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ふいうちキッス

 ヘッドホンを買ったんだけど、イヤホンのが好きで、ヘッドホン捨てようと思うってゆーから。じゃあちょーだいって言ったら、いーよ取りに来いって言われた。

 ミー君の家は何度か来てるけど、何度来てもその大きさに慣れない。それでもミー君の部屋はだんだん居心地がよくなってきてる。

「じゃあそろそろ帰るな」
「おう」
「コレ、ありがと」

 居心地がよくて、つい長居をしてしまう。重い腰をあげて改めてお礼を言って部屋を出ようとしたんだ。

「やまだ」
「ん?」
「それ、貸して」
「へ?ああ、ハイ」

 名残惜しくでもなっただろうか? 手に持っていたヘッドホンをミー君に手渡すと、なぜかそれはオレの頭にセットされた。

「?」
「似合ってる」
「はは、ありが…ッ」

 ありがとうを、言い切る前に。押されて背が壁につく。ヘッドホンの両耳を抑える両手は、だけどそのために頬を支えるようでもあって。

「ンっ」

 ヘッドホンで音が消される。自然に閉じた瞼に世界が消される。今のオレにとって触れているミー君だけが、オレの世界で……

「っ、ミー、くん?」
「……帰っちゃうの?」

 唇が離されてようやく目をあけると、至近距離でミー君の瞳があった。そんな甘い囁きは、ずるい。
 なんでキスなんかするんだ、なんでって―――聞けないじゃん。


「ふいうちキッス」-END-
山田に片思いな南から
山下の恋人である山田へ
本気のキスを



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