*ss* 二度と還らぬ日々へ。(楸瑛+迅) !暗め注意! 自分が手にしているものを、何かひとつでも手放せたら、もう少し幸せになれただろう。 名門の直系という血統。 人より回転の良い頭脳。 最高の環境で鍛え抜かれた武術。 「あとは人並み外れた美貌ってか?ふざけんな貴様。この自意識過剰めが」 「本当なんだから仕方ないだろう」 「…お前の面の皮の厚さ、なんなら測ってやるよ」 片方の瞳を眼帯で覆うその男と、涼しげな初秋の風が吹き抜ける丘で。 ぼんやりとただ広く青い空を眺めていたのは、下の弟に物心がつくかという頃だった。 幼子の常人とは違うその眼に、一族が彼にその名を襲名させたのは、幾年か前のこと。 そして今度は。 「――――…決まったらしいな。兄上殿の、当主就任」 迅のその声に、楸瑛は応えるでもなく、ただ丘から見える街並を眺め、誰にともなく呟いた。 「あそこにいる人たちは、きっと幸せなんだろうな」 視線の先。広がる街は、豊かな水に恵まれた。 藍都、玉龍。 王都よりも幸せな場所。 「なんだお前、あそこで働いてるような一般市民に憧れてんのか」 そうかもしれない、と力無く笑った楸瑛を、迅はからかったりはしなかった。 秀麗な眉目、明晰な頭脳。 彩七家筆頭名門、藍家の直系。 けれどいつだって彼は兄を、天つ才の弟を、超えることはできなくて。 やっと見つけた恋だって、きっと永遠に叶わないだろう。(至極残念な話だ、と迅は結構本気で思っている) 溢れんばかりの野心という名の激情を、綺麗に内に秘めてしまえるこの男には、この世界は些か窮屈なのだ、きっと。 「そーだな」 珍しく弱気になっているらしい親友の顔を覗き込んで、迅は笑った。 「お前がもしも、もう少し不器用な奴だったら」 まぁ、今のままだってこれ以上ないくらい不器用だけどな。 「きっともっと気楽に生きただろうよ、お前は」 ただ幸せに生きるためには、彼には荷物が多すぎた。 名門の名も、美貌も、頭脳も何もかも。 「――――――……才なんて要らないんだ」 ともすれば酷く傲慢に響くその本音を、理解してくれるのは彼だけだ。 大切なものをたくさん、彼だって失ったはずなのに、いつだってその笑顔は揺るがない。 「悩みたいだけ悩めば良いさ。そんな事普通の奴に言ってみろ、刺し殺されるぞ。お前の馬鹿な悩みを黙って聞いてやれる寛大な人物は、俺様くらいだからな」 「――――…お前こそ、謙虚さを少しは学べ」 唯一ともいえた、楸瑛の親友。 たとえいくら時が過ぎようと、愛しい人が、大切な人がどれだけ増えようと。 彼に代わる存在は、―――――…もう一生見つからない。 さよなら、迅。 いつかもう一度見え、お前を殺さねばならぬ日が来るのが、少しだけ遠いことを願うよ。 けれどきっと、否、必ず。お前を殺すのは私だ。 ○●後書き的な。●○ 終盤若干捏造あり。 時間軸もかなり曖昧ですすいません。 そして司馬迅初書き。 話の流れが暗い分彼には割とフリーダムに活躍してもらいました―^^ 楸瑛さんの幼馴染みってのがポイント高いよね。← 未だ謎ばっかな彼ですが、今後に期待! *おまけ* 「じん、にいさまー!何してるの?」 「おう、螢。こいつな、馬鹿になりたいんだと」 「おい迅、誰もそんなこと…」 「え?だってにいさまは、もとからばかでしょ?」 「うわぁお前、妹にまで馬鹿にされてやがる」 「十三姫………」 この3人大好きだー! 著:2008・5・31 UP:2008・8・29 [戻る] |