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褪ロラ
6

 こくりと喉を鳴らして飲み下す。紅茶の味など正直なところよくわからないのだけど、これは美味しいと思った。眠そうにしながらも大人しく僕たちの話を聞いているアキくんに、尊敬の意を込めた眼差しを送る。僕と背丈は似たり寄ったりだけど、おそらく彼の方が年下だ。なのに、随分しっかりしている。僕にはこんなに上手に紅茶を淹れることなんて絶対にできない。
 しかし、僕の視線に気付かなかったのか、アキくんの金の瞳が僕を映すことはなかった。残念。

 「ねえロヴィ、さっきの約束。説明してほしい」

 気を取り直して、僕はまだ紅茶と格闘しているロヴィに声をかけた。
 長い話になると言っていたが、彼は後で必ず説明すると約束してくれた。この場ではきっと、僕だけが知らない常識がたくさんあって、僕は僕の置かれている状況が一体どんなものなのか、全く理解できていない。
 ソーサーに置き直されたカップが、かちゃりと高い音を立てた。

 「……あー。シャロン?」
 「俺に投げるな」
 「アキぃ……」
 「俺、当事者じゃないじゃん」
 「だよなー……」

 俺、説明すんの下手だから、わかりにくかったらごめんな。そう前置きをして、銀の瞳を伏せたままロヴィは話し始めた。

 「んー……、そうだな、まずはさっきの”影”と黒い靄についてか? ざっくり言えば、あの靄が黒死病の原因。見るからに体に悪そうだろ、あんまり吸い込みすぎると具合が悪くなって、最悪死に至る。……っつうか、今のところ治療薬は開発されてねえから、かかったら基本的に死ぬまで治らない」
 「病気の原因って、特定されてたんだね」
 「まあな」

 僕の知っている限りでは、この病は原因すら解明されていなかったはずだ。世間に公表されていないからといって、本当に全く何もわかってないわけではなかったらしい。

 「それなら、もうすぐ治療薬だって開発されるんじゃ……」

 僕が言い終わるのを待たずに、ロヴィは小さく首を振った。

 「困ったことにな、普通の人間にはあれが見えない」
 「……見えない? なんで?」
 「さあな。世界がそういう仕組みになってるから、としか。……いくら原因が特定できてても、肝心のそれを知覚できる人間がほとんどいねえんだ。研究なんて進みっこねえだろ?」
 「…………」
 「”影”ってのは、靄が集まってはっきりした形を持つようになったもんだ。……あの時俺は、結構でかいのを一匹相手にしてたんだけど、お前が近くにいるなんて全然気付かなくてさ」
 「……よく覚えてないんだけど、それで僕は死にかけたってこと?」
 「うん。完全に急性中毒。あの”影”の撒き散らした靄、真正面からモロに浴びてひっくり返った」
 「それを、ロヴィが助けてくれた」
 「……うん。……そう、だな」



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