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燻る想いは愛しさからか?(双花劉秀)
!暗いです。








遥か彼方、茶州からもたらされた文を握り締め、劉輝は声をしぼりだす。


「―――…秀麗」


たったひとつの名前に、心が狂う。
けして収まりはしない激情。
溢れんばかりの、―――…憎悪。


「茶朔洵、ですか」
「…っ、楸瑛…」


室に入ってきた側近の手で執務室に灯がともされる。
日がすっかり暮れてしまっていたことに、そうされるまで劉輝は気づかなかった。


「こんな暗いところで、独りで抱え込まないで下さい。今回の件は、確かに酷い」
「そなた、何で知って…」
「私は藍楸瑛ですからね」
「…そうか」



わずかな沈黙が部屋に流れて。

感情を整理できないままでいる年下の主君に、楸瑛は訊いた。


「憎いですか」

「楸瑛……?」


「あの男が憎いなら、憎いと言えばいい。
――…秀麗殿が欲しいなら、欲しいと叫べばいいんです。
権力にものを言わせるのは駄目でも、欲することなら許されます。
お一人で、心のうちに全てを隠さないで下さい。
負の感情を、内に秘めたままでは貴方が――――…、壊れてしまう」




戸惑う劉輝に、楸瑛は心の底から優しそうに笑いかける。
満面の笑顔―――…なのにどこか翳りがあるのは何故なのだろう。
劉輝は思った。
きっとこんな表情、…彼の愛する絳攸(ひと)は知らない。



「…楸瑛、そなたも何かあったのか?」


仮定でしかなかったその問いに、彼の翳りが少し強くなった、――…気がした。


「――…彼がね。倒れたんですよ…また、無理をするから」
「…確か今は、吏部に」
「そうです。絳攸はいつだって無理をする――…あの人の、為に」


彼の人の、絶対の存在。
その行動が彼の全てを左右する。


楸瑛の表情に、彼の養い親に抗えぬが故の苦悶が浮かぶ。


「どうして―――…あの人だけがいつも絳攸の心を占めるんだ、あの人が」
養い親じゃなかったら良かったのに。


頭の片隅では、それが違うと分かっている。
けれど言わずにはいられない。
不謹慎な願い―――…どうか今だけは。


「余…は、」


抑えきれぬ感情に、突き動かされる。
本能のおもむくまま、劉輝は口を開く。



茶朔洵が、憎いと。



「憎い……余、いや私はあの男を絶対に許さない。
…っ何故、あの男を秀麗に近づかせた!何故誰も気づかなかったのだ!!
何故誰も止められなかった――――……出来ることなら、私が」

あの男を殺したかった。



無意識に涙が溢れる。
恐ろしいほどの憎悪、悪意と。――――…自責。


王として、紫劉輝として、相反する二つの感情。


「あんなところへなど行かせなければ良かった。ただずっと…貴陽に、―――…余の隣、に、留まらせていれば」


願ってはいけないこと。求めてはいけないもの。
――――…けれど、欲しいもの。


「そうですね」


至高の権力。その一存で、全てを動かす。


「もしも貴方がそうしていれば、今回のことは起きなかったでしょうね」

「あ…あ、けれど」

「貴方は欲しいものを全て失ったでしょうね」

「………あぁ」




「私もいつだって思います。あの人が消えたら、絳攸はこちらを向いてくれるだろうか――――…とね」

「あぁ、でもきっと」

「その答えは、否、でしょうね」



二人だけの室に、再び沈黙が訪れる。
窓の外、夜空に浮かんでいるはずの月は、今日は暗雲に隠されてよく見えない。



負の感情、心の内に秘める闇に身を置く自分達に、ぴったりな夜だと思った。






○●後書き的な。●○
実に久々の更新です。すいません;
しかし暗いなー…!
といいつつこんな余裕のありそうで全然無い楸瑛さんは結構好きです。
たまには思っちゃいけないことだって、ね。
双花劉秀。劉輝20歳・冬。(笑)

著:2008・5・11
UP:2008・8・11


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あきゅろす。
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