Novel
Absurd Lovers*ゆーく様より相互記念>>Rumor【N*L】
Rumor
「……ミラさん」
「なぁに? ルーシィ」
いつもの微笑みを傾けるが、ルーシィはさも不満げな表情でいらいらと頬杖をつき、
「なんか、ナツに避けられるんですけど」
「そう? 気のせいじゃない?」
当のナツは、カウンターから離れた席で仲間達とバカ話に花を咲かせている。
それ自体は至って普段通りだが――さっき、おそろしく奇怪なことをしてくれた。
脇を通るルーシィを、気付きもしない素振りでスルー。気付いていながら、だ。
「おかしい。あ〜〜、気持ち悪い……」
違和感が、寒気のように突き上げる。
ミラジェーンはまあまあとなだめすかし、
「寂しいなら素直に構ってって……」
「気になるだけですっ!!」
不意に、背後でどっと大きな笑い声が起こった。ナツのいるテーブルだ。
「もぉ〜〜、人の気も知らないで……」
視線を滑らせると目が合った。が、素っ気なくそらされる。見なかったかのように。
頭の中で、かちんと金属のような音。
スツールを下り、件のテーブルの方に向き直る。ナツと一緒に笑っていた連中が、さあと血の気を失った。
「ミラ、今何時だ?」
「23:55よ」
「……あと五分……か」
ルーシィの視線を介する風でもなく、はあと気が抜けそうな溜息をついた。
むかっと腹の中で何かが動く。限界を超えた苛立ちが、遂に吹き上がってきた。
――カッ、カッ、カッ……カツッ
きついヒールの足音が、大股で距離を縮める。突っ伏したままのナツを見下ろして、
「何? ……今の」
ナツは目も合わせず、返事もしない――どころか、ふいっと顔をそむけた。
「お・おい、ナツ」
「いい加減返事くらいしてやれよ」
周りで見ている仲間の方が戦々恐々、居場所がないくらいだ。
「ミラ、今――」
「何なのって聞いてるのよ!?」
ジョッキがひっくり返る勢いで、机を叩いた。痛みが走るのも、今はどうでもいい。
「23:56――あと四分よ」
ミラジェーンの時報を聞くと立ち上がり、くるりと背を向けて歩き始めた。
ルーシィ含めテーブルの面々も、その行動に唖然とした。が、すぐに肩を捕まえ、
「ナツ!? ちょっと、いい加減に――」
手は無愛想に払われた。しかし同時に振り返り、ルーシィにべっと舌を出した。
「……〜〜〜〜っ!」
あまりに子どもっぽいその仕草に、感情が逆撫でされる。
「待ぁちなさ――いっ!」
テーブルや酒樽をぽんぽん飛び越えながら逃げるナツを、同じように追いかけた。
形振り構わずを地でいく勢いだ。
「ミラー! 今何時だ!?」
「23:58、あと二分!」
「だぁ――っ、まだ二分もあんのか!?」
身軽すぎる標的を捕らえるため、ルーシィは鞭を振りかざす。空を切る音と、樽やコンテナの崩れる音がギルド中に響いた。
「女王様だ」
「女王様だな」
「ちっが――う!! てか外野うるさい!!」
限界まで腕を伸ばして振るった鞭が、ナツの足首にかかる。
「げ」
そのまま床に引き倒し、勢いのままナツの腹上にのしかかった。
「ぐぇっ」
「捕まえたわよ……!」
ばちんと目が合った。
今日初めて、ちゃんと、真正面から。
――やばい、泣きそう。
今までの怒りや苛つき、その他のもやもやが一瞬で消え、涙が溜まるのがわかった。思わず、唇を噛みしめる。
(……何なのよ……)
ナツにちょっと冷たくされるくらいで、何でこんなに腹が立つのか。何でこんなに追いつめられた気分にさせられるのか――。
――ボーン、ボーン、ボーン……
突然、時計が鳴り始めた。
その瞬間、ナツが起きあがり、両腕でぎゅううと抱きしめる。
「きゃあ……っ!?」
突然の抱擁に、身体も頭も固まった。
腕がきつくて息苦しい。走り回ったせいで息が切れていることに今頃気付いた。
「ふぃ〜〜……、セーフ……!」
我慢していた何かを一気に解放するかのような溜息。その声は余りにも聞き慣れたもので、拍子抜けするほど屈託がない。
「な・何が? てか思いっきりアウトよ」
「痛てててて!」
あろうことか公衆の面前で抱き締めてくれた腕をつねると、抱擁を解き、腹の上のルーシィをのぞき込む。
「ったくお前、オレを殺す気か?」
「は・はあ?」
素っ頓狂な声が漏れた。曰く、ナツはどこかで呪詛されていたらしい。
「日付が変わるまで、お前と口利いたら死ぬとこだったんだ」
「な・何それ!? 誰がそんなこと……?」
「ロキが教えてくれたぞ」
ロキを探して視線を巡らせると、カウンターで手を振ってくる姿があった。
「うーん……。なんか眉唾……ね」
どたっという音が聞こえ、目を落とすと、ナツが大の字になっていた。
「は〜〜、しんどかった……」
「はい?」
「ルーシィ避けんのってすげぇ疲れる。もう二度と御免だなー……」
一生じゃなくてよかったなんて、無邪気に笑う。油断して、顔が熱くなった。
「かっかっか。しかし必死だったな」
「な・何事かと思うじゃない!? あんなわざとらしいくらい素っ気なく……」
「だからって泣くなよな」
「泣いてないっ!」
手を伸ばし、くしゃりと頭を撫でる。
「まともに目ぇ合わせたらアウトだなーと思ってよぉ。勘弁な」
「……どういう意味よ。てかハッピーにでも事情話させてくれればよかったのに」
「はっ!」
「今思いついたの!?」
やれやれと肩をすくめる。まったく、ナツの単細胞ぶりはどうしようもない。
「はあ。けど、よかった」
「そうね、よかったわね。命拾いして」
「はあ? 違ぇよ」
「え?」
「避けたくらいでそんななのに――オレに何かあったら泣くだろ? ルーシィ」
どきんと心臓が強く打った。息が止まる。
その隙に、一瞬、唇を奪われた。
「んなっ、何すんのよぉおっ!?」
幸い、体勢は断然有利。
拳を振り抜くと、うぎゃっと鈍い声を上げて大の字にのびた。
――その有様に、ギルドが笑いの渦に呑まれたことは言うまでもない。
* * *
ゆーく様より相互記念いただいてしまいました!
ぬはー、可愛いナツルーです!無駄にじゃれじゃれしている二人にキュンッ。これが……無意識ばかっぽー。ギルドのみんなとの絡みもなごみます。
やっぱりゆーく様のナツルーのこの距離感が好きなんです私。
「恋人じゃないけど友達でもないし……じゃあ私たち何よ?」みたいな。「あ?なんだろうなぁ……まあいいじゃねぇか気にすんな」みたいな。
ゆーく様、素敵なお話ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!
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