【視点・銀】
◇
銀の部屋よりいくらか荘厳な造りの蛍泉水の執務室。
そこへ銀が立ち入ると、それに気づいた蛍泉水がスッと顔を上げた。
「珍しいな、お前が執務中に訪ねてくるなんて」
蛍泉水は優しく微笑むが、銀は深刻な表情を崩さない。
そして、そのまま父に問いかけた。
「親父、小春はどうしたらあの頃のこと思い出すんや……?」
その質問に、蛍泉水の表情も難しいものへと変わる。
彼は"う〜ん"と唸ると、一つ仮説を立てた。
「彼女が記憶を取り戻しつつあるのは、彼女の存在が稲荷神様に認められつつある証なんだそうだ……
だから、彼女が更に稲荷神様に認められる行動をとれば……」
「小春の記憶は戻ると……!?」
それを聞いて銀はパァッと顔を綻ばせる。
「あくまでも仮説だがな」
蛍泉水の念押しを聞くか聞かないかで、銀はサッと踵を返した。
「どこへ行く?」
蛍泉水の質問に銀は振り返り、告げる。
「小春んとこやっ
何をしたらええか何て分からんけど、とりあえず傍におればしてやれることがあるかもしれんし……」
「銀」
息子の言葉を遮った父の、少々重い声音。
「忘れるな。
彼女の記憶の封印は、お前に与えられた"罰"であることを……」
その言葉で、銀は表情を悲しそうに歪める。
そして……
「……分かっとるよ」
彼はため息を一つつくと、その部屋を後にした。
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