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小説(※二次中心)
第4話〜推し量る為に〜
空高くあった太陽は、既にその役目を果たし終え、地平の彼方へと沈み行こうとする。

まばゆい夕日が照らす廃棄都市の一角を、白髪の青年が駆け抜けていた。

右手には、彼のデバイスたるタスラムを握り占め、猛禽類を彷彿させる黒き双眼は、獲物を捜している。

それは、長大な漆黒の狙撃ライフルではなく、バレルとグリップにソード・オフを施された鈍色(にびいろ)の銃であった。

バレルが水平に2本並んでいる事は、同時に2発の弾を発射するであろうと予想出来る。

そして、マガジンが無い。
ティアナのアンカーガンの様に銃身が折れ、カートリッジの排出・装填を行う、やや使い難さは否めないであろうそれを、彼は構えていた。

[主、前方に反応。魔力から判断するに、槍騎士かと]

「エリオか。…接触までどれ位だ?」

[約18秒と推測]

「解った」

デバイスからの情報を聞きながらも、彼は疾走する。
そして――

「うおぉぉぉ!!」

[『スピーア・アングリフ』]

前方のビル2階から、雷光を纏いながら高速突撃を仕掛ける若き槍騎士と邂逅する。

「ふッ!」

反射的に右側へと跳躍し、目の前のビルの壁面を蹴って更び跳躍するアウル。
瞬間的に、突貫力と思い切りの良さはいいと、冷静に実力を褒めた。

と、落下する彼の視界の端では、エリオが槍型デバイスのストラーダを構え、カートリッジをロードする姿が映る。
同時に、ストラーダにブースト魔法が加わったのも確認して。

だからこそあえて、アウルは彼に背中を向けて着地した。
勿論、エリオは好機とばかりに再びスピーア・アングリフを発動、魔力を纏った彼は一条の閃光となり、アウルの背中目掛けて突撃してきた。

だが、アウルは微笑を零し、

「それ故に読みやすいぞ、エリオ!」

[『バックスライド』、ファイア]

振り返らず、左脇の下を通してデバイスを背後へ向け、発砲。
それは正に電光石火の早撃ち。

2門並んだ銃口から吐き出された魔力弾は、一瞬で分散。そのまま放射状に拡散し、エリオに襲い掛かった。

「ぐう……ッ!」

余りの威力に、エリオが纏っていた魔力がいともたやすく引き剥がされた。
だか、アウルの攻撃は終わらない。

「まだだ!」

「え?…ガフッ!ゲホッ!」

突進力を殆ど失い、無防備に宙に浮く彼の身体にアウルの鋭き蹴りが突き刺さる。
バリアジャケット上からでも伝わるダメージが、エリオの華奢な身体を襲った。

地面に落下した幼き身体に魔力の拘束をかけ、アウルはタスラムの銃口を向けたまま静かに尋ねた。

「さて、どうする?」

「…参りました」

[あと3人ですね、主]

「……ああ。だが、骨が折れそうだな」

額の汗を軽く拭いながら、未だ出会わない他の面子を確認した。


何故、アウルはエリオと戦っていたのだろうか。

そもそもの発端は、約1時間ほど前まで時を遡らなければならない。






1時間前。


アウルが医務室から案内された先は、機動六課の部隊長室だった。
そこに連れられ、はやてに促されるままに入室。
そこには更に1人の人物の姿が確認出来た。

流れるような長い茶髪をサイドテールに結わえ、まだ表情にはあどけない少女のそれを残した女性。
極め付けに、管理局員ならば誰もが知っているであろろうその容姿。

思わず、彼は口にしてしまった。

「『不屈のエースオブエース』、高町なのは教導官殿……」

「にゃはは…。ちょっと照れ臭いね」

一瞬呆けてしまった自身を叩き起こし、直ぐさま敬礼するアウル。
この場にタスラムが居たら、果たしてどんな言葉が飛んで来るだろうか。

[主、間抜け面を治してから敬礼して下さい。締まらないです]

「タスラム、酷いぞ。…間抜け面は治すが」

居た。なのはの手に、オニキスの輝きを放つ銀の指輪が載っていた。

デバイスの毒舌に、アウル以外の全員が呆れる。
アウルとタスラムから見れば日常茶飯事なのだが、見馴れない者達にはかなり奇抜な状況であるのは間違いない。

「しっかりろよアウル。デバイスに毒吐かれる持ち主なんて、あたし見たの初めてだぞ」

「アパレシオン二尉、もっと矜持を持て」

「返す言葉もありません、ヴィータ三尉、シグナム二尉」

余りのヘタレっぷりに、思わずヴィータとシグナムはアウルに苦言を提する。
改善するかは解らないですがね、と。タスラムは心の中で呟くのであった。





「改めまして。時空管理局地上本部より出向しました、アウル・アパレシオン二等陸尉です。若輩の身ではありますが、よろしくお願い致します」

[専用インテリジェントデバイス『タスラム』と申します。以後お見知り置きを]

形式上、しっかりと出向の挨拶を行い、部隊長席に座るはやてへ敬礼する。

「固くならなくてもええよ。私の方こそ、情報が少なくて分からんかったし」

さりげなくフォローに入る辺り、優しさと有能さが伺える。
何故これだけ出来ている人物をレジアス中将は毛嫌いしているのだろうと、心底不思議なアウルであった。
しかし、今の会話で解せない部分があったらしく。

「失礼ですが、八神陸上二佐」

「はやてでええよ。何か?」

「では、はやて陸上二佐。私の情報が、管理局のデータバンクに無かったと?」

つい尋ねてしまった。
そのまま、彼ははやて達にこう説明する。
それは有り得ない。地上本部に居た頃は、必ず本人確認の為にデータバンクへの照会を行っていたし、と。

「いや、地上本部から送られてきたデータが、殆ど意味を成さないようなデータでな…」

はやてが空中にキーボードを展開し、操作を行う。
そして、モニターに浮かび上がるデータ。
無論、名前と階級しか記載されていない、あのゴミデータである。

それを見て、彼は納得したように1人こう述べた。

「ああ、まだ新しいデータに切り替わって無かったのか」

成る程、とははやての台詞。
確かに、稀だが新しく更新したデータは、上手く表示されない事が報告されていたのをはやては思い出していた。
それが運悪く重なってしまったようだ。

「過去データなら、まだ見れるか…?タスラム、頼んだ」

[了解しました、主]

チカチカと点滅したタスラムが、虚空にアウルのデータを映し出す。

しばらく眺めていた彼女達だが、ある一文に驚愕する事となる。

「えっ…?嘘…」

最初に気が付いたのは、フェイトであった。
その声に反応して思わずフェイトの方に目を向ける。
その表情から、彼女の驚き方が尋常ではないと、その場の誰もが悟った。
そして、アウル以外の全員が、フェイトの元へ向かう。

「どうしたの、フェイトちゃん?」

「驚きようが尋常じゃあらへんで?」

「……こ、ここ。此処の部分、読んでみて…」

なのはとはやての問いに、かなりしどろもどろになりながらも説明するフェイト。
しかし、伝えたい事は上手く2人に伝わったようで、フェイトが指し示す部分を2人は見る。

「……な、何でや?」

「どうしてなの…?」

そして、フェイト同様に驚愕の表情で固まった。

今度は守護騎士の二人が確認する。
だが、はやてもなのはも完全に止まっている。
なので、シグナムとヴィータは仕方なくフェイトに質問をした。

「テスタロッサ、どうしたというのだ」

「驚き方がただ事じゃねーぞ」

先程のはやてとなのはと台詞が被っているようにも聞こえるが、些細な事だろう。

「……こ、ここ。階級が……」

「「階級?」」

[……成る程]

上からフェイト、守護騎士2人、タスラムの言葉。
タスラムはいち早く気が付いたようだ。
そして、守護騎士2人も納得すると同時に驚く。

「な…!これは!?」

「マジかよ……!!」

データに映る文字列。そこの一文には、こう記されていた。




階級:管理局地上本部 一等陸佐



「お前、左遷されたのかよ!」

いち早く停止状態から解き放たれたヴィータの大声が、沈黙する部隊長室に響き渡るのだった。






「……と言う訳で、明日から此処機動六課に出向になります、アウル・アパレシオン二等陸尉です。なるべく早く皆さんのお手伝いが出来るようになりたいと思っております。どうぞ皆さん、御鞭撻の方を賜りたいと思いますので、よろしくお願い致します」

現在、機動六課エントランスにスタッフ一同が集められ、その前でアウルが自己紹介をしている所である。

アウルが女性職員の比率が多い事に地味に驚く中、タスラムは一人考え込んでいた。

(……此処でなら、主は変われるかも知れない。そう、絶対に“あの男”の計画通りにはさせません。私の全ては我が主の為に…!)

それは、誰も知りえぬ彼女の誓い。





自己紹介が終わった後、部隊長たるはやてが解散を宣言する。
蜘蛛の子を散らしたように持ち場へ戻り行くスタッフ達を見ていたアウルは、

「アウル一等陸佐殿!」

「…ヴァイス・グランセニックか!」

懐かしい顔に出会った。

「随分と垢抜けたな。ストームレイダーも相変わらずで何よりだ」

[私も、再びアパレシオン一等陸佐に会えて光栄です]

アウルの言葉に、ヴァイスの首に下がるドッグタグの宝玉が明滅し反応した。

「大袈裟だよ。それに、今は二等陸尉の身だしな」

自嘲も憐憫もない、真っすぐな言葉。
器じゃ無かったんだよ、と笑いながら話すアウルには、悲しみの欠片すら感じない。

「…一佐、いえ、二尉は明るくなられましたね」

「アウルでいい。私もヴァイスと呼ばせて貰おう」

「…いえ、しかし「命令だ、ヴァイス」…わかりました。アウル」

ぎこちなく、しかし嬉しそうに返答するヴァイス。アウルもまた、満足そうである。
ヴァイスは24歳。アウルは23歳。歳近い存在が嬉しいのだろう。

しばし談笑をしていた2人だったが、ヴァイスがヘリパイロットに転向した事を聞いたアウルが、表情を引き締めて尋ねる。

「…まだ、引きずってるのか?あの時の事を」

「あれは、俺の未熟さが招いた結果です。ラグナは、もう……」

表情は一転し、俯いたまま言葉を紡ぐヴァイス。
両拳を強く握り、肩を震わせながら、絞り出す様に話す。
その肩に、アウルは手を乗せ、ゆっくりと語り出した。

「反省はしろ。だが、後悔だけはするな」

「……アウル」

「いいか、過去は戻らん。どう足掻こうとも、絶対に」

それは、かつてアウルも突き当たったであろう壁。

「…ならば進め。同じ過ちを繰り返さない為に。同じ悲しみを生み出さない為に」

乗り越える為に、何を考え、何をすべきか。
それは、おそらく壁に突き当たった者にしか分からない。
なら、せめて共に悩み、迷い、苦しもう。
アウルは、そう心に誓った。

ヴァイスを見据えるアウルの瞳には、揺るぎない信念が宿っている。
彼が魔導士として戦う、確固たる信念が。

「それでも、俺は…」

「今すぐ答えを出す事は無いさ。迷うことも一つの手段。時間はあるんだ、一緒に答えを探そう。……納得して、前に進む為に。な?」

「……はい!」

ヴァイスとアウル。
二人の狙撃手は固い友情を培った。
これが、アウルの最初の『教導』となった事は、互いのデバイスしか知らない。






ヴァイスと別れ、散歩がてらと六課の外を歩くアウル。
と、どこかで爆発音が聞こえた。
耳を澄ますと、海の方角から聞こえて来ていると判明。

「訓練か?行って見るかな」

[賛成です]

珍しく乗り気なデバイスに一抹の不安を覚えるアウルだったが、杞憂であることを祈りつつ、早足に歩き始めるのだった。





「じゃあ皆、今日のおさらいに、模擬戦行ってみようか!」

「「「「はい!」」」」

バリアジャケットを展開し、FW陣に声を掛けるなのは。

訓練着は汚れだらけのボロボロだが、元気よく返事をするFW陣を見て満足そうである。

と、そこに、

「高町教導官、お疲れ様です」

敬礼をしながら挨拶する白髪の青年が現れた。

「あ、アウル君。見学?」

「は、いえ。六課を散策していたら、此処に辿り着きまして」

[申し訳ありません、主が自分勝手で]

「にゃははは…」

タスラムの毒舌にはまだ馴れないのか、なのはは苦笑いを浮かべるのであった。

ふと視線を、唖然とした表情のFW陣に向けたアウル。
すると、直ぐさま姿勢を正され敬礼をされた

「あぁ。君達は確か、リニアであったね。」

「はい!スバル・ナカジマ二等陸士です!」

「エリオ・モンディアル三等陸士であります!」

「き、キャロ・ル・ルシエ三等陸士です。こっちはフリードリヒです。フリードと呼んであげて下さい」

「キュク〜〜♪]」

スバル、エリオ、キャロとフリードの順に自己紹介が済み、最後にオレンジ髪の少女が口を開いた。

「ティアナ・ランスター二等陸士であります!上官とは知らず、先程は無礼な言動、失礼致しました!」

どうやら、彼女が言っているのはリニアでの出来事の様だ。
だが、アウルはこう答える。

「いや、あれは間違いなく私が悪い。君はしっかりと職務を全うしただけなんだ。寧ろ、私が手本にしたい位だよ」

それに、私に決定打を与えた人物からは謝罪されてるからね、と続けるアウル。

(やはり君が、ティーダの妹…)

同時に、アウルは真っ直ぐな男の記憶を思い出していた。




「……へくしっ!」

「あれぇ、フェイトさん風邪ですかぁ?」

「なのかな……、くしっ!」

そして、噂の当人はリィンフォースUと共に、モニターと向き合っていた。



「そうだ、アウル君」

おもむろに声を掛けられたアウルは、

「何でしょう、高町教導官」

と、振り返りながら返事をした。
当然アウルの方が階級が下なのだから、この喋り方は当たり前の礼儀である。

だが、高町なのはは違った。

「…アウル君、その呼び方止めよっか。呼び捨てにしてみようよ。ね?」

機動六課ではある程度砕けた呼び方をされる方が多い。
なので、アウルの呼び方はやや皮肉に聞こえてしまうらしい。
それ故に、名前を呼び捨てにして欲しい、となのはは語った。

その説明を聞いて、尤もであるとアウルは思った。自分自身、親しい間柄ならばある程度砕けた対応を臨む筈。向こうが望むなら、後はこちらが努力すればいいだけの事。
機動六課の暗黙のルールならば尚更馴れる必要がある。
ならば、答えは1つ。

「分かりました。高……、なのはさん」

「今はそれでいいよ。すぐには無理だろうしね」

[ヘタレの主がよく頑張りました。花マルをあげましょう]

「茶化すな、タスラム」

珍しくタスラムを諭すアウル。だが、逆を言えば、今の彼にはデバイスの軽口を聞き流す余裕がない事を示している。
内心、色々とよく頑張った、自分と感じるアウルだった。


これは、彼の中で今日1番疲れた出来事だと、間違い無く断言出来ると自信が持てる程の事だった。





だからこそ、彼は油断していた。

なのはの口から、予想だにしない言葉を聞く事になる。

「じゃあ、アウル君とFW陣で模擬戦ね!」

「「「「はい!」」」」

「……はい?」

[頑張って下さい、主]

アウル・アパレシオン、FW陣との模擬戦決定の瞬間だった。






此処で、話は冒頭へと戻る。


「タスラム、引き続きフォルム3rdを継続だ」

同時にデバイスのバレル部分が中折れし、空になったカートリッジを2本排出。地面を跳ね、渇いた金属音がなる。

そして、バレルに再びカートリッジを装填し、

「さあ、気を引き締めて行くか」

[仰せのままに、主]

言葉を交わすと、宵の風に再び身を投じて行った。



空には2つの月が浮かぶ。

ここからは、亡霊の支配する世界である。


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