が会話していた様子を目撃した。その雰囲気は決して絶望に染まったものではなかった。 ・・・――そしてその時はやってきた。 「っ近くに巨人を二体確認!!、およそ10m級と15m級!!」 『班に分かれて、立体起動に移る!アルト班、左側の殺るよっ!!』 「アルト、俺とジーンは右に回り込む。そっちは左からいってくれ!」 『了解っ!!頼んだ!』 信号弾をうち、アレックと私は別方向に進んだ。 その時だった。 「っみ、右側より巨人接近っ!! き、奇行種です!!!」 その声を聞き、右を向くと。 四つん這いになりながら犬のように走ってくる巨人がいた。 犬なら可愛いが巨人の顔で舌がだらし無く出ている様は実にグロテスクだった。 『っケイト、信号弾っ!』「はいっ!!」 緑色の煙が上がる。 『奇行種をやるよっ!アルト班立体起動に移れっ!!』 ワイヤーが飛び交う。 幸いここには建物が少しあり、草原より戦い易い。さらには大きな塔も近くにある。 しかし。 「な、7m級の巨人が接近!!」 『っ塔の影で見えなかったのかっ!!』 確認すればかなり近くまで来ている。今回は逆に仇となってしまった。 『くそっ!!アレック、奇行種を頼んだ!』 「ああっ!!」 新兵がいるため今回は班員に気軽に行ってきてなんて頼めず、一番近かった私は一人7m級の巨人を倒しに行った。 なかなかに気持ちの悪い顔をしている巨人は、幸いにもこちらに気付いていなかったようで、容易に狩れた。 直ぐに戻ろうとした時。 「いやあああああっ!!」 目の前には今にも巨人に食べられそうなアレックの彼女の姿。 慌てて駆け出すが、距離的には間に合わない。 まるでスローモーションのようにゆっくり見える。 そのとき、彼女の体を押しのける人物がいた。 ―――アレックだった。 弾きだされた彼女の代わりに巨人の口の中へとアレックが吸い込まれていく。 彼女は慌て駆け寄るが、それと同時に巨人の口が閉じていった。 彼女に向かって伸ばされていた手は巨人が口を閉じることによって切断された。 再び彼女の悲鳴があがり、その後彼女は夢中で叫ぶようにアレックの名を呼び続けている。 私は頭が真っ白になる。 ――アレックはあんなふうに誰かを助けて死ぬような人間じゃなかった。 別に冷徹非道という訳ではなく、その命を犠牲にしても、任務を全うし、被害を最小限に抑えることを優先する男だった。 しかし、どうやら彼女は別らしい。 ・・・まさかこんなところで死ぬなんて。 ―――「なら、俺が死んだら・・・ユリアを頼む。それと・・・冷静に状況を判断してほしい。お前は以外に頭に血が上り易いからな。 ・・・まあ、信じてるさ。」 昔の彼の台詞が甦る。 それがアレック、あんたの願いだったね。 巨人に向かって駆け出す。立体起動に移り、建物に次々とワイヤーを飛ばしながら、巨人の元に近づく。 巨人の近くまでくると地面すれすれの位置から大きく弧を描きながら巨人の上空に上がり、勢いよく旋回しながら巨人の首の肉を削ぎ落とした。 『っ総員、剣を構えろっ!!目標、10m級と15m級!何としてでも肉を削ぎ落とせっ!!』 不思議な感覚だった。 血は上っているのに、冷静に考えられる。 皆が向かう中、一人動けていないアレックの彼女――ユリアの元へ向かう。 アレックの腕を抱きしめ、嗚咽もらし震えている彼女に叱咤した。 『貴様はなぜ動かない!なぜ戦わないっ!!ここで死ぬつもりかっ!?ふざけるなっ!! 立てっ!動けっ!戦えっ!!貴様も兵なら役に立ってみせろっ!! っ・・・助けられた命を無駄にするつもりかっ。 ――アレックの死を無駄にするのか・・・?』 ユリアは私の最後の言葉に反応して肩を揺らす。 私はしゃがみ、彼女が持つ腕を持っていた布で包む。 『・・・やつを弔うのは後だ。今は作戦に集中しろ。』 そう言い残し、私は急いで巨人との戦闘に向かった。 作戦終了後、ユリアの姿を一度見たから生き残ったのだろう。 しかし、生き残ったとしても彼女の心には大きな傷ができてしまった。 再び兵として作戦に参加出来るかはわからない。 ・・・また一人、戦友を失った。 それも今まで一番近く、側にいた仲間を。 その喪失感はかつてないものだった。 ――――――― ――――― ――― 『アレックを失ったのは・・・いたいなぁ・・・。』 グラスを回し、中で揺れるワインを見つめながら呟く。 『なんだかんだ言って、入団して一番長くいたのはあいつかも。』 ワインを少し飲んでからテーブルに置き、つまみのチーズをとる。 「・・・助けられない命もある。」 それまで何も喋らなかったリヴァイの言葉に驚き、チーズを持った手を止める。 「だから・・・―――」 やめてよ。 ・・・慰めなんて。 リヴァイはワインを一口飲み、テーブルに置く。 「お前のせいじゃない。」 『っ・・・。』 涙が頬を伝い、テーブルの上に落ちる。ご丁寧に敷かれたテーブルクロスに一つシミが出来た。 ここで泣いたら、きっとくじけてしまう。 手を強く握り、ぐっと涙を堪える。 そのとき、リヴァイが立ち上がり、隣に来て、胸に私の頭をそっと寄せた。 『っ!』 あまりにも意外な行動に驚いた。 『ふっ・・・柄にも無い。』 「うるせぇ・・・。」 しかし、リヴァイの温もりが私を酷く安心させた。 『っく、っ・・・ぅっ!!』 嗚咽が止まらない。 アレックが死んだときには泣かなかったのに。 いろいろアレックとの思い出が溢れてくる。 訓練兵時代のころのこと、入団した時のこと、 初めての壁外調査のこと、 互いに競い合い、支え合い、誓い合った仲間。 よき友であり、ライバルだった。 口元を抑え、嗚咽を堪えようとするが意味はなく。 頭を引き寄せる手に力が入り、更に引き寄せられる。その温もりに縋るようにリヴァイの背に手を回した。 その後、私が泣き止むまで付き合ってくれた。 『ずいぶん酔いが回ってたみたい。・・・まさかリヴァイの前で泣くなんてね。』 リヴァイから離れ、目元を拭う。 「・・・ああ。」 窓の外を見ると、少し遠くの方が白んでいた。 『そろそろ帰るね。』 そう言って、グラスを片付けようとしたらいい、と止められた。 「片付けはやっておく。・・・新兵の教育頑張れよ。」 『・・・ああ。あいつに頼まれたんだから、立派に育て上げて見せるさ。』 必要な物を持ち、扉に手をかける。 『・・・今日はありがとう。・・・助かった。楽しかったよ。』 そういって部屋を出ようとした時。 「・・・またなんかあったら来い。・・・相手してやる。」 その言葉が嬉しくて、笑顔になる。 『・・・うん。また、よろしくね。』 扉を閉めて、廊下を歩く。足音が響くのを聞きながら部屋に戻った。 また、今日も忙しくなる。 温もりが恋しくなるとき 「エルヴィン」 「リヴァイか。あのワインはどうだったかな。なかなかの上物だったろう。」 「・・・ああ、おかげであいつも元気になったようだな。」 「気付いていたのか。」 「当たり前だ」 [次へ#] [戻る] |