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小説(※二次中心)
第8話〜求める強さ【中編】〜
タスラムの謀略により、シグナムとの模擬戦が決定したアウル。

本人が知る事の無い水面下でのやり取りがされていた頃、早めに午後の訓練が終わったFWメンバーは、汗や汚れを流す為にシャワーを浴びていた。

シャワーヘッドから流れ出る水音に、浴室独特の反響する声が入り交じり響く。

「今日も疲れたぁ〜」

「そうですね。早く終わったとは言っても、訓練は厳しいですから…」

「厳しくない訓練なんてないわよ、キャロ」

「ティアナが一番張り切ってたのに、一番元気だよねぇ」

訓練について話をしているのは、ティアナ、スバル、そしてキャロの三人娘達。

訓練上がりにも関わらず、姦しさが微塵も代わらないのは若さ故だろう。

シャワーを浴びているのはティアナ。

スバルとキャロは浴槽内でのんびりと寛いでいる。

「そういえば、ティアナさんとスバルさん、最近良い事ありました?」

「ふぇ?何で?」

浴槽で話を振られたスバルが、呆けた表情でキャロに振り向く。

ティアナはシャワーを止め、水滴の滴る長髪を軽くタオルで拭いていた。

「何だかお二人、凄く張り切ってると言うか、何と言うか……」

「そりゃそうだよ。だって、私達アウルさんに訓練して貰ってるもん」

「えっ?そうなんですか?……羨ましいです」

「キャロも頼んでみたら?アウルさん、自分はフルバックだって言ってたし」

きゃいきゃいと話す青髪と桃髪の少女達。遅れてティアナも湯舟へと入る。

「ティアナさんも強くなったし、エリオ君と一緒に私もアウルさんと訓練しようかな…」

「…焦らなくても大丈夫よ、キャロ。急いたってロクなことないわよ?」

「そうですか…?」

「そうだよ!焦らず強くなろうね、キャロ!」

「……はい!」

アウルの存在は、既に機動六課にとって必要不可欠なものとなりつつある。

それは、勿論本人の知る処ではない。

だが、彼女達の心の支えとして、確かに求められているのだ。

かけがえのない大切な仲間として。

此処に、アウルを受け入れる居場所が出来上がっていた。






「さて、午前中のまとめに、2on1の模擬戦、行ってみようか!」

「「はい!」」

「じゃあ、ティアナとスバルはバリアジャケットを準備して!」

訓練場に響く、なのはとティアナ、そしてスバルの声。

午前中の訓練も佳境を終え、最後にまとめとして、二対一の模擬戦を行うようだ。

返事が早かったスターズペアから、先に模擬戦を行うらしい。

「じゃ、エリオとキャロはあたしと見学だ」

「はい」

「わかりました」

ヴィータの言葉に促され、エリオとキャロは戦闘が行われるであろう区域を離れた。

そして、安全圏の廃ビル屋上から、戦いの行く末を見守る。

視線の先には、臨戦体制を整え対峙するスターズメンバーがいた。

遠く離れたこの場所まで、緊張感が伝わって来る。

あの場所だけ、異様に空気が張り詰めているのをヴィータ達は肌で感じていた。

ちょうどその頃、フェイトも廃ビルの屋上に姿を現す。

その背後には、見馴れた白髪の青年が佇んでいる。

「良かった、間に合った…」

「スターズの模擬戦か」

[その様ですね]

アウル達が来た頃に、模擬戦が開始されたようだ。

空を飛行するなのはに対し、ウィングロードの上を駆け抜けるスバルの姿が目に入った。

地上では、ティアナが魔力弾を次々に放ちながら、なのはの攻撃を回避する。

「凄いです、二人共…」

キャロの呟きは尤もである。

かつての二人なら、間違いなく苦戦を強いられる筈であったであろう。

それが、ここ数日の間に高水準の戦闘スキルを保有するまでに成長していたのだ。

手を抜いているとはいえ、あのエースたるなのはを相手に互角に近い戦闘を繰り広げているのは当然驚くべき事なのである。

「さーて、スバル達はどうすんのかな?」

心なしか、ヴィータの声には嬉しさと期待が入り交じっているようだった。

模擬戦は、更に進んで行く。





橙の銃士が地を駆ける。

白き双銃を携え、迫り来る桜色の脅威を次々と撃ち落としながら。

「(スバル、次はディバインシューターが来るわよ!回避を念頭に置いて!)」

なのはの魔力が高まるのを素早く察知し、次の攻撃を予測、前衛にて立ち回るスバルに念話で指示を飛ばした。

「(分かった!ギリギリまで引き付けるから!)」

了承の意を示す青き拳士は、空に走る自身の翼を駆けた。

真っ直ぐ、ただ早く突貫してゆく。

「軌道がわかりやすいよ、スバル!」

なのはの言葉が終わると同時に、展開された道を走るスバルに向けて、レイジングハートから弾速の早い魔力の弾が五発放たれる。

相対速度で迫るそれは、瞬く間にスバルとの距離を縮め、彼女の身体へと着弾せんと襲い掛かった。

しかし、スバルはそんな状況の中でありながらも、なのはの攻撃を回避する。

全ての魔力弾を、紙一重の距離で、まるで摺り抜けるかの様にかわして。

そのまま、彼女はリボルバーナックルでなのはに格闘攻撃を仕掛ける。

「でぇりゃあああぁぁ!」

「…!」

反射的にプロテクションを発動させ、スバルの拳の進行を妨げようとするなのは。

だが、それを予想していたかのようにスバルは拳の軌道をずらし、大きく空振りした。

なのはは一瞬訝しむも、直ぐに反撃準備を完了。

誘導性の高いアクセルシューターを展開する。

だが、スバルの攻撃は、この瞬間を狙って行われていた。

「……ここだぁッ!」

「嘘!レイジングハート!」

[『オートプロテクション』]

空振りの勢いを載せた強烈な後ろ回し蹴りが、オートプロテクションの障壁と衝突した。

加速と遠心力の相乗効果により、膨大な衝撃が生み出される。

バリアは破れこそしななかったが、誰もが一目して分かる程の大きな亀裂が発生。

だが、スバルは追撃はせず、バリアを蹴った反動を活かして距離を開ける。

「(ティア、行けそう!?)」

「(もう少しだけ粘って、スバル!!)」

すかさず念話にて問うスバルに、ティアナからの返事が届いた。

「やるねスバル!びっくりしたよ!」

なのはは、自身の教え子たるスバルの成長に、喜びと驚きを正直に表現した。

考えて攻撃し、攻めるべき時・引くべき時の判断力が身についていること、攻撃も相手の虚を突く技術を織り交ぜていることなど、柔軟な戦術が可能となるスキルが会得されているのだから。

すると、今度は砲撃魔法を使うらしく、スバルの差し出す左手に魔力が集中している。

「…させないよ、スバル!」

[『アクセルシューター』]

流石は伊達にエースと呼ばれてはいないなのは。

直ぐさま魔力弾を展開し、スバルに向かって射出する。

その内の一発がスバルに当たったその刹那、彼女の身体は掻き消える。

「幻影魔法!?いつの間に!?」

「リボルバー、シュートッ!」

同時に背後から高速で飛来する空気振動の弾丸。

反射的に上空へと上昇し、一撃を回避するなのは。

彼女は、心底驚愕していた。

自分の知らない間に、ティアナとスバルはここまで強くなっていたのかと、改めて実感したから。


だからこそ、である。

(だったら、今の二人に応えてあげなきゃ…!)

高町なのはは、教導官の表情から一人のエース魔導士のものへと変貌する。

「行くよ、レイジングハート!」

[了解しました、マスター]

模擬戦は、更に熾烈を極める。





なのはの攻撃が激しさを増した。

地上で魔力弾を撃ち落とすティアナはそれを感じていた。

間違いなく、なのはは本気を出し始めたと、直感的に感じるのだった。

「それでも…、全力でぶつかるだけ……!」

彼女を本気にさせる実力が着いた証。

なら、恥じる事はない。

胸を借りて、ぶつかるだけなのだから。

「今の私達が、何処まで通用するのか正直分からない…」

クロスミラージュを握る手に、思わず力が入る。

「なら、全力で貫くんだ!」

今出せる全ての力を使って、立ちはだかる最大の存在に挑む。

それが、ティアナがアウルとの訓練から学んだ一つの答えである。

勿論、無謀としか思えない実力差がある場合は別であると釘を刺されているが。

「スバル!準備は出来てる!?」

「いつでも行けるよ!ティア!」

スバルの返事を聞いたティアナは、カートリッジをすかさずロード。

魔力を一気に高めた。

(絶対に、貫いて見せる…!)

クロスファイアシュートの魔力が、デバイスを通して弾丸を形成してゆく。

なのはもその魔力に気が付き、すぐさま迎撃するためレイジングハートをティアナへと向ける。

だが、そこに襲い来るは青き拳士。

疾風怒涛の勢いに載せた近接攻撃が、なのはを釘付けにした。

「スバル…!」

「守るんだ…!ティアが勝利をもぎ取るまで、私がティアを守るんだ!」

ティアナは、己の信念を貫く為の力を求め、結果手に入れた。

対してスバルは、信頼を守る為の力を求め、それを己がものとした。

求める力は違えど、二人は常に互いを支え、補い、ここまで来たのだ。

そう、何故なら彼女は――

「私は、ティアを信じてるから!」

「『ラピッドファイア』、シュート!」

スバルの声に合わせるかの様に放たれた、オレンジ色の魔力の弾丸。

速射の名を冠するその魔法は、過たずなのはへ向かう。

だが、

「……なら、私も応えるよ!二人共!」

なのはの宣言と時を同じくし、ティアナとスバルの視界はまばゆい桜色の閃光で覆われる。

彼女の放った魔力の奔流は砲撃となり、全てを飲み込んだ。



それを間近で見ていたアウルは、一人呟く。

「……なのはの勝ち、だな」

射線へと割り込み、桜色の砲撃光を結晶とし砕きながら、アウルは何を思うのか。







模擬戦は、二人の撃墜により、なのはの勝利に終わる。


「にゃはははは……」

「なのは、少しやり過ぎじゃない?」

「ディバインバスターは、いくらなんでもなぁ」

桜色の結晶が散らばる周囲を見ながら、フェイト達は次々に呆れた口調で話をする。

あの時、なのはが最後に放った砲撃魔法は、ティアナとスバルに直撃する事は無く、アウルが質量変換し防いだ。

アウルから、

「オーバーキルです、なのはさん」

との注意が飛ばされて。

彼の行動のおかげか、ティアナとスバルは砲撃魔法を受けずに済んだが、あくまでアウルが模擬戦に割り込んだが故の事。

実際なら二人共、ディバインバスターの砲撃に呑まれ、撃墜されていただろう。


「……届かなかった」

「ティア、ゴメンね…」

「ううん、違う。私が焦りすぎたのが原因よ。スバルは何も悪くないわよ」

「そんな!私がもっと、なのはさんを引き付けていられたら、きっと…!」

[過ぎた事を悔やむなら、しない方が賢明ですよ]

なのはに撃墜されたのは自分が原因だと互いに言い張るティアナとスバルのやり取りに、タスラムが苦言を提する。

「そうだぞ二人共。悪い所が分かってんなら、後はあたし達が教えてやるさ」

「模擬戦って、喧嘩じゃないから。悪い部分を見直す為にするんだもん」

タスラムの言葉に賛同の意を示すのは、ヴィータとなのは。

「教導とは、“教え導く”事。だが、それは一方通行の意味合いに他ならない。……あくまでも、“共に教え合い、答えを導く”事が、私は真の教導の意味だと思う」

あくまで私の個人的な見解だがな、と付け加えるアウル。

だが、彼の言葉はその場全ての者の心に深く突き刺さった。

教導を受ける立場のFW陣だけではなく、教導をする立場の隊長陣にも、彼の言葉は大きな影響を与えたようで。

「“共に教え合い、答えを導く”、か……」

フェイトがエリオとキャロを見つめ、感慨深げに呟く。

一方的な押し付けの教え方は、教える側の『分かっているだろう』という勝手な思い込みから来るものであり、それは最も危険なもの。

教導は互いに行うという考えは、フェイトには無かった。

教える立場からは、教わる立場から見えるものは分からない。

だからこそ、教導官の多くは独りよがりの教導となりがちである。

実際、なのはの教導もそれに近いものだった。

基礎の訓練を丁寧に反復し、確実に実力を身につける。

聞こえは良いが、裏を返せばそれは基礎訓練しか行わない事を示している。

基礎訓練では、自身の成長が確認しにくく、ティアナの様に向上心の強い者にとってそれは苦痛となりやすい。

もしアウルがティアナとの訓練で、同じ基本訓練しかさせなかったならば、溜まりに溜まったフラストレーションがいつ爆発するか分からなかったであろう。

なのはも、自身の教導を顧みている様で、真剣な表情をしていた。

アウルは、少しだけ満足げな微笑を浮かべると、落ち込むティアナに近付く。

「どうした、ティアナ」

「…すいません、アウルさん。折角教えていただいたのに……」

「だが、力は全て出し切ったんだろう?なら、誇るべきさ。今の自分の実力を」

「……はい」

落ち込むティアナに掛けられるは、優しく諭す温かな彼の言葉。

前向きに捕らえれば、確かに高水準の戦闘技術は備わっている。

なのはが砲撃魔法を本気で放ったのが良い証拠だ。

「分かりました。私、もっと頑張ります…!」

どうやら、気持ちの切り替えに成功したらしい。

やる気に満ちた決意の瞳が、アウルの姿を映し出す。

「……なら、重畳だ」

そう言うと、アウルはティアナの頭に左手を載せ、優しく撫でる。

サラリとした髪質を肌に感じながら、あいつもこんな事をしてやっていたのかと、彼女の亡き兄を思う。

だが、突然の出来事にティアナはと言うと、

「はぇっ!?はわわわっ///」

彼女らしからぬ声を上げながら、あたふたとしていた。

羞恥の極みか顔は真っ赤に染まり、だが表情は嬉しそうなものを隠しきれていない。

何より、撫でられている事を嫌がる様子はなく、寧ろ喜んでいる。

「頑張ったな、ティアナ」

「……はい///」

「あ〜!ティアずる〜〜い!」

私も頑張りました!と主張するスバル。

タスラムは、内心したたかな娘だと小さく溜め息を着いた。

「ああ、スバルも頑張ったな」

「えへへ〜〜///」

そう口にしながら、スバルも労うアウル。勿論頭を撫でている。

スバルの表情は花が咲いた様に、明るいものと変わる。

左手にティアナ、右手にスバル。

端から見れば、仲のよい兄妹にしか見えないその光景を、

「いいなぁ…」

「羨ましいです…」

エリオとキャロは羨望の眼差しで見つめ、

「アウル君、凄く優しい顔してる」

「うん、ティアナ達が羨ましいな」

「…あたしは別に、撫でて欲しくなんか……」

意外にもお子様思考の隊長陣達が見守っていた。






その後、フェイト相手にライトニングの二人が模擬戦を行い、善戦するも惜敗をする。

余談だが、エリオとキャロの二人はフェイトに頭を撫でて貰ったのだが、二人共「アウルさんが良かった」と、後に語っていたそうな。





続く……

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あきゅろす。
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