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自惚れないで

「おはよう隊長」
「おはよう。璃宮、また医務室で寝たのか…。」

「おはよ。…悪い?」



 執務室に戻ると腹心2人はすでに出勤していた。
着替えも済ませているところをみると、やはり2人とも帰っていないらしい。
仮眠室を利用したのであろう、医務室で寝ていたことがバレてしまった。



「仮眠室って寝心地悪いんだもん。」

「仮眠室なんだから仕方ないだろう。」



 あくまで仮眠だ。
あんなところでグースカ寝られても困る、欠伸混じりに元親。
 コーヒーを三人分―色違いのカップに―淹れてくれた瑞城。



「なあ、確か医務室って凄い美人な女医がいるんだろ?」



 思わず顔をしかめる。



「そういえば、前に静伽が言ってたな」

「そうそう。何だったかな…通称―」







「“白衣の女神”…」



 2人の視線が刺さる。



『なるほど…』

「え、」



 意味ありげに目配せする瑞城と元親。
何か閃いたようだけど、









「…あのね、先に教えてあげるけど、僕は別に名前に会いに行ってるわけじゃないんだからね!
あんなのに会うために時間割くわけないでしょ。」


 この僕が。


「白衣の女神をあんなの呼ばわりか。」

「しかも名前呼び。さすがは…」







『“ツンデレ王子”―…』




 全く璃宮にぴったりの称号だよな と、爆笑している2人。




……。



『――ッ!』



「璃宮、落ち着いて!!」

「それ俺のだろ!?やめろ!悪かった!!」



 やっぱりさ、日本刀は使い慣れてないんだよね。




―――…



「あれ、」

「元親?」


 ん…と指を指す。廊下の向こう側。
その先に目をやれば、


「白衣の女神…















と、総隊長だな。」


「最悪…」


 会いたくないもの2つ同時に出くわした。例えるなら、そうだな…









「…バレンタインとクリスマスが一緒に来たって感じ。」

「はい?」

「璃宮…意味わからんぞ。」

「いいの!」


 嫌いな行事ワースト2。
(ちなみに、三位は誕生日ね。プレゼントとかチョコレートとか、ほんと勘弁して欲しい。)


「確かに美人だな…。」

「女神と謳われるのもうなずけるね。」

「…2人とも馬鹿じゃないの。」


 名前の猫被りめ。
総隊長だって、どうせ気づいてない。
あの、楽しそうな総隊長の顔。ムカつく。



「相変わらず美人だな。」

「そんな…」



ほら、ね。



「あなたこそ、相変わらずセクハラ。その手放して。」



…え?

 知らず知らずの内に聞き耳を立てていたようで。うっかり聞こえてしまう。
ちらっと、瑞城と元親の様子を伺うけど気づいてないらしい。



「ったく…黙ってれば、誰よりもいい女だよ。名前は。」

「そんなの知ってます。
―ッ!頭撫でるのもやめて!!」




 僕だけだと思ってた。
名前があんな風に話すのは僕に対してだけだって。




なんか、なんていうか、




「こんにちは。」

「ああ、」

「こんにちは。…ほら隊長、挨拶!」

「―お疲れさまです。」


 なんでこういうときに限って話し掛けてくるかな…。
“白衣の女神”モードだし。にっこりと笑みを浮かべてる。


「今日はもう終わりですか?」

「だな。久しぶりに早く終わったよな」




 雑談に華を咲かす三人。
そんな気にはなれない。


なんか、なんていうか、



「上條隊長、」

「…なに。」

「       」



「なにそれ…自惚れないでよね!」


 クスリと妖しく笑う名前。


「じゃあ、失礼しますね。」



「隊長、なに言われたの?」

「…別に、言うほどのことじゃない。」












《ねぇ、妬いてる?》




 冗談じゃない。
自惚れるのも、大概にして欲しい。そんなはずあるわけないでしょ?





――自惚れないで。
それは名前に言った言葉。
でも、嗚呼、同時にそれは自分への叱咤でもある。





なんか、なんていうか、
……ほんとムカつく。

掻き乱す。僕の心を、











妬いてなんかないよ。
ただ、ちょっと気づいただけ。

名前の特別になりたいと思ってる自分がいることに。
ただそれだけ。



ああもう!ほんとに、





自惚れないで
なんて、
どっちがなのさ!




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あきゅろす。
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