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褪ロラ
2


 ああ、やっぱりどれだけ大人びているように見えたって、アキくんはまだ十三の子供なのだ。僕だってまだまだ子供だけど、彼は僕よりも更に幼い。それに複雑な家庭の事情だってあるのだ。たった一人の大切な家族が毎晩死と隣り合わせの戦いに出向いている状況で、平気でいられるはずがない。

 「わがままだなんて思わねえよ。むしろ今までよく我慢したなって、お前のことえらいと思うぜ、俺は」
 「! じゃあ……」
 「けどなあ……。お前を危ない目に遭わせるのは、俺だってやだよ」
 「心配されてるのも、大事にしてもらってるのも、ちゃんとわかってるよ。俺だっていろいろ考えたんだ」

 少しだけ緊張に顔を強張らせて、アキくんは真っ直ぐにロヴィを見る。金と銀。対照的な色の瞳が、互いを映す。

 「考えて、結論がそれか?」
 「うん。……だって、俺には”影”が見えないけど、”影”が俺を襲うこともない。でしょ?」

 それを聞いて僕はつい、「そうだっけ?」とロヴィに尋ねた。

 「まあな、……あれは武器を持ってる人間しか襲わない。普通の人間には見向きもしねえんだ。でなきゃ今頃、夜な夜な怪我人死人が大量に出てるはずだろ?」
 「……言われてみれば」

 感知しなければ、”影”の脅威は及ばない。代わりに、目に見えない靄に体を侵されて病に倒れる。知っているけれど、見えないこと。こちら側に半端に足を踏み入れた微妙な立場で、シャロンさんの戦いを誰より近くで見てきたアキくんが、これまでどんな思いで彼を支えてきたのか僕には想像もつかないけれど。

 「ロヴィからも言ってほしい。ロヴィの言うことなら、シャロンも聞いてくれるかもしれない」
 「……お前の言い分はよくわかるけどさ、それでも危険だってことに変わりはねえんだぞ」
 「……そんなことより俺は、俺の知らないうちにシャロンが死ぬことの方が、怖いよ」
 「…………」
 「ロヴィ。……お願い」

 真摯なアキくんの言葉にゆっくりと目を細めて、ロヴィはいつものように、にっこりと笑った。

 「わかったよ、約束する」





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