銀の決意@
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二人が会場に入ると程なくして、祝典が始まる。
広い庭を目一杯使って設けた会場にはたくさんの狐達……
その中で、双子の父・秋流星が親バカ全開の挨拶をするのを、小春は雪月花の傍らで眺めていた。
「それにしても、時の流れとは早いものです。
ついこの間、竹駒の灯陽炎の兄役を終えたと思ったら、今度は自分に子供が出来たのですから。
しかし、更に時の流れを感じられる出来事が、まさに今日ありました。
私の弟役とほぼ同年代である伏見の銀時雨君が、素敵な女性を伴って今日の祝いの席に来てくれたのです」
その瞬間、会場中の視線が小春の方へ集中する。
小春はどうして良いやら分からず、とりあえず作った笑顔を維持することしかできなかった。
「大丈夫、怖がること無いで」
銀の掌が、優しく頭を撫でる……
その優しさに少しだけ安心すると、小春の笑顔はそれまでのぎこちないものから自然なものへと変わっていた……
「それでは今度はその彼、次期総本山の長となる伏見の銀時雨君の方から祝辞を頂きます。
……では銀君、どうぞ」
秋流星にその場を託され、前へ出る銀。
彼は大勢の狐の前でも、一切動じることのない強い眼差しをしていた。
小春も……そして、その場にいる狐々〔ヒトビト〕も、その神々しい姿に思わず息を飲む。
これが、特別な力を持った存在特有の気なのだろうか……?
彼は、沈黙の中でそっと口を開いた。
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