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褪ロラ
6


 「シャロン、だめ!」
 「……っ」

 それは、流れるような美しい動きだった。脚、腰、肩、そして肘から手首へ。手本のような見事なフォームで、ロヴィは自身の武器であるナイフを投擲した。切っ先が真正面を向き、新手の”影”に向かって一直線に空気を切り裂いていく。
 でも、ロヴィと”影”の間にはシャロンさんがいて、銃の照準を合わせているのに。味方同士なら、武器によって傷つくことはないのだろうか? たとえばアキくんに、僕たちの武器が見えず、銃声も聞こえないように。けれど、シャロンさんは間違いなく一度黒死病で死にかけているし、ロヴィに救われてあの黒い銃を手にしたはずで――。
 黒い刃の切っ先が、真っ直ぐな軌道を描く。まるでスローモーションのようだった。僕の隣にいたはずのアキくんがいつの間にかシャロンさんの懐に駆け込んでいて、その勢いのまま上体を押し倒した。間一髪、紙一重でナイフはシャロンさんの左肩を掠め、”影”の頭に突き刺さった。”影”はすぐに動きを止め、ナイフの刺さった箇所から早くも結晶化が始まろうとしていた。
 アキくんには”影”もロヴィの放ったナイフも見えなかったはずだが、投擲する体の動きだけで方向と速度を咄嗟に判断したのだろう。

 「っ、ロヴィ……! 今の、」

 すぐに立ち上がって食ってかかろうとするアキくんを左手で制して、シャロンさんはロヴィの前に一歩進み出る。

 「……今、何をした?」
 「何、って、……あいつが見えたから、ついぶん投げちまった」

 僕にだって、その言い訳が酷く苦しいものであることは分かる。

 「……その、……悪かった」

 ********


 倒した”影”の浄化を済ませて、ぎこちない空気のまま僕たちは帰路につこうとしていた。

 「……うそ、だろ……」

 銀の瞳を大きく見開いて、ロヴィは絶句した。その後ろには、今夜三体目の”影”の姿があった。ロヴィが振り返る間もなく、その肩越しにシャロンさんが銃を構えて、危なげなく”影”を撃ち抜いた。
 突然のことに緊張が走ったが、この”影”もまた小動物のような形をした小物で脅威はなさそうだった。余裕たっぷりに銃口を持ち上げて、シャロンさんは一つ息を吐いた。そしてそのままいつも通りに、颯爽と歩き始めるものだと僕は確信していた。

 けれどなぜかその体は、ぷつりと糸の切れた人形のように、ゆっくりと、傾いだ。
 その手から黒い銃身が離れて、落下する。地面に衝突した瞬間、無数のヒビがその表面を覆い尽くし、粉々に砕け散った。それと同時に勢いよく噴き出した黒い靄は瞬く間に辺りに広がり、しかしすぐにまた集まり始める。そして、次第に一つの形をとっていく。

 ――新たな”影”が、そこに顕現していた。

 「……シャロン?」





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あきゅろす。
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