*ss*
春に唄う、君に贈る。(現パロ)
「あーあ、終わっちゃったねぇ。花の高校生活も」
隣で楸瑛がどこか気楽そうに伸びをした。
「何だかんだ言って早かったな、三年間」
「思えばいと疾し、って?まぁ、確かに。色々あったね」
彼が口ずさんだのはあまりにも有名な旋律。
飽きる程聴き、また歌ったそれも、今ばかりは切なく響く。
この曲を歌うのも、この教室も、見慣れた景色も。
明日で全部、それは“過去”になる。
「明日は―――…卒業式、か」
「君とこうして同じ学校に通う日々は、もうお終いだ。寂しいね」
もう迷ったって探しに行けないよ、って。
彼の軽口だけはきっと永遠に変わらないのだろうけれど、こんなたわいない話すら今までどおりにはできなくなるのなら、せめて今だけは、と絳攸も何も言わず素直にうなずいた。
夕暮れの儚い光が照らす教室の中、秒針の音だけが無情にも時を刻む。
けれど何故だろう?
環境は変わっても、何だか自分たちの関係はさほど変わらないように思える。
これがいわゆる“希望”というものなのだとしたら、自分の過ごした三年間はきっと良かったんだと、絳攸は自惚れる。
「ねぇ、絳攸?」
ふいに楸瑛が言った。
「明日だけど―――…第二ボタンは私に呉れるよね?」
「…何を言い出すのかと思えば」
「あ、勿論私のは君にあげるから」
「お前のを欲しがってる奴は山程居るんじゃないのか」
絳攸はため息をつく。どうしてこの男の思考回路はこうも短絡的なのか―――…。
「うーん。まぁ欲しいって言われたら第二以外はどうでもいいと思ってるのだけど。君は特別。第二ボタンをあげる相手は、君しかいないよ」
「常春頭め」
「――…だから君も、絶対女の子にあげちゃ駄目だからね?」
約束、と楸瑛の一方的な指切りに、下校時刻を告げるチャイムが重なった。
○●後書き的な。●○
この後二人の進学する大学は別。
そしてまた就職先で再会、が理想。
私生活でも卒業式2日前だったので書きました。
これは思い入れが半端なく多いです。
おそらく今まで書いた文章の中で一番好きです。現在進行形で。
仰げば尊し、馬鹿にしないほうがいいですよー。定番なだけに案外切なくなるものです^^;
著:2008・3・4
UP:2008・7・16
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