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残酷な現実を見据えて生きるための残酷な方法
通り抜ける風が、春の訪れを予感させる、それは平和で穏やかな午後。
今上帝の側近二人は、府庫で資料探しにいそしんでいた。
珍しくそれほど急ぎの仕事もなく、そこにはゆっくりとした時間が流れて。



「秀麗殿、あと数日ほどで帰ってくるって」
「そうか。あの昏君が余計な行動を―――…取らない、よな」
「だろうね、主上も成長なされた」
「どうだか」



臣下として、主君が真面目に仕事に取り組むのは嬉しい限りなのだが、またあの王は、朝賀のときのような態度を取るのだろうかと考えると、少し寂しさがよぎる。
それほどまでに、月日とは人の想いを変えてしまうのだろうか。
それとも、そんな王として当たり前の言動に寂しさを覚える自分がいけないのだろうか?



「絳攸、どうしたの?」
「――…いや、別に。あいつは…秀麗は、これからどうするのだろうな」
「まぁ、確かに。秀麗殿は、これからは独りで闘わなければならないしね」


鄭悠舜は中央に呼び戻され、宰相位を拝命するとの話だ。
浪燕青も、杜影月も、彼女の傍にはもう居ない。


守ってくれるもののない中で、これから彼女は何ができるだろう?
楸瑛も絳攸も、八年前に身をもって知ったこと。
朝廷は甘くない。
切り捨てなければならなかったもの。
のし上がらなければ手に入れられなかったものが、状元と傍眼で及第し、紅藍両家の後ろ盾さえある二人にだってあった。

そんな中で生きるには、彼女は少しばかり幼いかもしれない。



「秀麗は、新しい世界で一体何を知るのだろう」
「この世界が、そんなに素晴らしい訳じゃないってことに気づく日が来るのかな」


それは少し悲しいことだね、と楸瑛は言った。


変わらない彼女が欲しいのだと言っていた、年若き王の横顔が浮かぶ。



「この国を変える力が欲しいなら、まずは自分が変わらねばならないだろう。綺麗事がまかり通るほと、朝廷は柔な所じゃない」
「ああ、そうだね」


残念ながら。そんな響きが聞こえるようだと、絳攸は思った。




自分の信念なんてそう簡単に追い求められない。

そう気づいたのは、いったいどれだけ昔だったろう?

二人は思い出せない。









○●後書き的な。●○
双花talk in 府庫。
設定→紅梅前

秀麗ちゃんが帰ってきて話の舞台が貴陽に戻るにつれ朝廷官吏から低評価をくらいまくる双花菖蒲ですが、実はちゃんと秀麗姫の甘さ が指摘されるだろうということを知っていて欲しいなー。

そんなお話。


著:2008・2・11
UP:2008・7・2


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あきゅろす。
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