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小説(※二次中心)
第7話〜終焉を告げる者〜
第27管理外世界。



工業技術の発達により、軍需革新が盛んとなっている軍事国家の世界。

[マスター、対象捕捉しました。何時でも行けます]

[……了解]

天に聳える煙突塔から、絶え間無く白煙が吐き出される世界。

その世界に、黒いゴーグルを身につけた漆黒の銃士が舞い降りた。

彼の者は魔弾を携え、与えられた任務を果たす事のみを考える。

目下には、群集が道を歩き、日常の中に生きる。

切り立った崖に佇む男は、特徴的な白い髪を風になびかせながら呟いた。

「任務内容の最終確認。最優先事項、広域次元犯罪者『ロマノフ・フェリベ』の排除」

[確認了解]

「『エンフォーサー』、任務を遂行する」

スコープの先に映る対象に、不吉を届ける為に。






時は遡り、機動六課では次の任務であるホテルアグスタの警備のブリーフィングが行われていた。

だが、そこにはアウルの姿は無い。

「……じゃあ、質問のある人は?」

概要説明を終えたフェイトが、集まっていた隊員達に声を掛ける。

すぐさま手が挙がり、フェイトはその人物を指名した。

「じゃあ、スバル」

「はい!あの、アウルさんは、今回出動しないんですか?」

青い髪の少女、スバルが元気よく質問した。

「どうして?」

「だって、その…。アウルさん、此処に居ないから、もしかしたらって…」

「成る程ね。…そう、今回はアウル君は出動しないんだ」

フェイトも残念そうに真実を告げた。

スバルだけでなく、FW陣全員がもがっかりしている。
ティアナの落胆ぶりは正直目に余るものがあるが。

ふと、エリオが口を開く。

「でも、なんででしょうか…」

その呟きに答えたのは、シャマル。

「さっきアウル君と話したんだけど、どうやら別任務らしいわ」

「別任務?」

今度はエリオではなく、なのはが問う。

実は、シャマルを除く全員が初耳だったらしい。

「ええ。なんでも、レジアス・ゲイズ中将直々の任務らしくて」

「何だと…!?」

「シャマル!ちゃんとそー言うのははやてに報告しろよ!」

シグナムとヴィータが激しく攻め立てる。

シャマルは少しだけ畏縮してしまった。

だが、シグナムとヴィータの言い分は尤もである。

レジアス・ゲイズ中将と言えば、陸のトップ。

彼からの直々の任務ならば、どんな物か気にならない訳がない。

「して、アウルは何と?」

蒼き狼、ザフィーラがシャマルに尋ねる。

「それが、『最重要特秘任務ですので』って」

「とどのつまり、話せへん、ちゅう事なんよ」

最後ははやてが引き取った。

と言うのも、たった今アウルから連絡が入ったからである。

やはり、はやてとは言えども、彼から任務内容は聞き出せなかったらしい。

だが、はやては感づいていた。

(『エンフォーサー』、か…)

彼の罪が、また一つ重ねられると。

はやては、悲しみの中で理解していた。



その日、アウルがシャマルに会う少し前。

彼が自室でいつものように業務を行っていた時の事だった。

[!……主、通信です]

タスラムが、通信を受け、アウルに告げる。

その声は、隠せない程の緊張と動揺が含まれていて。

アウルは、すぐに表情を引き締め通信を取り次いだ。

「アウル・アパレシオン二等陸尉であります」

『任務だ、【終焉を告げる者(エンフォーサー)】』

挨拶もせず、モニターに現れたレジアスは彼にそう告げる。

アウルは表情を変えず、次の言葉を待つ。

『第27管理世界で、広域次元犯罪者【ロマノフ・フェリベ】の抹消だ。詳しくはデータを見ろ。任務は明日遂行だ。いいか、失敗は許さん。……以上で通信を終える』

一方的に話し終え、レジアスは通信を閉じた。

[あの男は、一体主を何だと…!]

「いいんだタスラム。あの方のおかげで、今の私があるのだから」

レジアスの対応に、思わずタスラムは憤慨する中、アウルは平静に話し掛ける。

そう、アウルが管理局で勤務出来るのも、こうして今の地位に居られるのも、全てレジアス中将の任務を遂行し、完遂させてきたおかげなのだから。

だからこそアウルは、どれだけ冷たい対応をされても嫌な顔一つしない。

からっぽの自身に、狙撃手という存在価値と意義を与えてくれた存在に、彼は感謝しているのだから。

だが、それはレジアスにとって彼が『消耗品』として扱われている事を暗に示しているのと同義である。

そしてタスラムは、以前からその事実に気が付いていた。

(主の為に、私は自分を騙している…。だが、それで本当にいいのだろうか…?)

タスラムは、答えの出ない問いを自らに問い掛けるしか出来なかった。

[主……]

「……いくぞ、タスラム」

[…了解しました]

彼は、奪う為の力を振るう。

自らの存在を示す為に。

功績の残らぬ任務へ赴く。

それが、彼の全てなのだから。





機動六課が、ホテルアグスタでオークションの警備任務に着いて居る頃、アウルは、管理局の転送室にいた。

任務は無論、管理局地上本部のレジアス・ゲイズ中将からの直令。

『エンフォーサー』に下された、最重要指令である。

「…主、大丈夫ですか?」

「レジアス中将直々の任務だ。断る事など出来ない」

青年の顔色は優れず、足取りもそこはかとなしに重く見える。

アウルは、『エンフォーサー』としての自分が嫌いだ。

その名を知る者は管理局でも上層部の数少ない一部しかいない。

そして、データを閲覧出来るのは、レジアス中将と本人のみ。

彼の功績は、管理局にとっては素晴らしい働きである事は間違いない。

だが、世間からの風評を鑑みると、公表出来る内容では無い事も確かだ。

つまり、彼にとって『エンフォーサー』としての任務は、決して報われる物では無いのである。

それでも、彼は誇りを失わない。

狙撃手として存在する事が、彼の唯一にして絶対の存在意義(アイデンティティ)なのだから。

空虚な自分自身が、アウル・アパレシオンとして在るために。

「ただ、遂行するのみ…」

彼が握りしめた左手から、紅の雫が滴り落ちた。

[主、私が居ます。貴方は一人ではない。それに――]

優しく窘める様に。

幼子に語りかける母の様に。

タスラムは、静かに言葉を紡ぐ。

[――機動六課の人々もいるではありませんか]

「……だが、罪は消えない。赦されない」

それは自嘲の句。

闇に葬り去られる任務だからこそ、贖罪すら赦されず、ただ背負い続けるしかない。

『エンフォーサー』としてアウルが奪った人間の命の数は、世界のそれとと比較して見れば、ほんの僅かでしかない。

だが、その数は一人の人間が背負うには余りにも重く、余りにも辛い。

[主…]

「無駄口は此処までだ、起動しろ」

[了解、マスター]

彼とタスラムの口調が変わる。

同時に、青年の纏う空気も。

コートから、目元を覆い隠すゴーグルを取り出し、彼は身につけた。

狙撃ライフルとなったタスラムを持ち、転送装置に歩みを進める。

彼がゴーグルをつける刹那、そこに見えた表情は、なのはがいつか見たあの冷酷なそれであったのは、誰も知らない。

まばゆい光が消え、転送室からは誰も居なくなった。





場面は、冒頭に戻る。

彼と標的たるロマノフとの距離は、4,000m程度。

常人の視力ならば、視認するどころか人か否かを判断出来るかすら危ういこの距離。

アウルは、まるで硬貨の違いを見分けるかの如く、いともたやすくロマノフの姿を捕らえていた。

ロマノフからは、決して見える事の無い狙撃手の姿。

だが、着実に彼の身には終焉が近付いている。

既にロマノフの首筋には、『執行者』の携える斬首鎌の冷たき刃が突き付けられているのだから。

「魔力変換完了。質量弾、装填」

カートリッジがロードされ、タスラム内で精製された魔力弾がアウルの能力によって質量を得る。

非殺傷設定しか搭載されていない試作デバイスたるタスラムが、実質殺傷設定を得る瞬間である。

[質量化安定。狙撃準備、全行程完了]

「……怨め、この私を」

それは、彼の業。

償いすら赦されない彼の、覚悟の言魂。

そして、トリガーに掛けられた指が弾かれた刹那、質量を持った魔力弾が示し出された射線を疾走(はし)った。



そして。


スコープを挟んだ4km先で、ロマノフ・フェリベは自身の頸部を撃ち穿たれ、溢れ出す己の紅の奔流に染まりながら、苦しみながら絶命した。


[対象の生体反応消失。任務完了です]

タスラムは、ロマノフが絶命した事を伝える。

それを聞いたアウルは、レジアスへと通信を繋げた。





『任務遂行、完了致しました。レジアス・ゲイズ中将』

「そうか。ならば帰還した後、お前のデバイスを経由して私に報告書を提出しろ」

『了解しました。【エンフォーサー】、帰還します』

敬礼する白髪の青年を映すモニターが消え、やや薄暗いその部屋に静寂が訪れる。

時空管理局地上本部。

レジアス・ゲイズ中将の執務室ではそのようなやり取りがされていた。

部下に対する労いの言葉もそこそこに、レジアスは事務的に指示を伝えると、すぐに通信モニターを切った。

「…フン。虚ろなる存在め」

レジアスの言葉は、間違いなくアウルに向けられたものである。

レジアスとアウルの出会いは、7年前の出来事。

彼の類い稀なる能力を見込み、管理局へと入局させ、以後直属の部下としていた。

レジアスは、彼を信頼してはいるが、信用はしていない。

彼に取って、アウル・アパレシオンは『消耗品』でしかないのだから。

「せいぜい利用するとしよう、『エンフォーサー』」

彼の手元にある、数十枚にも及ぶ上質紙の束。

データでの資料が主となるこの世界に不釣り合いなそれは、何故か異質な雰囲気を漂わせている。

その用紙の束を一瞥したレジアスは、ある一文を静かに読んだ。

「【T=MATRIX 計画】…」
それは、時空管理局の持つ、大きな闇。

紙の束の一番最後の用紙には、こう記されていた。


『…この計画が成功すれば、管理局は絶対的な力を持つ事が可能になるだろう。

だが、それが何を意味するのかを、我々は深く考えなければならない筈だ。

願わくば、この計画が机上の空論に終わる事を切に祈る。

T=MATRIX計画 最高責任者 ロマノフ・フェリベ准将』


「…ロマノフめ、余計な事を考えなければ、まだ生きながらえたものを」

呻くように声を絞り出したレジアス。

既にこの世に存在しない人物を睨み付けるよう、彼は虚空に双眼を向ける

その瞳には、どこか狂気が孕んでいるようにも見えた。






アウルは、任務を終えた後、すぐさま機動六課へと向かっていた。

地上本部にて報告書をまとめ、すぐにレジアスへと送り、そのまま真っ直ぐ帰ったのである。

余談だが、アウルは機動六課へと近づくにつれて、表情が柔らかくなっていたのはタスラムしか知らない。

[主、到着しました]

「ああ、機動六課だな」

何故だろう。ここに戻ると、気持ちが楽になる。

アウルは心の中で、一人呟いた。

そう、彼自身気が付いてはいないが。

それは彼の中で、機動六課と言う存在が大きなものと成りつつある証であった。

自然と進む足は、機動六課の入口、エントランスへと向かっていた。

ホテルアグスタでの任務を終えたであろうなのは達は、きっと既に夢の中であるはずだ。

既に時刻は午後11時を過ぎているのだから。

「今日は休もう……、ん?」

[待ち人のようですね、主]

自分も自室で休息を取ろうと考えていた矢先、エントランスホールに一人の影が動いたのを確認する。

「おかえりなさい、アウル君」

優しさ溢れる微笑みは、少女のそれを思わせる。

流れる茶色の髪は、美しさの一片。

「なのはさん…」

高町なのは、その人であった。

彼女は言う。

「少しだけいい?」

アウルは、ゆっくりと頷いた。





なのはは、ホテルでの任務の話をしてくれた。

出品されたロストロギアに反応し、ガジェットが現れた事。

FW陣と副隊長達の活躍により、スムーズに殲滅出来た事。

そして、隊長達のドレス姿を見てほしかった等、任務の話から他愛のない話まで。

その中でも、なのはは特にティアナの話を嬉しそうにしていた。

「ティアナ、何だか吹っ切れたみたい。自分の役割を理解して、的確に指示を出してたって、ヴィータちゃんも驚いてたんだ。私も見たかったな〜、ティアナの勇姿」

「…嬉しそうですね、なのはさん」

二人の手には、湯気の立つ紙コップが握られている。

アウルが話の始まる前に買って来た物だ。

なのははミルクティー、アウルはカフェオレである。

どちらも、なのはが飲めるような物なのは、アウルなりの気遣いの顕れだろう。

「うん。凄く嬉しいよ。自分は凡人じゃないって、ティアナが自分で言ったんだもん。…自分に自信がなくちゃ、強くならないから」

「なのはさんの教導がお上手だからですよ」

そう言われ、少しだけ照れながら笑うなのは。

その表情を見て、アウルも自然と微笑んだ。

はやてを魅力した、あの笑顔を。

「あ……///」

[あ、主…!!]

「…うん?」

彼の笑顔の破壊力に、フリーズしてしまうなのは。

無意識の攻撃が、余りにもタイミングが良すぎる為に呆れるタスラム。

そして、事態が飲み込めないアウル。




この何気ない日常が、空虚と自負するアウルを満たし始めて行く。

今宵だけは、亡霊に安息が有らん事を願う―――









同時刻 ミッドチルダ某所

「素晴らしい…!『プロジェクト【F】』の残澱を、まさかこの目に出来るとは!」

紫色の長髪に、白衣を身につけた痩躯の男。

彼の見つめるモニターには、フェイトとエリオの戦う姿が映し出されている。

「そして、『タイプゼロ』もここに居るとは!私は運が良い!」

別のモニターには、スバルの姿が踊る。

「欲しい…、欲しいぞ!」

狂気の体言者。

それこそ、彼を示すに相応しい言葉であろう。

そこに、一人の女性が姿を表した。

「ドクター、よろしいでしょうか」

「ウーノか、どうかしたのかね?」

流れるような長髪に、整った端正な顔立ちの女性はウーノと呼ばれた。

「……これを」

示されたデータに目を通す男。

彼の表情に、驚愕と狂喜の笑顔が咲いた。

「…フハハハハハッ!素晴らしい!まさか、こんな事があろうとは!」

データに映る二枚の画像。

それは、どちらも同じ顔をしている。

唯一つ、正反対の髪の色を除いて。


片や艶やかな黒い髪の青年。

片や色素の抜けた白い髪の青年。

名前と思わしき部分には、こう示されていた。

「まさか、存在しているとは…!『Proto-EN00』!」

「ドクター、やはり彼が『T=MATRIX 計画』唯一の成功体なのですか?」

「ああ!まさしくその通りだよ!」

まさに欣喜雀躍の喜びようである。

男は新しい玩具を手に入れた子供のような表情を浮かべながら、高笑いを続けていた。


彼こそが『無限の欲望』、ジェイル・スカリエッティ。


JS事件の発端となる人物は、静かに動き始めていた。

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あきゅろす。
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