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小説(※二次中心)
第5話〜力の片鱗〜
[さて、高町なのはの計らいにより、模擬戦をすることになった主ですが、相手はFW陣。エリオを撃墜したとは言え、残るはまだ3人。姿も表さない彼女達に、主はどう戦うのでしょうか]

「…タスラム。誰に説明してるんだ?」

朽ちかけたビルの中に、女性の電子音声と男性の肉声が響く。



廃棄都市を戦闘フィールドとして設定し、なのはのカウントと同時に模擬戦が開始された。

制限時間は90分。
FW陣は全滅、アウルは撃墜されたらそこで終了とルールを決められて。

開始直後にFW陣は散開。アウルもまた同じく距離を取った。

そしてすぐにタスラムを1stから3rdにフォルムチェンジを行う。

タスラムの近距離戦闘用フォルム、【アルテミス】。
狩猟の神の名を冠したそれは、近距離での取回しやすさを考えて調整されている。
形状は、シングルアクション式水平二連バレルの散弾銃であった。

狙撃手の近距離戦闘は余り想定されない中、アウルは近距離での立ち回りを考え、このフォルムをデバイスに組み込んでいたのである。

そして、タスラムの説明通り、廃棄都市群を移動中に奇襲をかけてきたエリオを撃墜した。


残るは3人。

青年は、静かに呟く。

「こう起伏や障害物が多いと、狙撃も出来ない」

[……そう思ってるでしょうね、彼女達は]

並の狙撃手ならば、確かに不可能だ。だが、ここに居る青年は、そこいらの狙撃手とは次元が異なるのだ。

「これもいい経験か」

「【リベリオン】起動。カートリッジロード」

やり取りの後、散弾銃から狙撃ライフルに姿を戻すタスラム。
そして、カートリッジを1本ロードする。
スライドから空薬莢が排出。余剰魔力が蒸気となって排出された。

「【スナイプ】発動」

[目標までの狙撃射線軸を設定します。距離算出演算開始。…設定完了]

「重畳。…さて、と」

アウルは気付いていた。
エリオを撃墜する前に、ブースト魔法の魔力の発動場所が何処だったかを。
すなわち、キャロの居場所。

スコープを覗き、視界に示される狙撃射線軸にレティクルを合わせ、引き金に指を掛ける青年。
姿勢は片膝で座る狙撃姿勢――膝射を取り、大きく深呼吸。集中以外の全てを意識から切り離す。

そして、

「『リフレックス』」

[ファイア]

弾丸は、亡霊の脅威として、銃口から放たれた。





Side なのは


突然の模擬戦に戸惑いこそしてたけど、アウル君は以外とあっさり承諾してくれた。
なんでも、自身も前線で戦う機会は殆どないらしく、戦闘技能が鈍って居ないか確認するいい機会だとか。

「…でも、凄い」

正直な称賛の言葉。
狙撃手とは聞いていたけど、あれだけ接近戦もこなせるのだから、フロントアタッカーでも通用する位の腕前だ。

『それ故に読みやすいぞ、エリオ!』

一瞬の抜き撃ち。しかも、死角であるはずの背後に。
エリオが身に纏う魔力が強制的に剥がされ、突進力を失う。

『まだだ!』

『え?…ガフッ!ゲホッ!』

そして、振り向き様の左回し蹴りがエリオの腹部に叩き込まれた。
あれは痛い。
エリオのバリアジャケットは元々薄いのに、魔力弾で魔力を剥がされた状態なら、かなり痛いはず。

そう思案するうちに、エリオは撃墜。腕を魔力で拘束された。

「アウル君強いね、レイジングハート」

[実力はあります。ですが、マスターには敵いません]

「…ありがとう」

ビル内部に隠れたアウルをモニターしたまま、私はレイジングハートと会話する。

レイジングハートはああ言ってくれるけど、彼の本来のスタンスは狙撃。
圧倒的遠距離からの静かなる一撃必殺。

私の砲撃が『見える脅威』なら、彼の狙撃は『見えざる脅威』と表現出来る。

それに、彼はまだ本気を出していない筈だ。

「あれ?デバイスが狙撃ライフルになってる」

[魔力反応を感知。射撃するようです]

いつの間にかアウル君のデバイスは、散弾銃から黒い狙撃ライフルに変わっていた。

あんな場所から?
ティアナ達の姿も見えないのに?

私のモニターには、アウル君とティアナ達の場所が映っているんだけど、ティアナ達は500m以上離れたビルの4階に居るし、アウル君は1階部分からデバイスを構えている。

どうやって狙撃するつもり何だろう。

そう考えていた刹那、彼の構えるライフルのトリガーが弾かれた。



そして、



『フリード!?』

キャロの悲痛な叫びの後、

『嘘…、何処から!?』

スバルの驚きの声と、

『全員警戒!いつでも防御魔法が発動出来る様にして!』

ティアナの指示を出す鋭い声が響く。

そう、フリードが撃墜されたのだ。


「一体何が…」

呆然とする私に、レイジングハートの声が届く。

[彼は本当にAランク魔導士ですか?


明滅する私のデバイスが、あの一瞬の出来事から疑問を抱いたらしい。。

「レイジングハート、何が起きたか分かる?」

[ええ、解析しました。これが先程の狙撃魔法の弾道です]

私は、思わず息を飲む。

余りにも非現実的だったから。

[間違いなく、緻密に計算された跳弾による間接狙撃です]

レイジングハートがモニターに示したデータ。

弾丸のベクトルは、ビルの壁や柱を幾重にも反射・跳弾し、フリードの飛んでいた座標に真っ直ぐ向かっていたのだから。

「技能スキルで言えば、オーバーSランクの技術だよ、これ…」


私は、モニターに映るアウル君に再び視線を向けた。

そして、戦慄する。

その表情は、温厚で優しそうな彼のものとは思えないほど、冷徹なものだったのだから。



Side Out……







間違いなく着弾したと、アウルは理解した。
狙撃手として培った感覚が、彼にそう告げている。

「……撃墜(お)ちたか」

[主、反応からあの竜だと思われます]

狙い通りにフリードを撃ち落としたアウル。
陸戦魔導士に取って、高い位置にいれる空戦魔導士は相性が悪い。
リニアの時の様に、大きくなったあの竜にティアナが乗ったら間違いなく不利になると判断したからだ。

そして、もう一つ。
アウルは心理戦を仕掛けたのだ。

1カ所に集まる時は、相応にして作戦を立てる時が多い。
それが、初見の敵なら入念に行われるはず。
だからこそ、彼は精神的に恐怖を与える方法を選んだ。


それが、障害物を越える狙撃である。


壁に隠れていようが、建物内にいようが、アウルには関係ない。
彼は、ありとあらゆる状況下の任務をこなして来ているのだから。

「…よし、いいだろう。【アルテミス】にフォルム変更だ」

[彼女達を狙撃すれば、終りですが?]

「飽くまで、私の近距離戦闘技術の確認が目的だ。今のは牽制だよ」

タスラムの言う通り、戦闘開始と同時に狙撃をしていたならば、1分も必要としなかっただろう。
秒速8,000mの魔力弾の前には、回避など不可能なのだから。

だが、それでは意味がない。

FW陣の動きや癖を確認するいい機会なのだから。
だからこそ、敢えて3rdフォルムで模擬戦を行っていたのである。


「そろそろ来る頃合いか。タスラム、抜かるなよ」

[主、そのままお返ししますよ]


互いに言葉を交わした後、廃ビルから飛び出して行くアウル。自身の半身とも呼べるデバイスを携えて。




Side ティアナ



ありえない。

脳内では、引っ切り無しにその言葉が反復される。

どうやって?
一体どうやって?

「どうやって逆向きの方向から狙撃出来るのよ…!」

あの人は、間違いなく私達のいるビルとは真逆にライフルを構えていた。

だと言うのに、フリードは彼の弾丸に撃ち落とされたのだ。
しかも、向こうは地上。
こちらは地上4階。
あの魔法は、直線を走る魔力弾の筈だ。

「ティア!何今の!どうしてフリード遣られたの!?」

「うるさいわよスバル!落ち着きなさい!」

分かったら苦労しないわよ!
私だって、あそこから狙撃されるなんて考えてなかったし…!

「フリード!しっかりしてフリード!」

「キ、キュク…」

キャロも混乱してる…。
これじゃ、アウル二尉の思う壷じゃない…!
考えろ、考えるんだ…!

同じ銃型デバイス使い、何か弱点があるはずだ…!

「……そうだ!」

これだ!これしか無い!


「スバル!キャロ!作戦を考えたわ!聞いて!!」

負けるつもりはない。
勝算があるなら、その可能性に賭ける…!

混乱していた頭が、確実に冷静になるのを待ち、そして、考えた作戦を話し出した。


「…いい?分かった?タイミングを逃したら、そこで終わり。ギャンブル要素が高いけど、勝てる可能性があるなら…」

「やろうよティアナ!」
「そうです!やりましょうティアナさん!」

力強く肯定するスバルとキャロに、内心ありがたく感じる。
この作戦は、正直リスクが高い。発動前に撃墜される可能性だってある。
でも、2人は賛成してくれた。

なら、覚悟を決めて決行するのみ。

「さあ、行くわよ2人共!」

「うん!」

「はい!」

私達は、スバルの発動したウイングロードを駆け出し外に飛び出した。

「…証明するんだ」

ランスターの弾丸は、全てを貫けるんだと。



Side Out……







[来ましたよ、主]

タスラムの声に、ハイウェイ上に佇むアウルは周囲を見渡す。

そして見つけた。
宵闇に現れた、空色の道を。
そこをローラーブーツで滑走し、右腕の鉄拳を回転させながら迫り来る、青き拳士の姿を。

「カートリッジロード!」

右腕を振りかぶり、そこに魔力が集中するのを確認出来た。
カートリッジをロードし、彼女の魔力が高まる。

攻撃を回避しようと身構えたアウルの右側から、オレンジ色の魔力弾が飛来する。
射線元であるビルの屋上には、

「むっ…!」

「外した…。でも!!」

口惜しそうに表情を歪ませるティアナがにいた。
白き拳銃を構えている彼女は、更に指示を出す。

「キャロ!」

「はい!『アルケミック・チェーン』!」

幼き竜使いが、詠唱を完了する。同時に、足元から巻き付く桃色の鎖がアウルを捕らえる。

[主!]

「くっ!バインドか!」
あの幼さから感じられない程、頑強なバインド。
そこに、翼の道を疾駆するスバルが躍りかかった。

「一撃必倒!!」

前方に差し出された左腕。腰溜めされた右腕。
スバルの魔力が、高まる。

「ディバイィィイン!バスタァーーーーッ!!」

「………」

振り抜かれた右腕から、全てを飲み込む巨大な砲撃魔法がアウルを飲み込んだ。
同時に、魔法の衝撃が砂塵を舞い上げ、彼とスバルを包み込んだ。

ディバイン・バスター。

かつてスバルが目にし、魔導士となるきっかけの魔法。
間違いなく、スバルの扱える最高威力を誇る砲撃魔法である。

「…やった!」

思わず声を出してしまったティアナ。
ここまで上手く行くとは考えていなかったからだ。

キャロもまた、嬉しそうに笑顔の華を咲かせた。

「素晴らしい作戦だったよ、皆さん」

アウルの声が、戦闘フィールドに響くまでは。

[『バレット・レイン』]

続けて鳴る、3回の銃声。

そして、それなりに重量のある何かが倒れる音が、まだ終わっていないと嫌が応でもティアナ達に理解させる。

宵の潮風に流され、砂埃が散る。

そこには――


「「スバル(さん)!!」」

天を仰ぎ、地に臥すスバルの姿。
そして、

「…使うことになるとはな、コイツを」

空色の結晶の中に立つ、アウル・アパレシオンの姿だった。

『あれが、特異魔力変換資質、【質量】……』

なのはの呟きが、漆黒の空間に掻き消えて行く。

「ならば答えよう。相応の力で」

アウルの呟きと、

「あうっ……」

キャロが意識を失わされたのは、

「……え?」

同時の出来事だった。

倒れたキャロの背後には、『今も間違いなく』ハイウェイ上に居るアウルである。
だが、ティアナが彼にデバイスを向けたまま、ハイウェイ上に視線を向けると、そこにも白髪の青年が居る。

と、次の瞬間には、ハイウェイ上の青年は粉々に砕け散った。

[『ダミー・グラス』。質量化した魔力に、魔法で主の姿を映し出す、撹乱用の魔法です]

「魔力消費が激しいのが、玉に傷だけどな」

話し終える前に、ティアナは魔力弾を撃ち込んだ。
だが、全てアウルに当たる前に、オレンジ色の結晶となり、粉々になって散って行く。

「…無駄だ。どんな魔法とて、純粋魔力を使っている以上、私には効かない」

残酷に言い放つアウルに、更に冷静さを失い激昂するティアナ。

「まだ!まだ負けてない!」

「なら、気の済むまでかかって来い、ティアナ。私は答えるまでの事」

[正直時間の無駄ですが]

そう言い残し、ビルから飛び降りるアウル。
降り立った場所は、開けた交差点だった。

「………ふぅ」

[何とも損な約回りですね、主]

「いいさ。それで強くなろうと思うなら」

私もあの位の時は、あんな風に真っ直ぐだったのかな、と。
彼はボソリと呟く。
その言葉に、タスラムは答えることは無かった。


と、デバイスを構えたティアナが背後から走って来た。
反応し、発砲するアウル。
だが、魔力弾がティアナに当たるとその姿が掻き消えてしまった。

[幻術魔法の様です]

「…らしいな」

気が付くと、四方をティアナ達に囲まれていた。
数にして、6人。
だが、アウルは全く動じず、カートリッジをロードした。
そして、デバイスを構え、

「『ファイア・ワークス』」

発砲した。

前に。背後に。右に左に。
ヌンチャクと呼ばれる特殊な武器を取り回すが如く、銃口を四方八方に向けてトリガーを引き続ける。

弾丸は次々と幻術のティアナを消して行く。
6つの幻は、1度の攻撃で無効化されてしまったのである。

そして、

「これで分かったはずだ、ティアナ」

カートリッジの交換を一瞬で終えたアウルは、

「私と君の――」

2つの月を仰ぎ見て、

「―――実力の差をッ!」

背後に発砲した。

何もない空間。
そこが歪み、ゆっくりと現れる姿。

「……勝つ、ん…だ…」

意識を失う最後の瞬間まで、クロスミラージュを構えたティアナだった。

しかし、その身体は地に倒れる事はなく、青年の腕に包まれる。

「アイツそっくりだ、本当に……」

[故に心配なのですね、主]

「ああ。そうだな…」

静かに寝息を立てるティアナを見、その視線を天に浮かぶ双月に向けた。

輝きは柔らかく、全ての生命に祝福を与えるが如く光を振り撒く。

たが、裏腹に青年の心はくすんで行く。

「……ティーダ」

今は亡き、親友を思うのであった。





亡霊に、祝福は訪れない

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あきゅろす。
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