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豊川の屋敷@





「では、こちらでお待ち下さい」


 仏に仕える一族だけに、寺のような造りの豊川の屋敷。

 三人が卍を訪ねると、彼は不在だった。

 部屋で待つ間、線香の匂いに気持ちが安らいでいく……

 伏見の屋敷のようなのもいいが、ここはここで卍の着こなしていた藍色が良く映える、落ち着いた空間だった。


「小春、こっち来てみ?」


 銀に言われて、壁の方へ寄ってみる。

 すると何やら、握り拳程度の大きさの奇妙な損傷が残っていた。

 その損傷は、木の壁に何かが思いっきりめり込んだ跡の様に見えるが……鉛の玉か何かがめり込んだにしては、形が歪のような気がする。


「これ、何?」


 考えてみても見当がつかず小春が質問してみると、銀は懐かしそうにその跡をなぞり、言った。


「この傷はな、僕と卍が子供ん時にした喧嘩で出来たもんなんや」

「こっ子供の喧嘩で!?」

「まぁ僕らは人間とは違って神力が使えるし……

 子供とはいえ一族の跡取り二人やからなぁ」


 銀はケラケラと笑っている。

 しかしあの真面目そうな卍が、子供の頃とはいえこんな痕跡を残すほど派手な喧嘩をしたとは驚きだ。


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