*ss*
without him
「刺されて死ね!この常春頭がッ!」
「妬かないでくれ絳攸。後宮って結構情報が集まるんだよ」
「誰が妬くかーーーーー!!!」
自分が叶わぬ恋に悩んでいる時に、目の前で痴話喧嘩をされるのは本当に辛い。
「絳攸、顔が真っ赤だよ。――――…って、おや主上、どうかされましたか?」
「ぼさっとしとらんと仕事をせんかーーー!!この昏君!!」
挙句の果てにとばっちりとは、本当に劉輝は泣きたくなる。
(楸瑛…覚えてろよ)
後で紅尚書に絳攸とのあれやこれやを暴露してやる。
…なんて度胸が劉輝にある訳はなかったし、きっとあの極悪非道な鬼畜尚書なら劉輝が暴露するまでもなく色々知っているだろう。
溜息をひとつこぼし、彼は諦めて真面目に書類に向かった。
「ねぇ絳攸、これは一体どうするんだい?」
「あぁ、これか?ここは―――…」
さっきまでものすごい勢いで喧嘩していたかと思えば、彼の側近は今度仲睦まじそうである。
まぁ何だかんだ言って(そんなことを言うとうち一人は猛反発するだろうが)二人は恋仲なので、きっとこれが本来の姿(であるべき)なのだろうが。
(う、移ろいやすい……)
女心と秋の空と余の双花菖蒲。
かつて邵可から習った移ろいやすいものの例えに、劉輝は心の中で付け足した。
「あ、そういえば主上、明日は私は出仕しませんので、宜しくお願いします」
不意に響いた楸瑛の声に、劉輝は書類から顔を上げた。
知らぬうちに相当集中していたらしい。
話が自分にふられたことを理解するまでに時間がかかってしまった。
「え?―――…あぁ。そういえばそうだったな。うむ、分かったのだ」
「それでは、私はこれで。御前失礼致します、主上」
「帰るのか、楸瑛?」
「弟を迎えに行くんだと」
「貴陽に来てるのか?」
「ええ――…。会試の準備などもありますし。明日来られないのも兄上達から世話を仰せつかったからでして…」
なぜだか楸瑛は疲れ顔である。一体どうしたのだろうか。
「絳攸は?」
「は?俺に関係ある訳ないでしょう。ちゃんと来ますよ」
「そうか。…そうだな」
「何をとぼけたこと言ってるんだ。頭おかしくなったんじゃないか?」
「絳攸、ほどほどに」
「貴様は早く帰れ」
どうやら一日の終わりの二人の仲はあまりよろしくないらしい。
(―――…それにしても、)
明日は楸瑛が居ない。案内の居ない絳攸は、明日一日をどう過ごすのだろう。
いや、きっと何事もなく過ぎるのだ。
居ても居なくても何も変わらない。
それが、あの二人の見えない距離。
そして、おそらくずっとその距離は縮まらないだろう。
彼らがそれを望まないのだから。
そんな関係を、寂しいと思うのは劉輝だけだろうか?
「主上、お茶でも淹れますか?」
「あぁ、頼む」
劉輝が少しは真面目に仕事をしたからなのか(そうだと嬉しい)、絳攸はやけに上機嫌で茶葉に手を伸ばしていた。
「―――…絳攸」
「何です?」
「明日は――…楸瑛が居ないな」
「……だから何です」
本音を話してくれるとは到底思えないけれど。
「寂しいか?」
「阿呆か。居ない方が仕事が捗る」
「………そうか」
(素直に寂しいと言えば良いのに)
ここからじゃ後ろ姿しか見えないけれど、彼の耳が赤くなっていることに気づいて、劉輝は肩をすくめた。
○●後書き的な。●○
設定→「王都上陸!龍蓮台風」(藍青)直前?
うーん…書いた当時は結構気に入ってたんだけどなぁ。やっぱ後から読み直すと穴が目立つ…orz
ていうかこれ書いた日付、思い切り私は私立高校受験(いわゆる滑り止め)最中のはず…
何やってたんだ自分…;;
※あ、無事合格しましたから(・ω・)ノ←
著:2008・2・5
UP:2008・6・28
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