[携帯モード] [URL送信]

褪ロラ
2


 「遅い」

 いっそ凶悪なほどに顔を顰めたシャロンさんが、不機嫌極まりない声でそう言った。

 「ご、ごめんなさい」

 慌てて席に着こうとすると、カウンター越しにキッチンに立つアキくんが、マグカップを持って首を傾げていた。

 「ねえ、コーヒー飲める? 紅茶?」
 「えっと、じゃあ、紅茶で」

 食卓にはパンとスープにサラダ、それにハムとスクランブルエッグという、典型的とも言える朝食メニューが四人分並んでいる。僕の分の紅茶が揃えば完璧だ。
 そんな気はしていたけれど、この家の家事を担当しているのはなんとアキくんらしい。てきぱきと手際よく紅茶を淹れるさまは、完全に主夫のそれである。やっぱりアキくんはすごい。
 こうして全員で席に着いてみると、どういう集まりなのか不思議な顔合わせだ。特にシャロンさんみたいな人とは、今まで通り普通に暮らしていたらきっと、一生関わりを持てなかったと思う。そんなことを考えながら、僕は手を合わせた。

 「いただきます」

 見た目の見事さはもちろんのこと、味付けもさすがである。舌鼓を打っている僕の前で、向かいの席のロヴィはさらに幸せそうに料理を口に運んでいた。食べる前からずっとにこにこしていたけれど、食べ始めた途端もっと上機嫌になったように見える。確かにアキくんのご飯は美味しいけれど、それにしても随分幸せそうに食べる人だ。料理する側としても、こんな風に食べてもらえると、つくった甲斐があるというものだろう。現にアキくんもロヴィを見て、満更でもなさそうな顔をしている。僕は思ったことが顔に出づらいから、二人が少し羨ましい。

 「そういえば、昨日はあれから何かあったの」

 僕がそう問うと、食事の手を止めてパンを飲み込みながら、ロヴィは人差し指と中指を立てた。……ピースサイン?



[*前へ][次へ#]

2/12ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!