褪ロラ
3
「二回。来たぞ」
「えっ」
「でかいのと、そうでもないの」
そう言いながら、一本ずつ指を折り曲げていく。そこでようやく僕は、はたと気が付いた。彼の左手首には真新しい包帯が巻かれていた。昨日はなかったように思う。怪我、だろうか。
僕の視線に気付いたロヴィが左腕を持ち上げた。
「おー、これか。そのでかいのが、ちょっとめんどくせーやつでさあ」
「……ただの不注意だろう」
「うるせーな、そりゃそうだけど! ……軽く捻っただけで大したことねえもん」
ぼそりと一言だけ口にして、シャロンさんは仏頂面で黙々と食事の手を進めている。その動き一つ一つはどれを取っても本当に優雅で美しいのだけど、不機嫌さが前面に押し出されていて少し怖い。
「……やっぱり怪我、するんだね」
「まあ、戦闘スタイルにもよるけどな。どうしても俺は相手に近付かなきゃならないし、だからこうやって怪我もしやすいけど。逆に銃なんかは離れてこそだろ」
確かに、それはそうだ。
「特にシャロンは超超インドアだから、接近戦なんて絶対無理」
「……当てればいいんだろうが」
「ほら、こうやって威張ってんだぜ」
でも、間違ってはいないと思う。狙撃手は敵との距離が開いているため、それだけ自分の身の安全を確保できる。ただそれは、離れていてもある程度の射撃精度が約束されていてこそだ。シャロンさんにはきっとそれができる。
僕は、どうだろう。ロヴィは気にするなと、なんとかなると言ってくれたけど、あのぐにゃぐにゃした物体で僕に何ができるだろう。リスクの高い近接戦を生き延びる自信もなければ、遠距離から攻撃できるだけの技術もあるとは思えない。
考え始めると憂鬱な気分になって、せっかくの朝ごはんも美味しさが半減してしまったような気がした。
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