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公休日の幸福論
「ん…」


絳攸が目を覚ませば、視界いっぱいに端正な顔が映った。
途端、曖昧な意識は一瞬で覚醒する。


感じるのは、心地よいぬくもり。


「…おい、楸瑛?」


呼び掛けても、返事はない。
寝台から身を起こそうにも、彼の腕が絳攸を抱いたまま離さない。
流石は武官というべきか、それともこの状況を嘆くべきか、どんなに頑張っても、絳攸がその腕から逃れることは不可能だった。


「よくこんな状態で眠っていられたな、俺も」


呆れまじりの溜め息とともに無駄な抵抗を諦めて、改めて楸瑛の顔を覗き込む。
知性や本音が隠れているその瞳も、今はしっかりと閉じられている。
規則的な彼の寝息だけが、静かな部屋に響いていた。


それにしても、彼の寝顔を拝むのは珍しい、と絳攸は思った。
これまで共に夜明けを迎えたことなど何度もあるが、いつだって楸瑛は自分よりも早く起きているのに。
それが少しだけ嬉しくて、絳攸は小さく笑みを零す。


「全く、武官のくせに無防備だぞ。俺が敵だったらどうするんだ」
「大丈夫だよ。そんなことはないからね」
「……起きてたのか?」


見つめていた顔から急に言葉が発せられ、絳攸は驚いた。


「ん、今起きたところ。…って絳攸、何するんだい」


その少しくぐもった、寝起き特有のかすれた声音に、何だか急に恥ずかしくなって、絳攸は再び楸瑛の腕から逃れようともがいた。
しかし、やっぱり彼の腕は固く、自分を抱いたまま。


「狭い。起きてるなら離せ」
「いいじゃないか、もう少しこのままで。今日は公休日だし」


楸瑛は小さく欠伸をして、それにね、と続ける。


「私は正直もう少しだけ眠りたいのだけれど、駄目かい?」
「このままでか?―――…まぁ、俺も少し寝足りないと思っていたのは確かだが」
「この方が暖かいだろう?」
「……」


至近距離で微笑まれ、絳攸は照れたように目を伏せる。
か細い声が伝えたのは、是。


「じゃあ、決まり。―――――…おやすみ、絳攸」


かすめるような口づけを一つ残して、楸瑛は目を閉じた。
絳攸も、睡魔に誘われるかのように目を閉じる。


七日に一度の公休日。
二人の朝は、まだ少し遠い。







◇後書き。◇
でれ成分がつん成分より多めな絳攸さん。甘めです。
これは結構気に入ってます。
休日に穏やかな時間を過ごす二人。
なんか書いてるものが近いかな、とここから今の拍手御礼タイトル「日曜日の幸福論」を取りました。
合わせてお楽しみ頂ければと。(笑)


著:2008・10・2
UP:2009・6・7


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あきゅろす。
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