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小説(※二次中心)
第1話〜彼の者は亡霊〜


クラナガン郊外 リニアレール付近森林地帯


その日、クラナガンは気持ちの良い天候に恵まれていた。
空は、青色7:白色3の割合を保ちつつ柔らかな陽光を降り注がせている。
このような日には、自然と気分は明るくなるものである。それは、人間だけではなく、自然に存在する全ての命に共通すると言っても過言とは言い難い筈だ。
そして、この森の中を散策しているこの青年も、好天に恵まれた事に気分が良くなる種類の人間であった。

「…やっぱり、造り物の自然とは違うなぁ」

木漏れ日と薫風を全身で味わいながら、白髪長身の男が大きく伸びをした。黒いシャツど灰色のジャケットに袖を通している腕を下ろし、そのまま目を閉じる。ちなみにデニムのジーンズも黒、ブーツも黒である。
そんな無機質な色の青年に聞こえるのは、風にそよがれ擦れ合う青葉の歌。
そこに時折入り交じる、名も知らぬ小鳥達のコーラスが一層素晴らしい。

「癒されるって、正にこの事だよな…。そう思うだろ?『タスラム』」

[主がそうお考えならそうかと。まあ、あくまで私は【デバイス】ですから]

青年の問いに答えたのは、自然のど真ん中であるこの森に、お世辞にも合うとは言えない機械的な女性の声であった。

「…心なしか、怒って無いか?」

やや表情を引き攣らせる青年。

[まさか。明日から出向になる機動六課の下見をするといって、こんな所を彷徨している主に怒っているなど微塵も感じておりませんから]

激しく明滅する宝石。どうやらそれが声の主であるらしい。
ちなみにその宝石は、オニキスの様に黒い輝きを湛えており、彼の右手中指に収まっていた。つまり、指輪の宝石であった。

「わ、悪かったよ…。でもほら、索敵機(サーチャー)設置がてこずってさ…」

デバイスに対してしどろもどろに話す白髪の青年。正直、言い訳は見苦しい。
それを知ってか知らずか。タスラムと呼ばれたデバイスは言葉を続ける。

[なら、何故あの時横になったのですか?何度呼んでも覚醒されずに良眠・熟睡していたではありませんか]

ちなみに、と更に言葉を紡ぎ、反論の予知を与えないタスラム。口にしなくとも、『黙って聞いてろ』と言われているようにすら感じてくる。

[サーチャーの設置に掛かった時間、10分強。対して主が寝ていた時間が――]

「わ、分かったから!これ以上言われると立ち直れない!!」

だが、青年の願いとは裏腹に、言葉は紡がれてしまった。そう、

[――3時間]

「ぐっ……」

外ならぬデバイスの口から。
すっかり落ち込んだ青年は、樹木に寄り掛かるようにして体育座りをしてしまった。
つまり、宣言通りに落ち込んでしまったのである。
その光景を見て、タスラムはただ一言呟いた。

[…真実は時に残酷な物です]


アンタがそれを言うか…。









場所は変わって機動六課・部隊長室。
部隊長、八神はやて陸上二佐は目前のモニターを見据えていた。

「地上本部からの人事異動…。こんな時期に、ってのが考え物やけど…」

栗色のセミロングヘアーの頭を掻きながら考え込む。
機動六課は立ち上がってからまだそれほど時間も立っていない。つまり、まだ何の功績も立っていない。高ランク魔導士が多くいるとは言え、地上本部の鼻つまみ者たるはやての下に、進んで異動願いを出す局員も居る訳も無い。

「となると…、考えられるのはレジアス中将の送った監視役、ってことやな」

そう、そこまでは良い。
と言うのも、彼にとって機動六課は良い印象など無いようで、三提督や聖王教会の騎士と言った後ろ盾が無ければ此処機動六課の設立すら成り立たなかったのだから。
だからこそ早々に汚点を見つけ、解体させようとしたいのだろう。
だから、この人事異動はレジアス中将の差し金であることは用意に想像できる。
だが、である。

「何で異動してくる局員のデータがほとんど無いねん!」

ミスか、はたまた故意的にか。いずれにせよ、階級と名前の一部しか記載されていない、ゴミのようなデータしか送られて来なかった。

尚、内容はと言うと、
名前は『アウル』、階級は『二等陸尉』。
としか記載されていないゴミデータだった。

「そんなん、検索しても特定出来ひんわーー!!」と、ご乱心のはやて。
無理もない。すぐに管理局のデータベースに検索をかけたが、『該当件数2,723件』と結果が出た。
全部確認するのに、一体どれだけ掛かるだろうか。考えただけで鬱になりそうである。
諦めて検索結果の映るモニターを消した瞬間の事だった。


機動六課に、アラートが鳴り響いた。









[主、サーチャーから反応が]

「早速か?…おかしい。ここにはロストロギアクラスの魔力反応はないはずだが……」

時を同じくして、青年達にも動きがあった。
あの後、何とか復活を遂げた青年はクラナガン方面へと向かい歩いていた。そこへ、設置したサーチャーの反応。

[反応は、リニアレールへと向かっている模様]

「となると、そこを走るリニアの積み荷がロストロギアか」

青年の中では、既に反応の正体が何か分かっているようだ。

「タスラム、フォルム1stで起動だ」

[了解、フォルム1st【リベリオン】起動]

まばゆい輝きの後、機械的なフォルムの狙撃ライフルが青年の両手に収まる。
青年はそのまま立射で構え、デバイスのスコープを覗き込む。

「(樹木が邪魔だが、能力を使えば、……よし。)【スナイプ】発動」

刹那、世界は変わる。
視界は澄み渡り、目標の座標を一瞬で理解する。
そして、相手の移動速度を読み込み、自身の放つ弾丸の速度との演算を行い、そのままトリガーが弾かれた。

時間にして、僅かコンマ5秒程度。

[目前の撃破を確認。見事です]

タスラムからの称賛の声。だが、尚も青年は注意を怠らない。

「1機だけじゃない筈だ。恐らく、あと2〜3機は居ると見ていいだろう」

[主、上空に熱源反応が]

報告を受けた瞬間に、青年はライフルを上空に向ける。そして、耳を済ませた。
聞こえて来たのは――

「……ヘリ、か?」

[恐らくは]

ヘリコプター特有の飛行音であった。


「…さて、どうするか」

[十中八九、管理局ですよ。あのヘリは]

しばし青年は考え込む。
しかし、決して長考に浸る訳でもなく、すぐにタスラムに対してこう告げた。

「タスラム、『ステルス・ハイド』展開だ。様子を見る」

どうやら、ヘリに乗っているであろう管理局員達に、リニアは任せる様だ。
主の意図を理解したのであろう、すぐに魔法を発動させる。

[……よろしいので?]

辺りの風景に完全に溶け込んでから、タスラムは空を見上げる主に問い掛けた。

「なぁに、ここの管理局員がどれだけ訓練されてるかを見るいい機会だよ」

軽い笑みを浮かべながらタスラムに返答する青年。
それに、と。
青年は心の中で呟く。

(恐らく、あのヘリは機動六課のヘリだろうし、な)


ククッ、と再び笑みを零す青年を見て、タスラムは半ば呆れながらこう呟いた。


[たまに解らなくなりますよ。主…、いえ、【アウル・アパレシオン】と言う人間が…]




亡霊と機動六課との接触まで、あと僅か。

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