褪ロラ
9
「――もういいだろう。次は俺の質問に答えてもらおうか」
痺れを切らしたのか、不機嫌そうな顔のシャロンさんが不機嫌そうな声で言った。綺麗な顔の人はどんな表情をしていても美人だから、なかなか真正面から直視できないのだけど、眉間に皺を寄せたこの顔もなかなかに大迫力である。言いようのない凄味がある。
彼と元から知り合いらしいロヴィは慣れているのか、変わらない様子で目を合わせているけれど。
「……昨日から今日にかけて、片っ端から支部が”影”に襲われてる。この辺で無事なのはもうここだけだった。よそは人っ子一人いないもぬけの殻。みんな”影”にやられちまったのか……、上手く逃げられた連中も少しはいるだろうが、散り散りの状態で誰がどこにいるか全くわかんねえ」
「連絡は?」
「ふっふっふ……。俺のけーたい、見る?」
そういって何故か楽しそうにいそいそと懐から取り出したのは、見るも無残に破壊されたスマートフォンだった。
「…………。なんだこのゴミは」
「落としたらぶっ壊れた」
「どうやったらこんなに大破させられるんだ……?」
テーブルの上にがしゃりと無造作に置かれたガラクタは、形容しがたい哀愁を感じさせる。僕はそっと、僕の「武器」をそこに並べて置いてみた。蠢く謎の物体と、スマートフォンの残骸。なかなか味のある取り合わせである。
「ってか、あんたこそ誰か連絡取れねえのかよ?」
「ロヴィの番号くらいしか知らないよ、俺たち」
「なんでだよ使えねえな! この偏屈!」
「必要ないからだ」
「今必要じゃねーか!」
要するに、誰とも連絡がつかない状況らしい。
二人が四人になっただけで、僕たちが孤立していることには変わりないようだ。
「……仕方ない。ひとまず今夜はこのまま籠城だな」
溜め息混じりのシャロンさんの言葉に、ロヴィはぱっと顔を綻ばせた。
「さんきゅー! 部屋は?」
「適当に使え」
「りょーかい!」
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