褪ロラ
4
「なんていうか、朝はのんびりしてるんだね」
「あー?」
朝食後のひとときを、居間でゆったりと過ごしている。シャロンさんは食べ終えるとすぐに寝室に下がってしまって(不機嫌そうだったのはどうやら寝不足が原因だったらしい)、アキくんは洗い物を片付けている。蛇口から流れる水の音と、陶器が擦れるような高い音がキッチンから聞こえてくる。一応、僕とてお世話になりっぱなしはどうかと思ったので手伝いを申し出たのだけれど、丁重に断られてしまった。確かに台所は主夫の聖地というし、知らない人間に侵されるのは不快かも知れない。こういうところ、僕は気が利かなくていけない。
ロヴィはというと、相変わらず幸せそうな顔でソファにもたれかかって眠そうにしている。レースのカーテン越しに朝日が差し込んで、ひなたぼっこには最適だ。こうしていると、この人はこうやって日向でのびのび過ごしている方が似合いなのではないかと思う。
「戦うって聞いたから。四六時中なのかと思ってた」
「まあ、日中はこんなもんだな。明るいうちは何かと人目についちまうし、何よりあいつらが活発になんのは夜だからな」
「活発になると、襲ってくる?」
「そーゆーこと」
「毎晩?」
「運が良ければ遭遇しない日もあるみたいだぞ。……年に、二回くらい?」
欠伸をかみ殺しながら何でもないことのように言ってのけるロヴィに、僕は何も言葉を返せなかった。
だって、どうしてそんな風に平然としていられるのかわからない。毎晩こうしてほとんど眠らずに、”影”だなんてわけのわからないものと戦って、怪我だって絶えないのだろう。大したことはないと言っていたけど、包帯を巻くほどの怪我が大したものじゃないとは僕には思えない。きっと僕は、そんな風に強くはいられない――。
「なんだよ、そんな不安そうにすんなって! 慣れるまでは俺とシャロンで片付けてやるから、お前は怪我しないように後ろで見てるだけでいいんだし」
「でも……」
「いーのいーの! もし、あいつらにイヤミ言われても気にすんなよ? せっかく助けてやった命なんだから、大事に生きろって」
そう言ってロヴィは、もう一度欠伸をかみ殺す。
「……眠い?」
「俺、完全に昼夜逆転して長いんだよな。もうすぐいつもの寝る時間」
「それは、”影”と戦うために?」
「そうそう」
「長いって、どれくらい?」
「んー……? 五年……、以上は経つんじゃねーかな」
五年というと、ちょうど僕とロヴィの年齢差と同じくらいだろうか。
「君は、その間ずっと、こんなことを続けてきたの?」
――なんて人生なんだろう。こんな日々を、これからも続けていくしかないの?
銀の瞳がじっと僕を見据えて、しかしロヴィは何も言わなかった。ほんの少し笑って、それがなんだかひどく悲しそうに見えた。
その無言の肯定に、僕もまた口を噤むしかなかった。
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