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片恋連鎖
初めて出逢ったときから、彼はいつも何かを、それは強いまなざしで見据えていて。
思えば自分は、きっとその強い瞳に惚れたのだと思う。
永遠だと信じて疑わなかったあの苦い初恋は、気づけば霧消していた。
太陽のようにまぶしく笑う人の次に愛したのは、少し鋭利な印象を受ける―――――・・・常に光を求める月のようなひと。







会試の途中、厠帰りに迷っていた絳攸を楸瑛が見つけてから、もう幾日も過ぎた。
やっと気を許し始めていた(と、楸瑛は勝手に思っている)絳攸を知れば知るほど、楸瑛は彼に惹かれてゆくのだ。


「ねぇ、君はどうして国試を受けようと思ったの?・・・あ、紅家当主殿のお役に立ちたいとか?」
「分かっているなら訊くな」
「へぇ、そうなんだ。―――・・・ねぇ、紅黎深殿ってどんな方なんだい?」



気づいたのはいつの頃だっただろうか―――・・・彼は、敬愛する養い親の話となると、その澄んだ瞳に強い光を宿す。
だから楸瑛は嫌というほど、彼の心を占める存在の大きさを思い知るのだ。


「素晴らしい方だ。俺なんて一生及ばないくらい」



吐き出された言葉には溢れんばかりの尊敬の念と、手の届かないもどかしさ。
そして何よりも強い思い。
あの人の役に立ちたいのだと―――・・・彼の全てがそれを物語っていた。


(ああ、兄上達との約束は、守れそうにもない)


“紅黎深の養い子に勝て”と、そう言われて来たのだが―――――・・・・・・。
そんなものは到底出来そうにない。



だってきっと―――・・・彼が状元及第してしまうから。







二番目に恋した人も、やっぱり別の誰かを心に秘め。
けれど今回は、自分に挽回の可能性はきっとあると楸瑛は確信している。
一途に誰かを見つめるその強い瞳に惚れたのは事実だけれど、どうかその強い瞳で自分のことも見て欲しい。


すでに能吏としての道を歩んでいる養い親にばかり目を奪われたりしないで。
たまには振り返って、後ろの傍眼及第者も愛してはくれないだろうか。





ほら、一方しか見えていないと、また迷ってしまうよ?







○●後書き的な。●○
双花国試〜進士の頃(若)。
相変わらず藍家云々とか細かく捏造入ってるんで気をつけてくださいね^^;

楸瑛の回想のような雰囲気で。


著:2008・2・26
UP:2008・7・5

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