褪ロラ
5
「……ねえ、何か変じゃない?」
「え?」
「なんていうか……、すごく戦いづらそうにしてる」
僕の隣で同じように二人の戦いを見守っていたアキくんが、怪訝そうに眉を顰めた。“影”の形が見えなくとも、ロヴィの動きだけで大体わかると言う。
そう言われてみれば、確かに少しおかしいかもしれない。昨日はあんなに巨大で強そうな”影”を相手どっていてもどこか余裕そうにしていたロヴィが、今日はかなり息を乱している。見たところ優勢ではあるのだが、ひょっとして何かまずいことが起きているのだろうか。
「……っ」
その時、”影”の顔と思しき部位から黒い紐状のものが伸びた。
それは瞬く間にロヴィの左手首に絡み付き、軽々と体ごと持ち上げた。
「ちょっ……!? なんだこれ、聞いてねえぞこの野郎……!」
咄嗟にロヴィは握った左手を開いて、落ちたナイフを右手で受け取る。持ち替えた右腕を振り上げて絡み付く黒い糸を断ち切ろうとするロヴィを見て、呆れた表情のシャロンさんが銃を構える。ロヴィの左手ぎりぎりの位置で的確に糸を撃ち抜き、解放されたロヴィは何故か苦い顔で着地した。
「早くしろ、馬鹿!」
「っ、うるせえな、わかってる!」
糸を切られた“影”が怯んでいる隙に、ロヴィは着地から無駄のない動きで身を屈め、その体の下に潜り込む。左手に持ち直された黒いナイフが下から”影”の体に食い込み、ロヴィは力技でそのまま一直線に押し切った。
肩で息をしてそのまま座り込んだロヴィを避けるように、両断された”影”の体は黒ずんだ床に崩れ落ちた。
「……終わった?」
「……うん。多分」
深いため息を吐いて、ロヴィがのろのろと立ち上がる。本当に、なんだか様子が変だ。見るからに疲弊したその背中に声を掛けようとした瞬間、柱の陰から出たシャロンさんが舌打ちするのが聞こえた。
「ちっ、まだいたのか……」
先程の”影”ほどの大きさはないが、似たような形の”影”がもう一体、いつの間にかそこに佇んでいた。
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