中庭C
「やっぱり銀も、"曰く付き"の銀狐だけのことはあるわね」
「え……それ、どういう……?」
「許嫁の癖に知らないの?
アイツには双子のお兄さんがいるのよ、それも――」
「夏芽、やめなさい」
背後から彼女の肩を掴んで発言を止めたのは……スイ。
彼は口調こそ乱していないが、怒りを空気に孕ませていた。
「なっスイ様……」
気まずそうに視線を斜め下に泳がす夏芽に、スイは一言、「下がりなさい」と命じる。
彼女は一度悔しそうに顔を歪めたが、動じることのないスイの視線に負けて渋々と去っていった。
「……申し訳ありませんでした」
夏芽の姿が見えなくなると、突然スイが詫びる。
「え……何でスイさんが謝るんですか?」
小春が戸惑って訊ねると、スイは事情を説明してくれた。
「実は彼女、最上の狐なんですよ。
夏芽石〔ナツメイシ〕といいまして……
家柄も実力も決して悪くはないのですが、今は少し荒れているもので……」
「そうだったんですか……」
彼女のギスギスした態度を思い出し、胸が痛む……
他でもない自分のせいで、彼女があんな状態になってしまったというのは辛かった……
「すみません、私の注意不足でした。
彼女は本来、銀の許嫁であった存在……
貴女のことをどう思っているかなんて、容易く想像できたはずです。
それが、自分の社の狐を過信する余り……」
いつもは感情を打ち出すことのないスイが、表情を歪める。
その姿は何とも痛々しくて、小春の胸を更に締め付けた。
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